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クルーグマン「TPP は大きな話だけど,ものすごい案件ですかね?」

Paul Krugman, “The Pacific Trade Pact Is Big, but Is It a Huge Deal?,” Krugman & Co., December 19, 2013.


TPP は大きな話だけど,ものすごい案件ですかね?

by ポール・クルーグマン

Edwin Koo/The New York Times Syndicate

Edwin Koo/The New York Times Syndicate

これまでに読者からこんな疑問の投稿をもらってる.環太平洋パートナーシップ協定 (TPP) の交渉について書いてないのはどうしてなの,っていう疑問のお便りだ.多くの人は,TPP はとても重大で,しかも悪しきものだとみてる.

で,その理由:なんでこの交渉がとくに重要なのか,ぼくにはどうにもわかりかねてるんだよ.

よくあるレトリックは――支持派も反対派もおなじように―― TPP に関わる経済の全体的な規模を強調する:「これには数億の人が関わってるんだぞ!」「全地球の産出の実に40パーセントだぞ!」なんてね.

でも,そんなことからは大してわかることなんてない.なにしろ,アイスランドと中国が今年結んだ自由貿易協定がつくりだした自由貿易圏には13億6000万人が暮らしてるくらいだし.ただ,そのうちアイスランドに暮らしてるのはたったの30万人だし,あの協定がおおごとだって考えてる人なんていやしない.

TPP をめぐる論議はそこまでアホくさくはない.でも,この手の話にとりかかるとき,ぼくが選ぶ出発点がある.それは,貿易に対するいちばん伝統的な障壁は――関税や輸入割当とかは――すでにかなり低くなっていて,さらにそういう障壁を下げてみたところで,大きな効果をえるのはむずかしい.

いま交渉中の案件には,たった12カ国しか関わっていない.そのうち数カ国はすでにお互いに自由貿易協定を結んでいる.これは,おおざっぱに言って――ぴったりそのままじゃあないけど――研究者の Peter Petri, Michael Plummer, Fan Zhai が去年分析した「TPP11」のシナリオだ(彼らの研究「TPP とアジア太平洋統合:計量的評価」は bit.ly/1jYv4Kt で読める).彼らは TPP 支持の立場で,一般的に自由化を支持してる.その彼らも,そのシナリオから大して大きな利得の推計をだせなかった――国内総生産のたった 0.1 パーセントほどの利得でしかない.しかも,この研究では非標準的な効果もたっぷり含むモデルを使っている.

(余談:貿易自由化に関する文献には,1つ,あまり知られてない側面がある.それは,どんな種類であれ大きな効果がでてくるためには,「市場は高度に競争的で効率的だ」という仮定をはずして,そのかわりに「国際競争の結果として減少する非効率性がたくさんある」って仮定しなくちゃいけないってことだ.これは,1992年に欧州について「大きな利得があるぞ」ってみんなが主張してたときにもなされたし,いま,TPP 支持の主張にあたってもなされている.といっても,これが間違いだって言うわけじゃない―― 外的な圧力が高まらないかぎり非効率な企業が追い出されない「メリッツ・モデル」(Melitz model) は,きれいなモデルだ.でも,これはこの手の話にある総じて市場支持的な基調と不協和をきたしてる.そうそう,1992年のあれは,いささかガッカリじゃなかったですかね?)

ぼくが読んだかぎりだと,TPP をほんとに重要なものにするには,(a) いま交渉のテーブルにいない中国を引き込まなくちゃいけないし,(b) 外国直接投資に及ぼす影響が大きなものになるっていう証拠を出さなくちゃいけない.公平を期して言うと,北米自由貿易協定 (NAFTA) は効果 (b) があったように思える――でも,NAFTA はメキシコの政治環境を変えたけれど,TPP はおそらくそんな風な変化を起こさないだろう.

まあ,適当にあしらいたいわけじゃないんだけど,でも,これまでのところ,肯定であれ否定であれ,この誇大広告を正当化するようなものは見あたらないんだよね.

© The New York Times News Service


【バックストーリー】ここではクルーグマンのコラムが書かれた背景をショーン・トレイナー記者が説明する

異論の多いパートナーシップ

by ショーン・トレイナー

2010年から,アメリカは TPP を立ち上げる交渉に関わってきた.TPP は,12カ国間の貿易を拡大する交渉で,日本・メキシコ・ベトナム・シンガポールなどが関わっている.

当局としては,この年末までに交渉に決着をつけたいと望んでいた.ところが,シンガポールでの会合は合意にいたらないまま12月10日に終了となった.アナリストのなかには,このパートナーシップは2015年まで決着がつかないのではないかと見る向きもある.

この新しい貿易協定を調査したアナリストの大半は,その経済的効果は最小限になるだろうと言う.理由は,関係国の多くはすでにアメリカと自由貿易協定を結んでいるからだ.また,日本とベトナムをのぞいて,新しいパートナー国の大半は比較的に小さい.ただ,専門家のなかには,支持はの最終的な目標は協定を中国・インドにまで拡大することにあると見る人たちもいる.中国もインドも,ともにいつか参加することに関心を表明している.

交渉の細部について,当局はほとんど公表していない.外部のいろんなグループは,議事に透明性が欠如している点を強く批判している.11月に,ウェブサイト「ウィキリークス」は交渉の草案の一部を公開した.これによって,労働,環境,インターネットの自由,公衆衛生に取り組むさまざまなグループから批判の火の手が巻き起こった.

「経済・政策研究所」のブログに最近投稿された文章で,経済学者のディーン・ベイカーはこのパートナーシップに対する批判者たちと同調してこう述べている.「TPP を貿易の話だと思うのは誤解だ.これは企業優遇のルールを確固たるモノにする寄生構造の変化に焦点をおく協定だ.「貿易」協定を利用することで,通常の政治的なプロセスではえるのが不可能ではないまでも困難な規則を定着させる仕組みをもたらそうとしているのだ.」

批判者が取り上げているそうした規則の一例は,貿易に関する話し合いでアメリカが医薬品特許を途上国にまで拡大しようと試みている点だ.もし医薬品特許が途上国にまで拡大されれば,貧しい国で安価なジェネリック医薬品が大幅に利用しにくくなりかねない.

CEPR が行った研究によれば,このパートナーシップによる経済的な利得は,穏当なものではあるものの,トップ1パーセントの高所得者たちに偏って流れ込むという.

© The New York Times News Service


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