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クルーグマン「《真理》を手にしてる人間に証拠なんて必要かね?」

Paul Krugman, “Who Needs Evidence When You Have ‘The Truth’?,” Krugman & Co., December 12, 2013.


《真理》を手にしてる人間に証拠なんて必要かね?

by ポール・クルーグマン

PARESH/The New York Times Syndicate

PARESH/The New York Times Syndicate

「ECB・ウォッチャー」ウェブサイトでは,欧州中央銀行 (ECB) のチーフエコノミスト,ピーター・プラートのスピーチを「混乱を招く」と評して伝えている(LINK).ただ,ここにはべつに混乱するようなことはなかったりする――なにかわかりかねるものがあるとしても,そのありかは状況の根っこにある政治経済なんだ.

スピーチから察するに,プラート氏は完全に道理の判った経済学者らしい.おそらく,ECB にいる彼の同僚も多くがそうなんだろう.ECB 総裁のマリオ・ドラギなんかも含めてね.ただ,彼らが仕事をしなくちゃいけない環境では,欧州の「お真面目なみなさん」がいまだに巨大な権力を握っている.あのお真面目なみなさんは,空論家でもあるし,いくつか重要な点で反知性主義者でもある.

さて,そのプラート氏のスピーチだ.ここで興味深いのは,彼がじぶんのことを「完璧に道理の判った経済学者」だと誇示している点だ.2つのゼロの問題,金利のゼロ下限という問題と工夫してうまく名目賃金を下方に動かす大変な難しさという問題をよく承知しているのだと,プラート氏は誇示している.その結果,欧州問題に関する彼の基本的な思考の枠組みは,ぼくのと本質部分で区別がつかないように見えている.「ECBウォッチャー」が書いているように,この枠組みは穏当なインフレには有用な役割があると考える.つまり,金利のゼロ下限を避けるのにも,内的切り下げの経路を容易にするのにも,役に立つと考える.そうすると,いったいどんな計算を経て,インフレ率の目標が「2パーセントに近く,だがこれを下回らない」のが妥当で,たとえば3~4パーセントじゃないという考えにいたるのか,たしかに不思議に思わざるをえない.

いや,実は不思議でもなんでもないんだけどね.プラート氏が内心でどう思っていようと,彼と彼のボスは欧州のお真面目なみなさんに対応しなくちゃいけない――連中は,どんな状況だろうととにかく緊縮すべきと信じ込み,ドイツ連邦銀行総裁イェンス・ヴァイトマンの発言にみられるよなことも口にする:「造幣機は,[欧州の問題を]解決する方法とはなりません」とかね.あたかも自明な真理であるかのように,この発言はなされた――でも,「完璧に道理の判った経済学者」なら,造幣機は解決策にならないどころか,欧州の問題解決に大きな助けとなりうるんだってことがカンタンに理解できるはずだ(ちょうどプラート氏のように).

この1年あまりで,ぼくらは悲しいけど刮目すべきことを学んだ.それは,知的議論がいかにものを言わないかってことだ.財政緊縮でも金融政策でも,完璧に道理の判った経済学者たちは,お真面目な皆さんをこてんこてんに完膚無きまでに叩きつぶしてきた――インフレ忌避派も,拡張的緊縮派も,債務90パーセント閾値派も,みんな証拠の前に自説が崩壊するのを目の当たりにしてきた.なのに,政策はほとんど変わっちゃいないし,お真面目なみなさんはいまだに「我こそ真理の保有者」とばかりの口調で語り続けている.

とはいえ,ECB にも道理の判った経済学者がいるってことがわかったのはいいことかもしれない.彼らの知識は大して問題にならないらしいとしてもね.

© The New York Times News Service


財政政策の「三ばか大将」理論

「三ばか大将」映画のどれだったか,こんなシーンがある(どれか分かる読者は教えてほしい).カーリーが繰り返し壁に頭を打ち付けるシーンだ.モーが,なんでそんなことしてんの,と尋ねると,カーリーが答える.「だって,やめると具合がよくなるんだもん」

なかなかのジョークでしょ.ただ,これがいま,財政政策の支配的な理論になっちゃってるのはいただけない.経済学者の Antonio Fatas が最近オンラインの文章で指摘したように,かつて緊縮を強制された国々のなかに――経済縮小が何年も続いたあとで――ようやくちょっぴり経済成長を見せ始めているのを取り上げて,緊縮派は「これこそ自説の正しさの証拠だ」と言い張っている.Fatas 氏が書いているように,ダメ政策が継続し,さらには悪化しつづけでもしないかぎり,ふつうは経済って遅かれ早かれ成長する傾向があるんで,こうした国々の経済成長の理由もそれだ.緊縮は相変わらず厳しいけれど厳しさを増してはいないんで,いくらか経済成長がなされるのも別に吃驚仰天するようなことじゃあない.それに,こうした国々にしても,緊縮がなされなかった場合をはるかに下回っている.

でもさぁ,壁に頭を打ち付けるのをやめると少なくとも相対的にはいい感じになるじゃん.やっぱり緊縮は正解だよねー!

かくして,現状にいたる:欧州の政策当局が,モーやラリーやカーリーと同じ水準の分析的厳密さと知的明晰さにまで到達してくれるといいですね.まる.

© The New York Times News Service


【バックストーリー】ここではクルーグマンのコラムが書かれた背景をショーン・トレイナー記者が説明する

デフレの不安

by ショーン・トレイナー

この数週間に,欧州中央銀行の理事会メンバー数名が,より積極的な金融刺激策を使って欧州経済を加速しデフレを回避することについて,おおやけに論じ始めた.そのなかでもいちばん目立つのは,ECB の理事でありチーフエコノミストでもあるピーター・プラートだ.先月,『ウォールストリートジャーナル』のインタビューと,『ユーロ・ファイナンス・ウィーク・カンファレンス』でのスピーチで,プラート氏はこう発言した――同銀行が欧州の経済的苦境に対応する際には,あらゆる政策の選択肢が考慮される,これには資産購入(量的緩和の名で知られる行動)も含まれる.この資産購入は,これまであまりに過激だと考えられてきた方法だ.

欧州で危機が長引いているにも関わらず,ECB は世界各国の中央銀行とくらべて保守的な金融政策を追及してきた.その理由は,ひとつには,同銀行が責任を持つ加盟国の利害は衝突しているからでもあるし,また,ECB の責務は限定されているためでもある.ECB が責務を負うのはインフレの制御だけであって,アメリカの連銀のように雇用の増加には責務を負わないのだ.

ただ,10月にユーロ圏ではインフレ率がいきなり下落し,ユーロ通貨圏がまもなく「デフレ」の物価下落を経験することになるかもしれないとの懸念が広まった.デフレは,目下の危機をさらに大幅に悪化させうる.なぜなら,物価が下落すれば企業の収入も減り,すると賃金を切り下げざるをえず,需要をいっそう低迷させることになるからだ.また,消費者たちが将来の物価下落を予想した場合,彼らはいまの支出をへらし,さらに需要を低下させることになる.多くの経済学者によれば,不十分な需要はすでに欧州の冴えない経済回復の要因となっているし,デフレにさらなる削減が加われば欧州のきわめて遅い経済成長,あるいはゼロ成長はさらに何年も続いてしまうという.

プラート氏の発言はやがて追加刺激策の採用につながるかもしれないものの,より積極的な政策への移行には同銀行のより保守的なメンバーからの反対にある見込みが大きい.また,ユーロ圏最大の経済大国であるドイツも反対するだろう.ドイツの指導者たちはいまも穏やかな水準のインフレにすら反対しているのだ.

© The New York Times News Service


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