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サイモン・レン=ルイス「フォックスニュースは投票行動を左右する:経済学からの知見」

[Simon Wren-Lewis, “Economists show how Fox news changes votes,” Mainly Macro, September 14, 2017]

前にも述べたように,経済学者がだんだんメディア研究に参入してきている(なにしろ天然の帝国主義者なものでね).そこから,古くからの批判的な論争に関する実証的な証拠がもたらされつつある.一部のメディア報道に偏向があるのは,たんに視聴者・読者が党派的だからだろうか,それとも,そうしたメディア報道は政治的な見解を変える因果関係に一役買っているのだろうか? また,視聴者/読者はメディア報道の偏向を割り引いて受け止めているのだろうか,それとも,彼らの投票行動に影響を及ぼしているのだろうか?

アメリカのニュースチャンネルの場合は,いまやはっきりした証拠がでている――「フォックスニュースは大きく投票行動を変えている」というのが答えだ.選挙結果をあっさりわけてしまえるほどに,大きく変えている.「党派的な右派メディアなんて大してものを言わないよ」と主張している人たちは,その立場を維持したければ逆の証拠を提示する必要がある.

最新の証拠は,ちょうど American Economic Review に掲載されたところだ.「最上級の経済学の学術誌に,なんでこの〔メディア〕研究が?」 実証的な経済学者には慣れ親しんだやり方がある.それは,すぐれた「操作変数」を探すことだ.この場合は,当人たちの政治的見解に関わりのないフォックスニュースを見るかどうかに影響するものを探し出すのが経済学者の仕事になる.そこで,そうした「偶発的な」視聴者に着目すると,フォックスニュース視聴が因果関係のなかで果たす役割を取り扱えるようになる.

Vox のディラン・マシューズがこの研究の見事な解説記事を書いてくれているので,ここでは詳細を記さない.そのかわりに,要点を4つだけあげておこう.

1. フォックスニュースは(プライムタイムの視聴者にとって)支配的なニュースチャンネルだ.フォックスニュース視聴者のなかには,共和党支持でない少数派がかなりの割合で含まれている.

2. この研究のデータは2008年まででとどまっているけれど,その年にもしもフォックスニュースが存在していなかったら共和党の得票率は 6パーセントポイント以上も低下していただろうと著者たちは推定している.

3. これと対照的に,もっと左寄りの MSNBC が民主党の得票率上昇にあげた効果は,それよりはるかに低い.

4. フォックスニュースはたんに視聴者を最大限に増やすべくみずからのイデオロギーを設定しているだけではない――それよりもずっと保守色が濃厚だ.逆に,フォックスニュースによるイデオロギーの選択が,その説得力を最大化している.

要点 (2) がいう 6パーセントポイント以上という「大見出し」の数字は過大評価だ.他のネットワークは視聴者を獲得すべくイデオロギーを変えるからだ.このため,もしフォックスニュースが消えてなくなったとしても,他のネットワーク各局は,それまでフォックスを見ていた人たちを獲得しようと右よりに軸を移したかもしれない.だが,ここでの大事なところは,「極右メッセージのプロパガンダ力を最大化するかたちでフォックスはふるまっていて,相当数の有権者の心を変えるのに成功を収めている」という点だ.メディアは《たんに視聴者/読者の見解を反映しているにすぎない》というような弁解は,フォックスニュースには当てはまらない.ようするに,フォックスはプロパガンダ組織であって,「営利的な」報道機関じゃない.あるサンプル期間のフォックスニュースの内容を調べた分析によれば,どうやらそこで伝えられた事実の半分以上が実態とちがっていたらしい.

この研究にはいろいろいいところがある.ひとつ挙げるなら,1996年から2000年のフォックスニュース黎明期にもとづく先行研究(私はここで言及してる)とほどほどに整合している点がある.この先行研究では,またちがった手法を使ってフォックスが有権者の選択に及ぼした因果的な影響をつきとめようとしている.2つの異なる手法が同様の結論にいきついたというのはいいことだ.

人によっては,こういう話を意外に思わないかもしれない(この研究が経済学の学術誌に掲載されているって点をのぞいて).オバマの言葉を借用するなら,もしもフォックスニュースを見ていたら,オバマ当人すらじぶんに投票しなかっただろう.アメリカ政治がここまでものすごく右に動いた事情に関する私じしんの説明とも合致する.イギリスの読者にとって,すぐさま思い浮かぶのはこういう疑問だ――「フォックスのかわりに『デイリーメール』や『サン』や『イクスプレス』を代入しても同じ話が成り立つだろうか?」 私見では,「成り立つ」.イギリスの EU 離脱のなりゆきはこれを立証して余りある.だが,明示的であれ暗黙裏であれ,通説はその逆らしい.左も右も中道も,投票行動の分析では典型的に報道の役割を無視するか脇役扱いにしている.この研究やこれまでの先行研究からは,それではとても科学とは言えそうにないのがうかがえる.

フォックスも,イギリスでそれに相当するあれこれの報道機関も,世論の学術研究をはるかに上回る重みをもっている.フォックスニュースとトランプは密接不可分につながっているし,EU 離脱と右派メディアも同様だ.国民の相当な割合にフェイクニュースを届けることができたなら――特定の少数派や「よそもの」を侮蔑しオーナーたちの政治見解を押し出すニュースを届けることができたなら――専制はうまく民主制と折り合いがつくものだ.

政府は「人民の意思」をふりかざして多元主義と法の支配にあらがう.プロパガンダとしてのメディアがそれを可能にし,さらには指図すらする.EU 内部にも周辺国にも実例はある.イギリスやアメリカはそこまでにはいたっていないけれど,かなり近くまできてしまっている.


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