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カデナ&コバック 「移民は地域格差を減らす」

●Brian C Cadena, Brian Kovak, “Immigrants reduce geographic inequality”(VOX, August 12, 2013)


<要約>

アメリカでは雇用機会を求めて長距離を移動する人が減り続けている。このコラムでは、アメリカのメキシコ移民に関する新研究を示し、労働力の効率的な空間配置には、大きな福祉利益があることを主張する。にもかかわらず、労働の移動による福祉利益の研究は非常に遅れている。移民がネイティブ(原住民)1よりも求職のための移動に積極的ならば、政策立案者はその移動を容易にすべきだ。労働者は、よりよい機会を与える市場に移動する自由を与えられるべきだ。

近年、アメリカ経済には気がかりな傾向があることに、経済学者は気づいた。雇用創出、雇用消失、転職のすべてが減っているのだ(Davis, Faberman, and Haltiwanger 2012; Hyatt and Spletzer 2013)。さらに、よりよい職を求めて長距離の移動を行う人々も減り続けている(Molloy, Smith, and Wozniak 2011)。このような減少が問題なのは、労働力のモビリティ(移動性)、特に地理的なそれは、経済活力の主な要因の一つであり、地域間の経済格差を減らす傾向があるからだ(Blanchard and Katz 1992)。また、特に低熟練労働者(高卒以下)は、仕事の先行きに変化があっても、都市や州を越えて移動することがあまりない、ということを、多くの研究が明らかにしている(Bound and Holzer 2000、Wozniak 2010)。

このような労働者が一箇所にとどまる傾向は、特に「大不況」2のような深刻な景気後退の際に問題になる。不況は、特に低熟練労働者にとっては、厳しい労働市場をもたらす(Hoynes 2002; Hoynes, Miller, and Schaller 2012)。その上、「大不況」のどん底では、都市間の格差が非常に大きかった。デトロイト、フェニックス、サクラメントなどの都市では、低熟練労働者の雇用減少率は20~25%もの高さだったのに対し、オースティン、オマハなどの都市では、わずかながら雇用が増えた。低熟練労働者が、最も痛手の大きい市場から、雇用の見込みの高い都市に移動してくれないと、経済は、都市間の就職率の変化が極めて不均衡になる可能性に直面する。

移民は格差を縮小する力として働く

ところが、就職先を選ぶ際に労働市場の状態に極めて敏感な、低熟練労働者の集団がある。それが移民だ。ジョージ・ボーハス(2001)は、アメリカに新たにやって来た移民が、見込み賃金のより高い州を選ぶ傾向があることを示した。したがって、移民の流入は、地域間の賃金格差を減らし、「労働市場の回転を滑らかにする」ために役立つ。筆者たちは新しい論文(Cadena and Kovak 2013)において、移民が「大不況」時にも重要な役割を果たし続けていたことを示した。筆者たちは、2006~2010年の間に、人口が景気後退の緩やかな都市へと組織的に移動した際に、特にメキシコからの低熟練移民の間に大幅な再配置があったことを発見した。この移動の約20%は、新たな移民がより堅調な労働市場を選択したことによって起こり、残りの80%は、すでにアメリカ国内にいた移民が、国内で移動したり完全に国外に脱出したりすることによって起こった。

メキシコ移民の感応性の強さを実証するため、筆者たちは、「大不況」中の雇用者がコストを削減する際に、賃金をカットするよりも雇用自体を減らす傾向が強かった、という事実(Daly, Hobijn, and Lucking 2012; Daly, Hobijn, and Wiles 2012; Rothstein 2012)を利用した。この賃金の下方硬直性から、特定の都市の労働需要低下の深刻度は、County Business Patterns(CBP)3の雇用数の変化を使って直接測れることがわかる。そこで、雇用減少の大きい都市から小さい都市へと、人口が失われたかどうかを調べてみることにした。4

大卒労働者の場合、あらゆる人口層において、期待される方向への大きなモビリティが見られた。対照的に、高卒以下の労働者の場合、堅調な労働市場に多数が移動したのは、外国生まれの者だけだった。さらに、この移民の移動感応性のほぼすべてが、メキシコ移民によって支えられているように見える。この集団に関しては、特定の都市の雇用減少率が1パーセント・ポイント上昇(下降)すると、メキシコ移民人口の成長率は0.75パーセント・ポイント下降(上昇)する。図1は、この非熟練のネイティブとメキシコ移民の関係における際立ったコントラストを示している。図中の円は、それぞれ特定の都市を表している。x軸は、2006~2010年の間のその地域の雇用の変化を示し、y軸は、同じ期間の人口増加率を示している。この図は、ネイティブの人口は雇用の変化にほとんど反応していないのに対し、メキシコ移民は顕著に反応していることを明瞭に示している。

図1 雇用ショックに対する人口の反応:

