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アレックス・タバロック 「ジーノエコノミクス ~(行動)遺伝学と経済学の融合に向けた試み~」

●Alex Tabarrok, “Genoeconomics”(Marginal Revolution, May 14, 2012)


ボストン・グローブ紙で興味深い話題が紹介されている(“In search of the money gene”)。テーマとなっているのは「ジーノエコノミクス」(genoeconomics;ゲノム経済学、遺伝子経済学)だ。

「ジーノエコノミクス」(genoeconomics)という言葉が生み出されたのは2007年のことだが、遡ること30年ほど前にその先駆けと呼べるような研究がチラッとその姿を垣間見せたことがある。ペンシルバニア大学に勤めていた故ポール・タウブマン(Paul Taubman)が1976年に公表した一卵性双生児の所得状況に関する論文1がそれだが、一卵性双生児の成年後の所得を比較したところ、お互いが得ている所得の水準が驚くほど似通っていることがわかったのである。そしてタウブマンは次のようなギョッとさせられる結論をもって論文を締め括ったのであった。稼得所得の分散の18~41%は遺伝的要因によって説明可能である、と。

この結論を耳にした当時の経済学者たちはどうリアクションしていいものか考えあぐねた。「政府が福祉サービスを提供するのはもうやめにした方がいい。タウブマンの発見はそういったことを意味しているのかもしれない」と冗談めかして語る者もいたようである。タウブマンの発見が仮に正しいようであれば、どんな対策を講じたところで貧しい状態から抜け出せない人々が少なからず存在することが示唆されるからというわけである。

・・・タウブマンの論文が発表されて以降しばらくの間は、遺伝子が人々の意思決定において重要な役割を果たすかもしれないというアイデアは経済学の世界においてはすっかり影を潜める状態が続くことになった。しかしながら、(ヒトゲノムの塩基配列の解析を目的とする)ヒトゲノム計画(Human Genome Project)を通じて2000年にドラフト配列の解読が終了したことをきっかけとしてそのような情勢に変化が見られることになる。ゲノムの解読結果を利用することで遺伝的要因の役割に関する(タウブマンの研究を筆頭とした)これまでの大雑把な推計結果よりもずっと精緻で信頼性のある結果が得られるようになるかもしれず、さらには遺伝子と行動との間の具体的なつながり(ある特定の行動に影響を及ぼしている遺伝子はどれか)が掴めるようになるかもしれないとの思いが多くの人々の頭をよぎり始めるようになったのである。

・・・次第に研究者の間では次のような事実と折り合いをつけようとする方向に意見が集約されつつある。その事実というのは、遺伝の影響が最も大きいと言われる身長のような属性(特徴)であってもそこにはわずか1つや2つの特定の遺伝子だけが関わっているわけではなく、何百通りもの-場合によっては何千通りもの-遺伝子の組み合わせが関わっているということ、そして遺伝子がどのように発現するかは育児環境をはじめとした環境的な要因から複雑な影響を受けるということである。レイブソンは次のように語っている。「どの方向を見ても当初予想されていたほどには見込みがありそうにはない2のが現状です。」

・・・データを収集するための新しいアプローチに希望が託されている。世界中の遺伝子研究の専門家の協力の下、何千、何百万もの人々の遺伝情報をもとにして何らかのパターンを見出そうとする試みがつい最近になって始められたばかりである。

この記事で名前が挙がっている「ジーノエコノミクス」の研究者たち-ダニエル・ベンジャミン(Daniel Benjamin)やデビッド・レイブソン(David Laibson)、デビッド・チェザリーニ(David Cesarini)ら-は、人々の属性や行動の源泉を遺伝子に求める可能性について幾ばくかの懸念を抱いているようである3。しかしながら、重大なニュースの大半は既に明らかになっており、その影響4は遺伝子型(genotype)においてよりも表現型(phenotype)において一層容易に見出せるということだ。

もっと詳しい内容を知りたければ彼らの論文(“The genetic architecture of economic and political preferences”)を参照されるとよいだろう。

  1. 訳注;Paul Taubman, “The Determinants of Earnings: Genetics, Family, and Other Environments: A Study of White Male Twins(JSTOR)”(The American Economic Review, Vol. 66, No. 5 (Dec., 1976), pp. 858-870) []
  2. 訳注;期待していたほどの研究成果が得られそうにはないという意味。 []
  3. 訳注;遺伝子と人々の行動(や属性)との間にそれなりにはっきりとしたつながりを見出すことがそもそもできるのかどうかわからないという意味で懸念を抱いているとともに、仮にそのようなつながりが見出せた場合にその知識が好ましくないかたちで利用されるようになるかもしれない(新たに人を雇う場合や銀行ローンや保険の審査などにあたって遺伝子情報が利用されたりするなど)と懸念を抱いているという意味。 []
  4. 訳注;遺伝子が行動や属性に及ぼす影響 []

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