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サイモン・レン-ルイス「緊縮を定義する(再論)」(2017年9月6日)

Defining austerity redux  (Mainly Macro, Wednesday, 6 September 2017)

Posted by Simon Wren-Lewis

どちらかというと退屈な,定義に関する投稿.

以前の文章邦訳)で,緊縮が何を意味するか明確な定義は存在しないこと,人によってどういう意味で使ってるかが異なることを論じた.私の「一般理論」論文の文脈では,通常の用法の1つを精密化する定義を試みた.ただ,以前の投稿のコメント欄を見ると,納得しなかった人もいるようだ.

ツイッターでの最近のやり取りから,明確な定義が未だに待望されていること,一方で私の以前の定義は改善の余地があることを確信した.その以前の投稿では,私は緊縮をある種の財政健全化 — 公共支出の削減 — に等しいと定義するのは2つの理由から不十分だと主張した.1つ目: 単に「公共支出削減」と言えばいいじゃないか! 2つ目はより重要で,この定義だと,景気過熱の高みにおける(経済に害をおよぼさない)財政健全化と,不況のどん底における支出削減を同じように扱ってしまうというものだ.

私が示したその定義(定義Aと呼ぶ)は次の通り:

財政健全化のうち,非自発的失業の大幅な増加をもたらすもの.あるいは,より正式な用語で非口語的に言えば,顕著な負の産出ギャップ増大をもたらすもの

この定義を支出削減に限定したければ,単に「財政健全化」を「政府支出の削減」に置き換えれば良い.

1つ些細な変更を加えたい.それは,非自発的失業への言及をやめることだ.まず,失業と産出の低下の間にはタイムラグがあるかもしれないし,ひょっとしたら労働者が職に合わせて自らの賃金を切り下げて,失業そのものが回避できるかもしれない.しかしこれは,財政健全化が産出を減らし,マクロ的な資源を浪費してきたという事実を覆すものではない.

一方,この定義を次のように言い換えても(定義B),

財政健全化/公共支出削減のうち,顕著な負の産出ギャップ増大をもたらすもの

産出ギャップの計測精度がお粗末だという問題がまだ残る.たとえば,英国の産出ギャップが現在はゼロだと考えるものもいるが,私は現在の財政健全化に対して緊縮という言葉を適用したい.「負の産出ギャップ」という言葉を「景気の悪化」に置き換えても問題は解決しないし,「不況において」と言ってしまうと(不況の正式な定義を考慮すれば)定義を非常に狭く制約してしまうことになる.もう一つの可能性は,緊縮を単に以下のように定義するものだ(定義C).

財政健全化/公共支出削減のうち,産出を顕著に低下させるもの

この定義の困った点は,これだと緊縮というものが場合によって全く適切だということになってしまうことだ — たとえば好況時に支出が過大であるような場合だ.実は,この問題点は,緊縮を単に公共支出の削減と表すことによるものだ.私の考えでは,緊縮の他の意味合い(すなわち,〔経済上の〕苦境)と何かしらつながりがなければいけないのだ.〔ところが〕景気過熱の際に支出を削減するのが苦境とはとても言えない.

定義Bのどこが問題だったのかという点にもどってみよう.つまり,なぜ私は緊縮という用語を現在の支出削減に対して適用したいと思ったか.その答は,金利が下限にあるからだ.そこから別の定義(定義D)が出てくる:

財政健全化/公共支出の削減のうち,総需要に対して金融政策が相殺できない負のインパクトを与えるもの

私は定義Dの方がBより好きだ.なぜなら,定義Dは緊縮がなぜ問題なのかという核心をついているからだ.ある種の財政健全化が常に悪であるとか不適切であるいう点が重要なのではなく,財政健全化は,金融政策が産出へのインパクトを相殺できない時に行うべきではないという点が重要なのだ.

私のもとの定義Bに対する批判の一つは(定義Dにもあてはまるが)「拡張的緊縮」の可能性を排除してしまうというものだ.そのかわりに「拡張的財政健全化」と呼ばなければいけないことになる.ただ,繰り返すが,緊縮という言葉に何かしら苦境と関連した意味をもたせたいと思うなら,拡張的緊縮という言葉はいずれにせよ誤りだということになる.

このエントリが退屈だと警告したが,この話全体に対してコメントをもらえれば本当にありがたいと思う.最後に,なぜこれが重要だと思うのか,一つ理由を述べておくべきだろう.英国労働党の2017マニフェストのどこが反緊縮的だったか,私が質問を受けたとしよう.多くの人は政府支出を増加させる提案がそうだと言うだろうが,マニフェストを字句通りに受け取ればそれは反緊縮的だと言えない.なぜなら,その政府支出は税によって賄われるからである.反緊縮的な部分は,もし読者が私の定義を受け入れるなら,公共投資の増加および財政の信認ルール1だということになる.

  1. 訳注 英労働党のマニフェスト2017内の財政の信認ルール Fiscal Credibility Rule には,財政赤字を5年以内に削減するなどの全般的な財政ルールの他に,以下の条項が入っている.「金融政策委員会(MPC)が,金融政策を遂行できない(金利のゼロ下限にある)と決定したときは,このルール全体を停止して財政政策が景気を下支えできるようにする.この決定を下せるのはMPCのみとする.」金融政策委員会は,英国中央銀行Bank of Englandで金融政策を司る組織で,日本銀行の政策委員会やFRBの理事会に相当する. []

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