低熟練労働者のネイティブおよびメキシコ移民

移民は地域格差を減らす - 図1

このネイティブとメキシコ移民の感応性の差は、極めてロバストである。この論文では、この地理的な人口移動に関して、この移動は昔からの移民居留地からの拡散の過程であるとか、地域の移民排斥政策(アリゾナ州のSB 10705など)によるものであるといった可能性を含む、さまざまな異説の可能性を排除した。また、この再配置が不況前にはまだ起こっていなかったことも確認したし、2つの異なる操作変数を利用した戦略で逆の因果関係の可能性にも対処した。最終的に筆者たちは、メキシコ移民間の人口反応は、不況の底における地域格差によるものと結論した。

より堅調な労働市場への移動を厭わない移民の意欲は、平均すれば彼ら自身の雇用を改善する。その上、この移民のモビリティには副作用があり、このモビリティにより、ほとんどが元の場所に残りたがるネイティブ労働者の労働市場格差も減る傾向があることがわかった。メキシコ移民労働者が雇用減少率の最も大きい都市から離れると、残った労働者間の求人競争率も低下するので、残った労働者も仕事を見つけやすくなる。同様に、メキシコ移民がより堅調な労働市場に流入すると、競争率は高くなり、同程度の熟練度のネイティブの採用確率が下がる。したがって、「大不況」時にネイティブが経験した都市間の格差は、メキシコ移民のモビリティによって部分的に均等化されている。

この点を実証するために、筆者たちは、ネイティブの就業率の変化が、都市全体の雇用減少とどの程度の相関関係があるかを測った。軟調な市場から堅調な市場へと労働者が移動する、極めて流動性の高い労働市場では、そのような関係は見られないはずである。十分な移動を仮定すると、雇用減少の格差にかかわらず、最終的にはあらゆる都市の労働者が平等に雇用されるはずである。大きな人口反応が見られるのはメキシコ移民の間だけなので、この移動要因の大きい都市ほど、地域の景気後退との関係は小さくなるだろうというのが自然な仮説である。この仮説を立証するため、歴史的に多くのメキシコの移民を惹きつけてきた都市(ダラス、ロスアンジェルスなど)と、比較的少ない移民しか来なかった都市(マイアミ、フィラデルフィアなど)の二つにサンプルを分けた。予想通り、歴史的に多くのメキシコ移民労働者を惹きつけてきた都市の、地域の雇用削減とネイティブの雇用確率の相関関係は相対的にかなり小さかった。これは、メキシコ移民のモビリティが持つ平等化効果を明瞭に示している。

図2 メキシコ移民のモビリティがネイティブの雇用をスムーズにする:低熟練ネイティブ男性の雇用/人口比と雇用数の変化移民は地域格差を減らす - 図2

図2は、この比較を視覚的に表現したものである。グレーの三角形は、メキシコ移民労働者の比率が高く、したがって、低熟練労働力のモビリティの高い都市を表している。黒い円は、メキシコ移民の比率の低い都市を示している。フィッティングした直線が示すように、モビリティの高いメキシコ移民労働者の多い都市では、ネイティブの雇用確率とその都市内の雇用減少との相関は相対的に小さかった。

移民のモビリティの価値

つまり、移民のモビリティは、労働供給を需要の最も大きい地域に割り当てる働きをする。その結果、都市間の就業率の格差は、移動したがる労働者がいない場合よりも小さくなる。極端な低就業率を避けることには高い価値がある。なぜなら、長期間の失業は、求職意欲を失った労働者が市場から退出することにより、労働者としてのスキル評価が下がるといった、恒久的な結果を残す可能性があるからである。本稿の結果は、どの都市も同じように平均以上の雇用減少を経験していたにも関わらず、メキシコの移民比率の高いフェニックスやリヴァーサイドのような都市のネイティブの方が、メキシコ移民人口の少ないデトロイトやパームビーチのような都市のネイティブよりも、恵まれていたことを示している。

ただし、この結果は、このような恩恵が「タダ」であることを意味しない。筆者たちの分析は、少なくとも「大不況」の間は、低熟練の移民とネイティブが労働市場で実際に競合していたことを示唆している。相対的に堅調な労働市場のネイティブは、残った求人に関して、流入する移民がいなかった場合より、より激しい競争に直面していた。つまり、メキシコ移民のモビリティは、労働市場の保険のように機能し、堅調な労働市場の過熱を抑制しながら、最悪の労働市場のリスクを低下させる。したがって、事前の視点から見れば、移民比率の高い市場の低熟練労働者がリスク回避的であれば、効用は増えることになる。

