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ガラッソー他 「女性を説得できないのはどんなとき?-保育の調査からわかったこと」

●Vincenzo Galasso, Paola Profeta, Chiara Pronzato, Francesco C. Billari, “The difficult case of persuading women: Experimental evidence from childcare”(VOX, November 16, 2013)


<要約>

就労率の性差は、いまだに縮まっていない。これには、さまざまな要因の中でも、文化的な要因が影響している可能性がある。このコラムでは、イタリアの女性を対象に行われた、公式保育1が子供の成績に与えるメリットに関する実証研究について説明する。教育水準の高い女性は、公式保育に関する情報に、肯定的な影響を受ける。しかし、教育水準の低い母親は、保育施設の利用や労働供給を増やすことはない。

ジェンダー・ギャップについて議論される機会は増えているが、にもかかわらず、まだまだ多くの国では大きなジェンダー・ギャップが残っている。ヨーロッパ諸国の多くでは、労働市場の男女差はかなり大きい。2012年におけるEU 27カ国の就業率は、男性74.6%に対し、女性62.4%であった。しかし、このヨーロッパ諸国間には少なからぬ格差が隠れている。女性就業率は、アイスランドが最高で79.1%(男性84.4%)、スカンジナビア諸国でも70%を超えるが、イタリアではたったの50.5%(男性71.6%)だし、ギリシャやマルタではもっと低い。

このようなギャップが縮まらない、あるいは、少なくともなかなか縮まらないのはなぜだろうか。学者の中には、労働市場の家族に優しくない制度や、家族に優しくない「家族政策」を原因だと考える者もいる(Del Boca 2002、Del Boca et al. 2009)。しかし、このようなジェンダー・ギャップの存在や残存には、文化面も重要な役割を果たしていることが示されている(Fernandez 2007)。男女の社会における役割、家庭内での責任、労働市場における地位に対する文化的・社会的評価は、労働市場への参加、教育に関する意思決定、キャリアプランなどはもちろん、出生率にすら大きな影響をあたえる。このような認識は、男性間ばかりでなく、女性間でも確立されている。たとえば、子供の面倒を見る役割には、女性の方が向いていると思われがちなので(そして本人もそう思いがちなので)、女性は保育を他人に任せるのを控える傾向がある。同時に、母親と仕事のキャリアの両方で成功するチャンスについて、女性自身が懐疑的であったりする。さらに、このようなジェンダー文化は根が深い。親は自分の価値観を子に伝えたがることが多いし、自分の選好に関わらず、支配的な文化に対応する最善の方法を子に教えることを選ぶので、選好は前の世代から次世代へと伝えられる傾向がある。

ジェンダー文化を変えるにはどうしたらよいだろうか?

フォグリとフェルトカンプ(2011)がアイデアをいくつか提案している。彼らは、このようなジェンダー・ステレオタイプの世代間伝達を断ち切るために、知識や情報が重要な役割を果たすことができる、と示唆している。彼らの経験的な分析が示しているのは、女性は、働く母親が子供にどんな影響を及ぼすかを、前世代の身近な働く女性を観察することによって学び、その影響が必ずしもネガティブでないことを理解するということだ。このような女性は、最終的には仕事と家庭の両方を維持することができる。その結果、女性の就労率は増える。したがって、根強いジェンダー・ステレオタイプの原因は、労働市場に参加した結果、子供の心理や成績にどのような影響があるかといった情報が、女性に不足していることにある可能性を、この研究は示唆している。

このような情報の経路についてより深く調べるため、筆者たちは、公式保育が労働市場や育児活動に与えるメリットについての情報を女性に提供するという公共政策の効果の、直接試験を行った。そのため、生殖可能年齢のイタリア女性をサンプルとする調査実験を計画した。目標は、公式保育が子供の成績に与える肯定的な結果に関する情報を提供して、この問題に関する知識を増やすことが、公式保育の利用、労働市場への参加、家庭内での育児の方法などについて女性が行う意思決定に、因果的な影響を与えるかどうかを調べることである。特に、このような肯定的情報は、公式保育センターの利用に関する親の潜在的な疑念を減らし、その利用を促進することが期待される。そして、公式保育のより大幅な利用は、イタリア(に限らないが)における家庭内育児の主な担い手である母親が、市場活動に参加する時間を増やすことを可能にするだろう。

この実験の情報トリートメント2は、公式保育が子供の将来の学校の成績をよくすることに関する、テキストとビデオの二種類の説得的コミュニケーションから構成されている。この情報トリートメントの内容は、デイケア保育が子供の学校の成績に肯定的な影響を与えるという、ドイツ、イタリア、ノルウェーで行われた最近の研究(Felfe and Lalive 2010、Havnes and Mogstad 2011、Brilli et al. 2011)から借りてきた。この情報は、保育の利用を増やし、さらに労働供給を増やすように、女性を説得することができるだろうか。

