経済学101は主に皆様の寄付によって賄われています。温かい支援をお待ちしています

ギャニオン: QEの財政へのメリットはコストを上回る

Joseph Gagnon, “QE’s Fiscal Benefits Outweigh Any Fiscal Costs”, PIIE Realtime Economic Issues Watch.


Joseph GagnonはPeterson Institute for International Economics (PIIE) の上席研究員である。米財務省や米国の大学で教鞭をとった後、FRB金融政策局の外部副局長、国際金融局の副局長などを歴任した。スタンフォード大学よりPh. D. を授与。


今週のキャピトル・ヒルでの証言で、FRB議長のバーナンキは下院議員からいくつかの重要な質問を受けるだろう。その中でも答えるのが最も簡単な質問は量的緩和(QE)がFRBのバランスシートにリスクをもたらすかどうかである。バーナンキは潜在的な将来の損失の政治的影響について懸念するかもしれないが、そのような損失を十分相殺する以上の利益を財務省にもたらし、QEは我が国の負債を間違いなく減らすということを彼はよく知っている。

FRBが抱える潜在的な将来の損失は最近のFRBの研究(Carpenter et al. 2013 [pdf])とIMFスタッフによる研究(IMF 2013) [pdf]で検討されている。そこでは2、3年先のFRBの利益が、特にFRBがインフレ率の上昇と戦うために急激に金利を上昇させた場合には、通常を下回ることが示されている。IMFの「テールリスク」シナリオはこれら2つの研究で検討されているシナリオの中でも最も悲観的なものである。この起こりそうにない想定では、短期金利は600ベーシスポイント(6%)上昇し、長期金利はいつと特定されていない将来の時点において突然400ベーシスポイント(4%)近く上昇することになっている。IMFによれば、このシナリオではFRBが保有する資産の市場価値はGDP比で4.25%減少すると試算している1。FRBのバランスシートは時価会計ではないし、いずれにせよ、独占的な法定貨幣の供給者であるFRBが正の純資産を持つ必要はないのだ2。しかし、金利がIMFの「テールリスク」シナリオで想定されている水準でどのくらいの期間推移するかによっては、FRBは財務省に国庫納付金を納めることができない期間が長期にわたって生じる可能性がある。このこと自体は連邦政府の赤字を増加させ、長期的には徐々に政府債務を増加させるであろう。

しかし、この仮説的な状況でFRBが受ける将来の損失は全体の中のごく一部である。QEがアメリカの債務負担へ与えるトータルな効果を計測するには、国庫納付金の減少に加えてもう一つのマイナスの影響(債務負担の増大につながるもう一つの要因)とそれを相殺する4つのプラスの影響(債務負担の軽減につながる要因)を考慮に入れなければならない。QE以前のレベルへの金利の上昇は財務省の借り入れコストを一時的に上昇させるというのがマイナスの影響である。

一方で、このマイナスの影響を相殺するプラスの影響としては、(1)金利の上昇に先立つQEの実施期間中においてFRBが手にすることになる利益、(2)金利の上昇に先立つ期間において財務省が極めて低い金利で長期国債を発行できる(極めて低い金利で長期の借り入れができる)可能性、(3)QEによってもたらされるより高い成長率とより高いインフレ率を通じた税収の増加、(4)より高いインフレ率を通じた政府債務の実質価値の低下、の4つを考えることができるだろう。

2009年の終わりに、私はこれらすべての要素について検討し、アメリカの将来の債務負担に対するQEの大幅な拡大(QEの拡大規模としては、ちょうど今秋(2013年の秋)にFRBのバランスシートが到達すると想定されている程度の規模を想定)がもたらす効果を試算した。IMFのテールリスクシナリオに概ね似たシナリオで私はQEの拡大が連邦債務の対GDP比を恒久的に1%ポイント引き下げることを見出した3。また、現在の金融市場の予想とより整合的なシナリオでは、QEの拡大が債務比率を3%ポイント近く恒久的に下落させることが分かった。

