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シャルル・アンジェルーチ, ジュリア・カジェ 『新聞広告の衰退: 新聞読者にバッドニュース 』 (2016年8月26日)

Charles Angelucci, Julia Cagé , “The newspaper ad collapse: Bad news for readers” (VOX, 26 August 2016)


広告主は新聞に見切りを付け始めている。本稿では、1968年にテレビが印刷メディアに与えたインパクトを援用しつつ、広告収入の低下は新聞のクオリティの低下につながるものであることを主張する。極端な場合、こうした事態は一般大衆のもつ情報量の低下に帰結しかねない。

2015年はおそらく新聞産業にとって大不況以来の最悪の年となった。Pew Research Center (2016) によれば、上場企業に関する合衆国広告収入総計 (印刷媒体およびデジタル双方含む) は8%近い低落をみせたという。

我々は最近の論文 (Angelucci and Cagé 2016) で、広告収入衰退からくる影響が新聞の価格選択やクオリティ選択にどういったインパクトを与えるのか調査した。こうした選択が重要なのは、それが諸個人がどれだけの情報量をもっているかを決定付ける一因となるからだが、このことはさらに投票率・政治的問責可能性・社会規範にも影響してくる (Ferraz and Finan 2008, Jensen and Oster 2009, Gentzkow, Shapiro and Sinkinson 2011)。

具体的には、新たな広告プラットフォームの登場によって生じた、広告主が新聞読者の関心を購うために出してもよいと考える支払許容額の低落からくる影響の分析を試みた。2015年にはすでにGoogleとFacebookは600億ドルのオンライン広告市場のほぼ2分の3を手中にしていた。こうした広告収入のソーシャルメディアへのシフトが、新聞広告収入衰退の一因となっている。

我々はこうしたショックのインパクトを調査すべく、新聞社が読者にコンテンツを販売しつつ他方で読者の関心を広告主に販売する仕組みの単純なモデルを構築した。すると、読者の関心に対する広告主の支払許容額の減少が、新聞の自己コンテンツクオリティ減少を誘発していることが明らかとなったのである。広告主の読者関心に対する支払許容額減少は、低価格を通した読者への 『助成』 減少につながり、これは読者側の価格に上向きの圧力をもたらすが、さらにはクオリティ に対する 『助成』 (こちらにも読者を惹き付ける役割がある) の減少にもつながる。読者がクオリティに対する十分な感度をもっているならばつねに、広告収入の低落は、読者に対しクオリティ低下を補償するための購読価格の減少につながる。さらに我々は、広告主の支払許容額の減少が、新聞社に読者間で価格差別をさせるインセンティブを増加させることを明らかにしている: 新聞は購読価格の引き下げに加え、新聞の売店価格の引き上げも行うのである。

言うまでもなく、新聞社の価格選択およびクオリティ選択の決定には幾つものファクターが関わっており、それには費用・消費者選好・市場構造も含まれる。加えてインターネットの登場は、市場競争や消費性向に関して、広範な影響をもった変化をあまた生みだした。一つ例を挙げると、Reuters Institute Digital News Report (2016) は、消費者の半数からニュースソースとしてソーシャルメディアを毎週利用しているとの報告があったと伝えている。結果として、新聞読者の関心に対する広告主の支払許容額の減少と、新聞社の価格選択ならびにクオリティ選択の間の因果関係を実証的に確立することは、一口に言って難しい。

こうした事態にもじつは1つの前例がある: TV広告が新聞のビジネスモデルに与えたインパクトがそれだ。そこで我々は1960年から1974年に掛けての諸般のフランス新聞を対象としたデータセットを構築したうえで、1968年に始まったフランスのテレビ広告の導入に対し 『差分の差分』 分析を施した。この導入は、新聞の広告収入への依存度のみを専らシフトさせる外生的ショックにつながったのだった。