この問題の解答を得るため、20~40歳のイタリア人女性1,500人のサンプルが、無作為に3つのグループに割り当てられた。

  • 1番目のグループには、テキスト・メッセージによるトリートメントが行われた。つまり、このグループの女性に対しては、デイケア保育の利点を説明するテキスト・メッセージが画面に表示された。
  • 2番目のグループには、ビデオ・メッセージによるトリートメントが行われた。つまり、デイケア・センターで6カ月~3歳の子供が活動しているところを写したビデオが表示され、バックグラウンド音声として、1番目のグループに表示されたものと同じ、デイケア保育の利点に関するメッセージが読み上げられた。
  • 3番目のグループは対照群で、トリートメントは受けず、ゆえに、なんの情報も受け取らなかった。

トリートメントの前には、年齢、配偶者の有無、子供の数と年齢、国籍、学歴、職歴を質問した。トリートメントの後には、全女性に対し、さまざまな問題に関する複数の質問を行った。それがこの実験の結論を構成する。行われた質問は以下のようなものである。

  • 公式保育を利用したい(そして、それに金を払ってもいい)という意欲。
  • 労働市場への参加意欲(外延的・内延的3の両方を含む)。
  • 他の家族構成。

筆者たちの実験結果は、保育を受けた子供の学業における優位性に関する情報は、女性の労働供給の意欲を低下させることを示唆している。この驚くべき結果には、不均一で強力な効果が隠れている。子供を持ちたいと考え、ゆえに将来の保育や労働に関する選択を考えている可能性のある、まだ子供のない女性たちは、学歴によってきれいに分かれる。教育水準の高い女性は、情報トリートメントに反応して、公式保育を利用する意欲を増し、それに支払う金額が増えてもよいと考える。一方、教育水準の低い女性は、公式保育に関する判断を変えるどころか、労働供給の意欲まで低下させてしまう。

この驚くべき結果をどのように解釈すればよいのだろうか?

学歴は、女性の仕事上の能力のタイプや、キャリア志向型か母親志向型かといったアイデンティティに依存する可能性がある(Akerloff and Kranton 2000)。能力が高くキャリア志向の女性は、より高い教育を受け、その結果より高い賃金を稼ぐ確率が高い。したがって、公式保育利用の利点に関する情報は、彼女たちが自分の子供を公式保育に送るという決断を後押しする。逆に能力が低く母親志向の女性は、教育を受けず、低賃金に甘んじる確率が高い。彼女たちにとって、公式保育や幼児期投資一般に関する新たな知識は、自らの母親としての役割を強化することになる。これは、彼女たちの母親育児の選好と、低賃金に由来する金銭的なインセンティブとの、両方が原因である。

このような不均一な効果の存在には、重要な政策的含意がある。保育の利用に関する公共政策は、母親の保育に関する意思決定が、(低賃金の母親の場合にように)予算制約ばかりでなく、母親としてのアイデンティティにも依存していることを認識する必要がある。(教育水準の低い)母親の一部は、家族に優しい制度が利用できる場合であっても、自分の子供の育児に中心的な役割を果たし続けることを選ぶ可能性がある。


参考文献

●Akerlof, G and Kranton,(2000) “Economics and IdentityQuarterly Journal of Economics 115(3): 715-753.

●Brilli Y, Del Boca D, Pronzato C (2011), “Exploring the Impacts of Public Childcare on Mothers and Children in Italy: Does Rationing Play a Role?”, IZA DP 5918.

●Del Boca, D (2002), “The Effect of Childcare and Part Time Opportunities on Participation and Fertility Decisions in Italy”, Journal of Population Economics 15(3): 549-573.

●Del Boca, D, Pasqua, S and Pronzato, C (2009), “Motherhood and Market Work Decisions in Institutional Context: a European Perspective”, Oxford Economic Papers.

●Felfe C. and Lalive R (2010), “How Does Early Childcare Affect Child Development? Learning from the Children of German Unification”, CESifo Area Conference on Economics of Education, Center for Economics Studies, mimeo.

●Fernàndez, R (2007), “Women, Work and Culture”, Journal of the European Economic Association 5(2-3): 305-332.

●Fogli, A and Veldkamp, L (2011),“Nature or Nurture? Learning and the Geography of Female Labor Force Participation”, Econometrica, 79(4): 1103-1138, 07.

●Havnes T and Mogstad M (2011), “No Child Left Behind. Universal Childcare and Children’s Long-Run Outcomes”, American Economic Journal: Economic Policy, 3, 97-129.

  1. 訳注: 「formal childcare」の訳。国によって微妙に定義は違うが(参考 12)、大雑把に言えば、親や家族や親戚や無認可の営利企業による保育が「informal childcare」、公的機関や認可を受けた営利企業による保育が「formal childcare」と呼ばれるようだ。 []
  2. 訳注:「informational treatment」の訳。「treatment」は、実験計画法では「処理」、疫学では「治療」と訳されることが多いが、「情報処理」では違う意味になってしまうし、「情報治療」では洗脳みたいだし、ということでカタカナ訳でごまかした。もっといい訳があったら教えてください。 []
  3. 訳注:「extensive margin」「intensive margin」の訳。意味はこちらなどを参照。まあこの文脈では、新たに職を求めるか、それとも、今の職のままで労働時間を増やすか、ぐらいの解釈でいいと思う。 []

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