結論

労働の効率的な空間割り当てによる福祉利益は重要だが、その研究は遅れており、移民政策決定時にはその利点を考慮すべきだ。この論文では、アメリカが低熟練移民を増やすべきか減らすべきかという疑問には答えていないが、本稿の結論は、移民全体の数に関わらず、移民の地理的柔軟性を維持することには価値があることを示している。もちろん、メキシコ移民が異なる政策体制の下でも感応的であり続ける保証はない。例えば、今のところメキシコ移民は、同程度の熟練度のネイティブに比べれば、失業保険給付を受ける可能性ははるかに低く、そのため新しい仕事を探す必要性も大きい。とは言え、需要の変化に応じて移動する意欲を移民がより強く示し続けている限りは、その移動を認めることに利点があることを、この研究は証明している。最近通過した上院移民改革法案(S.744)6では、低熟練労働者向けに、労働者を特定の雇用者や場所に制限しないような、新しい一時的出稼ぎ型労働者プログラム(W-ビザ)を作ることになっている。労働者は、よりより機会を与える市場に自由に移動できるようになる。そして、この研究が示唆するところによれば、この法律は、移民政策全体の望ましい構成要素になるはずである。


参考文献

●Blanchard, Olivier Jean and Lawrence F Katz (1992), “Regional Evolutions”, Brookings Papers on Economic Activity 1, 1-75.

●Bound, John and Harry J Holzer (2000), “Demand Shifts, Population Adjustments, and Labor Market Outcomes during the 1980s”, Journal of Labor Economics, 18(1), 20-54.

●Borjas, George J (2001), “Does Immigration Grease the Wheels of the Labor Market?”, Brookings Papers on Economic Activity 1, 69-133.

●Cadena, Brian C, and Brian K Kovak (2013), “Immigrants Equilibrate Local Labor Markets: Evidence from the Great Recession”, NBER Working Paper 19272.

●Daly, Mary, Bart Hobijn, and Brian Lucking (2012), “Why Has Wage Growth Stayed Strong?“, FRBSF Economic Letter 10, 1-5.

●Daly, Mary C, Bart Hobijn, and Theodore S Wiles (2012), “Dissecting Aggregate Real Wage Fluctuations: Individual Wage Growth and the Composition Effect“, FRBSF Working Paper 23.

●Davis, Steven J, R Jason Faberman, and John Haltiwanger (2012), “Labor Market Flows in the Cross Section and Over Time”, Journal of Monetary Economics 59, 1-18.

●Hoynes, Hilary W, Douglas L Miller, and Jessamyn Schaller (2012), “Who Suffers During Recessions?“, The Journal of Economic Perspectives 26(3), 27-47.

●Hoynes, Hilary W (2002), “The Employment, Earnings, and Income of Less Skilled Workers over the Business Cycle“, in David Card and Rebecca Blank (eds.), Finding Jobs: Work and Welfare Reform, Russell Sage Foundation, Chapter 1, 23-71.

●Hyatt, Henry R, James R Spletzer (2013), “The Recent Decline in Employment Dynamics”, US Census Bureau Center for Economic Studies Paper CES-WP-13-03.

●Molloy, Raven, Christopher L Smith, and Abigail Wozniak (2011), “Internal Migration in the United States”, Journal of Economic Perspectives 25(3), 173-196.

●Rothstein, Jesse (2012), “The Labor Market Four Years into the Crisis: Assessing Structural Explanations“, Industrial and Labor Relations Review 65(3), 467-500.

●Wozniak, Abigail (2010), “Are College Graduates More Responsive to Distant Labor Market Opportunities?”, Journal of Human Resources 45(4), 944-970.

  1. 訳注: 「native」の訳。この訳も結構悩んだ。この文脈の「native」は「アメリカで生まれた人」ぐらいの意味で、先祖代々アメリカに住んでいた人という意味ではないんだが、日本語で「原住民」と訳してしまうと、そういうニュアンスが出てきてしまい、「アメリカの原住民は『インディアン』だろ? それ以外はヨーロッパやアフリカからの移民じゃん!」と言われてしまう。でも、他にいい訳を思いつかなかった。 []
  2. 訳注: 「Great Recession」の訳。このサイトの愛読者の方には釈迦に説法だろうが、一応解説すると、これは頭文字が大文字になってるのがミソで、単なる「大きな不況」を表す普通名詞ではなく、2007~2008年の世界同時不況を指す固有名詞である。日本ではそれほどポピュラーな用語ではないので、誤解のないように括弧をつけた。似た言葉に「Great Depression」というのがあり、こちらも「大きな恐慌」を表す普通名詞ではなく、1930年代の世界恐慌を指す固有名詞である。 []
  3. 訳注: 米国勢調査局で公開している統計データの一つ。定訳がなさそうなので英語のままにした。 []
  4. 原注: CBPデータは、業界別であって、学歴別ではない。この論文では、不況の前の業界の(各熟練度グループの)比率を重みとして利用して、業界別の雇用減少の重み付き平均を計算し、熟練度別の雇用の減少を求めた。 []
  5. 訳注: 「Support Our Law Enforcement and Safe Neighborhoods Act」(法執行と地域の安全を確保する法)の通称。移民に厳しいことで知られ、違憲判決を受けるなど物議をかもしている。 []
  6. 訳注: 「Border Security, Economic Opportunity, and Immigration Modernization Act of 2013」(2013年国境警備・経済機会・移民制度現代化法)。「W-ビザ」という新種のビザの制定が含まれる。 []

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