広告収入の影響は日刊地方紙よりも日刊全国紙のほうに深刻な作用したものと我々は想定している。当時のテレビで放送されていた広告と、新聞に掲載されていた広告を見比べれば、この想定の裏付けが得られる。全国紙ではブランド広告への依存度が高くなっていたが、こうしたブランドの企業主はテレビの方にも広告を出したがるだろうと考えられる。他方、地方紙に掲載される広告は地方的性質なもののほうが多い。同ショックの大きさを示そう。フランスの広告市場全体は、1967年から1974年に掛けて拡大していた。それにもかかわらず、全国紙の広告収入はテレビ広告の導入のあと減少したのである。これとは対照的に、地方紙の広告収入は同期間中に増加をみせた (図1)。

図1  メディアアウトレット毎にみた広告収入 (1967年・1974年)

テレビ広告導入のために、全国紙では地方紙との比較において、17%もの広告収入減少につながった。この広告収入の落ち込みは、購読価格の平均値を売店価格で除したものと定義される 『価格比率』 12%の減少につながったが、この減少は全て、購読者が徴収される価格の減少に由来するものである。全国紙は地方紙との比較において、使用ジャーナリスト数を11%も減らしたうえ、ニュース報道に充てられた紙面 (『記事スペース (newshole)』) のほうも7%減少した。こうした統計データがクオリティの尺度となると想定する限り、全国紙は広告収入の低下に自己コンテンツのクオリティを引き下げることで対応したのだと結論できる。さらにこうした価格とコンテンツに関する変化は、全新聞読者中に購読者が占める割合の22%もの増加につながっている。

本発見には21世紀のニュースメディアに対するさまざまな示唆が含まれていると我々は考えている。メディアアウトレットの多くは依然として最適価格方針を発見すべく実験を続けている。我々のモデルは、読者間で価格差別を行うための1手段として採用される購読制度の背後にあるロジックは、オンラインでも引き続き存在するはずだと示唆する。2010年以来、ますます多くのオンラインメディアが専ら広告主の出資のみを頼りとするモデルを打ち捨て、ペイウォール制度の導入に移っており、また購読者に無制限のアクセス権を提供する一方で、個別の話題のみを購入する読者からは高い料金を徴収するという選択をするところも多くなっている。我々はさらに、近年では、購読価格平均を売店価格で除した比率に減少がみられてきたことも明らかにしている。

図2  合衆国の7紙についての年度平均価格比率 (2008-2014年)

本分析では、ニュース購読者に対する広告主の支払許容額の減少が – その原因が何であれ – メディアアウトレットのもつクオリティ投資に対するインセンティブを低下させることを取上げた。広告収入が落ち込むのと歩を同じくして、合衆国における新聞ジャーナリストの数も減少してきている (図3)。もし広告収入が低落を続けるのならば、メディアアウトレットレベルでの情報クオリティも減少しかねないのである。このリスクは近年みられている広告ブロックテクノロジーの成長のためにさらに高まっている(Reuters Institute Digital News Report, 2016)。

図3 新聞広告収入 (ドル) および合衆国のジャーナリスト数 (1980-2015年)

この先広告が新聞クオリティの助成をしなくなるのならば、諸般の政策的介入案の有効性を調査するさらなる研究がもとめられよう。

参考文献

Angelucci, Charles and Julia Cagé (2016) “Newspapers in Times of Low Advertising Revenues,” CEPR Discussion Paper No. 11414.

Ferraz, Claudio and Frederico Finan (2008) “Exposing Corrupt Politicians: The Effects of Brazil’s Publicly Released Audits on Electoral Outcomes”, The Quarterly Journal of Economic, 123(2): 703-745.

Gentzkow, Matthew, Jesse Shapiro, and Michael Sinkinson (2011) “The Effect of Newspaper Entry and Exit on Electoral Politics,” American Economic Review, 101(7): 2980-3018.

Jensen, Robert and Emily Oster (2009) “The Power of TV: Cable Television and Women’s Status in India,” Quarterly Journal of Economics.

Pew Research Center (2016) State of the News Media 2016.

Reuters Institute (2016) Reuters Institute Digital News Report 2016

 


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