これらの推計にはQEのすべての潜在的なコストを加味してあるが、潜在的なベネフィットについては必ずしもそうではない。なぜなら2009年に実行された最初のQEのベネフィットを含まなかったからだ。

加えて、低金利が持続する期間の仮定が、テールリスクシナリオでは1年、ベースラインシナリオでも2年となっていたが、実際には低金利状態がすでに4年以上が過ぎている上に、さらに今後1年か2年続くことは間違いないであろう。

現在の名目債と物価連動債のイールド(つまりBEI)から示唆されるように、仮にインフレ率が2%付近にとどまり、金利が徐々に平常状態に戻るなら、FRBは今後数年にわたって通常よりも低い利益を計上するであろう。しかしながら、2015年以降のFRBの平常以下の利益の割引現在価値は2009年から2015年に計上することになる、2009~2013年に関しては実測値、2013年~2015年に関しては予測値でそれぞれ測った平常以上の利益よりも小さく、それゆえ、QEは差し引きしてわずかながらもFRBにとって利益になると予想されるのである4。同様の仮定のもとで、財務省は2015年以降の上昇した金利負担のオフセットなしで、少なくとも2009年-15年に発行された長期国債の金利負担を対GDP比で2%減らすであろう5

さらに、QEは経済活動とインフレを刺激することで税収を増加させた。FRB副議長のジャネット・イエレンはJanet Yellen (2013) でFRBによる5000億ドルの長期国債購入は、主に税収の増加を通じて、長期的に対GDP比1.5%の負債減少をもたらすだろうと試算している。2014年の初頭までにFRBは合計4兆ドルの長期国債を保有することになると予測されているが、この数字を先のイェレンの試算にあてはめるとQEはGDPの12%分のアメリカの債務負担を軽減させることになる。テールリスクシナリオではイエレンが想定した仮定のもとでのものよりも債務比率の減少率は2%ポイントほど低下する6

私の考えでは、最近の連邦財政赤字に関する良いニュースはFRBのQEによるところが大きい。FRBのバランスシートについての将来の潜在的損失についての懸念は誤りであるし、筋違いなのである。

  1. この推計は2013年の長期国債の総購入額を約1兆ドルと仮定している。 []
  2. 例えば、チリの中央銀行は外貨準備の損失から何年にもわたって債務超過状態であった。中央銀行が債務超過に陥ったことはチリが20年以上にわたってラテンアメリカでの経済成長のスターになることの妨げにはならなかった。 []
  3. テールリスクシナリオで、7年満期国債の利回りが5%に恒久的に上昇、FFレートは6%にジャンプし2年後に徐々に4%に戻ると仮定し、インフレ率はわずかに2%に上昇したと仮定した。金利の上昇の想定を高めるほど債務比率は上昇し、インフレ率の想定を高めるほど債務比率は減少する。 []
  4. この評価はCarpenter et al の図3と図12から得られる []
  5. 財務省によれば、2009年から12年にかけて発行した満期が2年以上の財務省証券のネットの総額は5兆ドル以上である。2013年と2014年にさらに1兆ドル発行される見通しである。これらの証券の平均満期が7年であるとし、QEによって利回りが1%ポイント低下すると仮定すると、節約したネットの金利の現在価値は対GDP比で2.7%に上る。 []
  6. これはテールリスクと均衡短期金利との差の2年間にわたる累積値に(民間で保有される長期国債残高)-(FRBが保有する長期国債残高)+(準備預金に対する付利)を乗じたものに等しい。これは、ほとんどの長期国債が2年ではロールオーバーしない上に、長期金利は短期金利ほど上昇しないことを考えると、コストを過剰に評価しているが、この期間にロールオーバーされる長期国債の金利は借り換えに際して上昇し、2年以上続くであろう。 []

About Takayuki Takinami

コメントを残す