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サイモン・レン=ルイス「最低賃金、買い手独占、田舎街」

[Simon Wren-Lewis, “Minimum Wages, Monopsony and Towns,” Mainly Macro, January 4, 2018]

アラン・マニングが、『フォーリンアフェアーズ』誌に最低賃金に関するじつにいい論考を書いている。最低賃金が雇用におよぼす影響は経済学でも政治的な負荷のかかった問題で、その点でたいていのマクロねたに似ている。最低賃金の場合、戦場となっている舞台は実証だ。人々が主流経済学について「どうしようもないほどネオリベラルだ」と非難する時、よくこの最低賃金論争を思い浮かべる:マニングがいう経済学101(学部1年生むけの講義)〔が教える最低賃金のはたらき〕とデータが食い違っているのを示したのは主流経済学者たちだった(デイヴィッド・カードとアラン・クルーガー)。それに、いまもこうした結果を見つけ続けているのも主流経済学者たちだ。

カードとクルーガーの研究を受けて登場したたくさんの研究から引き出せる結論は2つあると思う。第一に、実証研究を見ると明らかに、最低賃金を課したり引き上げたりしたときに雇用が減少しなかった事例が山ほど出てきている。ただ、一握りながらこんな風に言う人たちはいるだろう――「最低賃金をどんな水準にしようとあらゆる状況でそういう結果になるわけではないよね。」 だからこそ、イギリスでジョージ・オズボーンが最低賃金を引き上げる以前は、こうした問題を検討する低賃金委員会〔Low Pay Commission; 政府の諮問機関〕によってイギリスの最低賃金が設定されていたわけだ。おそらく、低賃金委員会はあまりに慎重になりすぎてしまったんだろうけど、まちがいなく、オズボーンによる最低賃金引き上げに関する研究はこれからおいおい増えてくるだろう。私見では、今後の研究が取り扱うべき重要論点は、名目賃金の引き上げが生産性になんらかの影響をおよぼすのかどうかという点だ。

また、貧困に対処するツールとしての最低賃金にいろんな限界があることもマニングは指摘している。マニングの指摘によれば、「時給としての最低賃金そのものからは、最低賃金を稼いでいる人々の世帯所得についてほとんどなにもわからない。」 マニングはこう主張している:最低賃金は就労所得税控除と合わさることでうまく機能する。国が差額を埋め合わせてくれることを知りつつ、雇用主が賃金を切り下げることで税額控除の一部を懐に入れるのを防ぐ役目を最低賃金が果たしてくれる。

「経済学101」(学部初年度)の経済学が最低賃金について間違った答えを出してしまう主な理由は2つある;探索と買い手独占だ。まずは、探索の話から。「経済学101」の世界では、新しい仕事が見つかってお祝いをする人もいなければ、既存の仕事をなくすんじゃないかと心配する人もいない。たいていの人がそうなる理由に、探索がある:つまり、新しい仕事を見つけるには時間と労力がかかる。同じく、企業にとっても、新しく人を見つけて雇うのにはコストがかかる。こうして、経済学101で想定する賃金には、失業や離職につながらない賃金の変異ゾーンが生まれる〕。実際の賃金がこのゾーンにおさまるかどうかは、労働者と企業それぞれの交渉力に左右される。

買い手独占とは、労働者にとっての代替就業機会が希少で、それゆえに、標準的な経済学101モデルでいう完全に競争的な賃金水準を下回る賃金を設定する力を企業が手にしている状況のことだ。(ここにも探索の要素がある:居住地を変えるコストだ。これは、いまの居住地で仕事を探すコストよりずっと大きい。とくに、家族がいると大きくなる。) 買い手独占の古典的な例は、主要な雇用主が1つしかない街だ。

どうも、多くの労働経済学者は、労働市場における買い手独占は特殊事例かなにかだと思っているのではないかと思う。そういう風に思っているなら、知識を更新する必要があるかもしれない、とマーシャル・スタインバウムがここで論じている。スタインバウムは共著者たちといっしょにアメリカでやった近年の研究を引いている。彼らの研究により、「(職種と地理によって定義される)労働市場の大半は、非常に集中しており[企業が少なく]、この集中は求人に提示される賃金額に頑健なマイナスの影響をおよぼしている。」 これこそ、買い手独占から予想されることだ:ある地域にある企業が少なければ少ないほど、求人が発生する件数は少なくなっていき、そのおかげで、賃金を抑制するにあたってこうした企業は従業員が離職してしまわないかと心配しなくてすむようになる。

マニングの記事では、広範な買い手独占から生じるいくつもの政策含意を考察していて、読む値打ちがある。イギリスの場合、そうした政策含意には、ロンドン周辺のいろんな都市に向かう鉄道交通の改善も含まれそうだ〔リンク先のツイートではロンドン周辺で電車通勤する人の割合が顕著に高いことが示されている(2011年の国勢調査)〕。この記事に直接関連するのは、最低賃金によって雇用が減らない理由がこうした結果によって説明しやすくなるかもしれない、という点だ。最低賃金がないとき、比較的に業績のふるわない企業はそのぱっとしない業績の影響を収益から賃金に移転できるかもしれない。最低賃金は、これが起こるのを防ぐ。

買い手独占が大きな田舎街だといたるところにあっても大都市だとそうでもないとしたら、もしかして、前に取り上げたEU離脱投票における田舎街と都市でのちがいとなにか関係があったりするのか気になる。トランプ支持運動も、アメリカの田舎で強固だった。スタインバウムらの研究では、まさにそうした田舎で買い手独占が頻繁に見られるという。この買い手独占研究からうかがい知れるのは、都市よりも田舎街の方が企業内の労働条件が悪くなりがちだという点だ。これは有権者にどんな影響をおよぼすだろう? 田舎町での労働者搾取に対してとれる反応としては、離職がある。現に人々はそうしている。いまの仕事にとどまっている人たちにとっては、それよりもその田舎町で企業が生き残るかどうかかもしれない。すると今度は、この心配が有権者の態度に重大な影響をおよぼしかねない。


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