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サイモン・レン=ルイス「イギリスの住宅価格と賃料」

[Simon Wren-Lewis, “House prices and rents in the UK,” Mainly Macro, February 19, 2018]

住宅の専門家ではないけれど,私には,住宅価格と賃料を区別しそこなっているせいで世間の論議が混乱しているように思える.住宅の需要と供給を語るときには,この2つを等しくする価格は賃料であって住宅価格ではない.

その理由は以前ここで論じた.ここでは,その論証を要約してみたい.賃料には居住のコストが反映される.つまり,屋根のあるところに暮らすコストが反映される.まわりにあまり住宅がなければ,賃料は上がる:一部の人々がアパートを借りて暮らしたり親と同居したりなどできるところまで上昇する.売り買いされる住宅は,すぐさま賃貸するための住宅に早変わりするので,実際には売買と賃貸の市場は別々にわかれてはいなくて,ただひとつの大きな住宅市場だけがある.

住宅の価格は,資産価格だ.この場合の資産は,所有しているかぎりずっと屋根のあるところに暮らせるようにしてくれる資産だ.これはつまり,住宅価格は現在と未来の賃料に左右されるということだ.ただ,ここでとても大事なのは,他のどんな資産とも同じように,住宅という資産の価格は未来の賃料の割引合計額であり,その割引率は実質金利だ.もし実質金利が下がっても未来の実質賃料が変わらないなら,住宅はいっそう魅力のある資産になる.すると,お金持ちが住宅を買い始めて,価格が上がっていく.

下に示したのは,イギリスとフランスにおける住宅価格と賃料の比をとったグラフだ.OECD のデータを用いている.

何度か大きく上下しているものの,2000年頃まではとくに大きなトレンドはない.(こう聞いて意外に思うかもしれないけれど,賃料に起こっていることが反映している(後述)).2000年代の序盤に,賃料に対する住宅価格の比は両国で大幅に大きくなり,いまもまだ下がっていない.イギリスにフランスも加えたことで,両国で共通の要因が同様のふるまいに影響しているらしいことが示唆されている.

その共通要因とは実質金利だ.実質金利にはいろんな定義の仕方がある: ここでは手抜きをさせてもらって,世界銀行からデータを引っ張ってくるとしよう.

ここでも,細部は無視して(1995年になにがあったのか私には見当がつかない),トレンドに関心をしぼろう.2000年頃に,実質金利は下がりはじめた.しかも大幅に下がっている.実質金利が下がるにつれて,住宅価格は上がった.

これが成り立つのは,住宅市場が自由化されてこの種の裁定取引〔サヤ取り〕が機能して,しかも裁定取引を止める課税がない場合にかぎられるのだろう.これは1980年代以前のイギリスには当てはまらない(私が最初の家を買ったときには,住宅ローンは貸し付け制限されていた).この〔80年代以前の〕期間にこの関係が成り立つとは予想されないのは,ひとえにこの理由による.ただ,過去20年間に,他の資産から得られる利益は低いなかで、中流階級が地主として興隆していった。退職後に備える貯蓄方法として土地を購入したのだ。

この実質金利の大幅低下は世界的な現象で,「長期停滞」の名で知られている.実質金利低下がどうして起こり,どのくらい持続するのかはいま活発に論議されている.このポストではそこまで扱う余裕はない.鍵となるテストは,この先数年で名目金利がいつ上がり始めるのか,だろう:つまり,名目金利とともに実質金利がどの程度まで上昇するのかが鍵となる.いま自信をもって言えるのは,「住宅価格は時間が経つほどにずっと上がり続ける」という連中を当てにしないこと,それだけだ.

2000年以降のイギリスとフランスにおける住宅価格の上昇は,住宅建設が足りないこととはほとんど関わりがない.この点は Ian Mulheirn が強調しているとおりだ.ただ,需要と供給の不均衡を調べるときに目を向けるべき賃料はどうだろう。 IFS データは下記のようになっている。 出典は、Robert Joyce, Matthew Mitchell & Agnes Norris Keiller による近年の論文だ。

ロンドン以外では、所得からの支出のうち賃料が占める割合は上昇していない。ようするに――私見では90年台中盤以前にも当てはまるのではないかと見ているが――住宅コスト(賃料)は物価ではなく収入とともに上昇してきている。しかも、実質金利は一定だった。それだと、住宅価格は収入とともに上昇することになる。さて、こういう主張はできるだろう――「たとえば食べ物の場合にそうなったのと同じように、所得からの支出のうち賃料が占める割合が下がるくらいたくさん住宅を建設すべきだ。」 他方で、こういう主張はできない――「急に住宅が若い人々にはとても手が出せないほど高くなった理由は、住宅建設数が少なすぎるからだ。」

近年、賃料の状況は明らかにロンドンではちがったものになっていて、ロンドンの住宅価格もよそと同じくらい急速に上昇している。David Miles と共同研究者たちが書いた興味深い論文では、そこではたらく人たちが増える一方で交通コストが下がらない場合、都市の住宅コストがいかにして上昇しうるかを論じている。近年、ロンドンの行政は電車移動への助成を削減しようと試みてきた。賃料が高くなるのは自然な帰結だ。これを逆転するひとつの方法としては、都市に向かう新しい改良された輸送網に投資する手がある。だが、近年、多くの国々の大都市で住宅価格が上昇している主な理由は、上述の実質金利にある。(バンクーバーでも同じ論議がある。)

長期停滞(低い実質金利)によって、ひと世代まるごとが住宅を買わずに賃貸で暮らさざるをえなくなるのだろうか? 主な問題は、新規購入者が用意しなくてはならない頭金だ。名目収入の成長率が低いということは、昔のようにだんだん支払いがずっと楽になって行くわけではないということではあるものの、実質金利が低いということは、すでに住宅ローンを組んでいる人は利子を支払いやすいということだ。だが、〔住宅〕価格が上がるということは頭金も上がるということで、もし親の助けが得られないとすれば、〔頭金を用意するために〕長く貯金を続けることになる。頭金を下げるリスクを銀行はとりたがらない。とくに、住宅価格が下がりうる現実的な確率があるときにはなおさらいやがる。「購入支援」(Help to Buy; 国による住宅ローン保証制度)は、銀行がとりたがらないリスクを国が引き受けるのをねらった制度だ。だが、私たちが〔国民という〕集団としてやらねばならないことは、これだろうか? これが、長期停滞の時代に論議されていてしかるべき問題だ。住宅をさらに建設するのはいいことかもしれないし、そうでないかもしれない。ただ、実質金利がこのまま低いままだとしたら、もはや住宅を買えない世代にふたたび住宅を手の届くものにすることにはならないだろう。


原註 [1]: イギリスやフランスに似ている国々と似ていない国々(アメリカやオランダもそうだけれどとくにドイツ)に目を向けると実に興味深い。こうした国々で住宅価格が長期的に上昇しつづけていない理由がわかる人がいたら、ぜひ教えてもらいたい。


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