クルーグマン「アメリカの新たな雇用の現実」

Paul Krugman, “America’s New Employment Reality”, October 11 2013.


アメリカの新たな雇用の現実(2013年10月11日)

by ポール・クルーグマン

Jenn Ackerman/The New York Times Syndicate
Jenn Ackerman /The New York Times Syndicate

何年にもわたって,ぼくみたいな連中は,雇用をめぐってこんな主張をする人たちと,繰り返し論争してきた.その人たちに言わせると,「失業率が高くなってる理由は,アメリカの労働者たちが21世紀経済に必要な技能をもちあわせていないから」なんだそうだ.この主張には,明言されないもののたいていこんな含意がともなう――そこで話題にしてるのはテクノロジーにかかわる技能,科学と数学の知識,そして一般に最先端の技能だ,という含意だ.

ぼくの側からの反応はいつでもこれだ:「お金はどうなってんのよ」

特定の技能の供給が足りてないっていうんなら,その技能をもってる労働者でプレミアム賃金を提示されてるのを見せてごらんなさいな.必要な労働者を訓練するために実際にお金をかけてる雇用主を見せてみてよ.

たしかに,このまえ『ニューヨークタイムズ』は技能のある労働者が足りてないためにある産業の復活が妨げられていて,急激に賃金が高まり訓練への投資がなされるようになってるっていう,面白い記事を掲載してたね.

その技能は何って? ミシンの操作ですけど.

ちなみに,グローバル化がいきおいをなくしてきてる可能性についてぼくが最近書いた文章と,その記事はつながりがある.被服工の需要が増加している理由は,アパレル産業の「国内回帰」が穏やかながらも顕著に進んでいる点にある.

一般に,アメリカの製造業が復活してるとすれば,ぼくらが本当に必要としてるのは大量の手作業の技能だってことが見えてくるはずだ.ちょっとさかのぼって2007年には,ミシン工や配管工といった人たちが不足していた.これがまた起ころうとしてるのかもしれない.

きっと,多くの人が予想してた未来はこういうんじゃなかっただろうね.でも,なにも仕事がないよりはマシだ.

© The New York Times News Service


【バックストーリー】ここではクルーグマンのコラムが書かれた背景をショーン・トレイナー記者が説明する

産業の復活 (Industrial Revival)

by ショーン・トレイナー

近年,アメリカの製造部門は穏やかな復活を経験している.多くの政治家は,これこそ未来の雇用創出と経済成長のエンジンだと吹聴してる.でも,アナリストのなかにはこう考える人たちもいる――いちばんうまくいった場合のシナリオでも,アメリカの工場が雇用するのはかつて必要とされていた労働者の一部にとどまる,なぜならオートメーションがさらに進んでいるからだ,と.

20世紀をとおしてずっと,アメリカの労働力のうち,かなりの割合は製造業で雇用されていた.でも,1990年代に企業は発展途上国に自分たちの業務をうつした.途上国の方が労働コストがずっと安上がりだったからだ.その結果として,アメリカでは労働組合に組織されていた職業がたくさん失われ,組合のない労働者の賃金はグローバル競争によって急激に下降に向かう力を加えられた.

だが,その後の20年で途上国の多くで賃金が上昇し,ハイテクなアメリカの工場がますます競争力を強めてきてる.いくつかの要因により,アメリカに製造業が移るよう促進されている移送コストや輸入課税が削減されている.アメリカ人は,より品質が優れていると考えられているアメリカ製の製品の方を好んで買っている.それに,いちばん顕著な要因として,アメリカの工場では機械が大半の機能を遂行していて,それによって劇的にコストは削減されている.

9月に『ニューヨークタイムズ』に掲載された記事で,レポーターのステファニー・クリフォードは,製造業復活の限界をあれこれと調査している:「アメリカの製造業によって新しい雇用がたっぷりと提供されると政治家たちは請け合っているが,これは一筋縄ではいかない――たしかに,雇用はもたらされるだろう.だが,かつてと同じような水準にはほど遠い.なぜなら,生産プロセスのありとあらゆる地点で機械が人にとってかわっているからだ.

南カリフォルニアのパークデイル繊維工場を取材して,クリフォード女史はこう述べている.「同工場ではたらく140人の従業員は,週あたり250万ポンドの毛糸を生産している.1980年にこれほどの水準の生産をやろうとすれば,2000人以上の人手が必要とされただろう.」

© The New York Times News Service

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