ジェームズ・ハミルトン 「サウジアラビアは原油価格の急落にどう対応するだろうか?」(2014年10月19日)

●James Hamilton, “How will Saudi Arabia respond to lower oil prices?”(Econbrowser, October 19, 2014)


今年の夏以降、原油の価格が(その他の数々のコモディティの価格とともに)急落している〔拙訳はこちら〕。このような事態を受けて、サウジアラビアが原油の減産に動くのではないかとの観測が取り沙汰されている。私の予測を一言でまとめると、次のようになるだろう。そのような可能性はあまり期待しない方がいい。

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データの出所:FRED

1981-82年に米国が景気後退に陥り、それに伴って米国内での原油需要が落ち込んだ際、サウジアラビアは、原油価格の下落を和らげるために(原油価格を維持するために)、日量600万バレルにも上る(原油の)減産に踏み切った。2001年の景気後退期や直近の景気後退期に米国内における原油需要が落ち込んだ際にも、やはりサウジアラビアは原油の減産に踏み切った。一方で、1990年8月に始まった湾岸戦争時や2003年1月に始まったイラク戦争時には、イラクにおける原油の生産が急減することを見込んで(そして、そのために原油価格が急騰すると見込んで)、サウジアラビアは急速な勢いで原油の増産に踏み切った。こういった過去の経緯があるために、サウジアラビアは、いつ何時であれ、原油価格の安定化を図る需給調整役(swing producer)を引き受けるに違いない、と広く受け止められているようだ。

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【サウジアラビアにおける月次の原油生産量】(期間:1973年1月~2014年6月、単位:1000バレル/日;影をつけた部分は、アメリカにおける景気後退期を表している)

データの出所:EIA

しかしながら、2005-2007年の時期に関しては、サウジアラビアは需給調整役を務めたとは到底言えないようだ。当時、原油価格は高騰していたが、サウジアラビアにおける原油の生産量は、(増えるのではなく)減ったのである。仮に意図的に生産量を減らしたのだとしたら、従来のパターンからの大きな逸脱を意味することになる。2005年以降の原油相場はかなり激しい動きを見せたわけだが、サウジアラビアは、変動の激しい相場を己の力だけでコントロールすることはできないと悟ったのかもしれない。原油価格の動向の如何にかかわらず、サウジアラビアにおける原油生産量が日量1000万バレルを超えるようなことは、今後はもうないのではないかと個人的には考えている。

先日のエントリー〔拙訳はこちら〕でも論じたように、昨今の原油価格の下落を後押ししている要因として、次の3つを挙げることができる。(1)リビアにおいて原油の生産が回復傾向にあること、(2)アメリカにおいて原油(とりわけ、シェールオイル)の生産が急速に伸びていること、(3)世界経済が減速に向かいつつある兆しが強まっていること。

それぞれの要因ごとに、サウジアラビアのあり得る対応について考えてみることにしよう。まずはじめに(1)に関してだが、リビアの政治情勢は依然として不安定な状態が続いている。そのため、リビアにおいて原油の生産が今後も順調に回復するかどうかについては、しばらく様子を窺う必要がある。サウジアラビアとしても、待ちの姿勢を保つことが賢明だと言えるだろう。

次に(2)だが、アメリカ国内における原油の掘削業者が原油相場の値崩れにどこまで堪える気でいるかが重要なポイントとなる。仮に世界経済の低迷が確実なものとなり、それに伴って、原油の価格が例えば1バレル=80ドルまで下落したとしても、アメリカ国内の掘削業者の多くが強気の姿勢を崩さないようであれば、サウジアラビアが減産を通じて原油価格を例えば1バレル=90ドルに維持しようと試みても、その賭けには負ける可能性が高いと思われる。そのような賭けに打って出ることは、テキサス州やノースダコタ州の掘削業者の懐を潤すために、みすみす損失を引き受けるようなものだ。

原油価格が現状の水準にしばらくとどまるようなら、アメリカ国内の掘削業者の中には赤字に追いやられる業者も出てくるかもしれない。そうなるようなら、現状の安値を耐え忍ぶことは、サウジアラビアにとっては長い目で見ると得策と言えるだろう。というのも、赤字に堪えられなくなったアメリカ国内の掘削業者が相次いで事業から撤退し、その結果として、アメリカにおける原油生産量が縮小することになれば、原油価格がすぐにも跳ね上がる可能性があるからである。しかしながら、そのような淘汰を経ねばならないということになれば、将来的に石油業界から活気が失われてしまうおそれがある。いつかまた原油価格が急落して赤字に陥ってしまう可能性があるやもしれない、と常に内心ビクビクしていなければならないからだ。とは言え、アメリカ国内でシェールオイルの採掘にあたる業者には、あまり関係ない話かもしれない。なぜなら、深海だとか北極圏だとかで原油を採掘するのに比べると、固定費用も少なくて、リードタイムも短いからだ。それゆえ、仮に事業から撤退せざるを得なくなったとしても、それほど大きな損失を負担せずに済むのだ。

最後に、(3)の世界経済が減速に向かう可能性に関していうと、今のところはあくまでも「可能性」にとどまっている。仮にその可能性が現実のものとなったとしたら、その時は、サウジアラビアは減産に踏み切る可能性が高いと私は見ている。

しかしながら、世界経済の減速があくまで「可能性」にとどまっている間は、アメリカにおけるシェールオイルの急速な増産にどう対応するかが、サウジアラビアにとっての主要な関心事ということになろう。このような見立てが仮に正しいとすれば、サウジアラビアは、(原油の)減産には踏み切らずに、原油価格の下落を放置することを選ぶ可能性が高い。私はそう見ている。

サウジアラビアがチキンレースに乗り出す [1] 訳注;原油価格を高めに誘導するために、アメリカにおける原油生産の急速な伸びに対抗して、減産に乗り出す可能性も無くはないだろうが、仮にそんな展開になったとしたら、最終的に誰が勝つかは・・・おわかりでしょ?

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1 訳注;原油価格を高めに誘導するために、アメリカにおける原油生産の急速な伸びに対抗して、減産に乗り出す
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