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ジェームズ・ハミルトン 「金本位制と大恐慌」

●James Hamilton, “The gold standard and the Great Depression”(Econbrowser, December 12, 2005)


金本位制は大恐慌の過程でどのような役割を果たしたのだろうか?

「金本位制に戻れば万事うまくいく」。そのように説く声はいつの時代も健在のようである。つい最近もそのようなミーム(meme)の存在があちこちで確認されたばかりだ(詳しくはDaily Reckoningでのクリス・メイヤー(Chris Mayer)やMises Economics Blogでのロバート・ブルーメン(Robert Blumen)の主張を参照のこと。blogjam仲間の中にも同様の主張をしている人間が何人かいるようだ)。

純粋な金本位制の下では米政府はドルと金(gold)をあらかじめ決められた一定のレート(平価)で交換すると約束することになる。そのため、金本位制下ではドルは「金と同じ価値がある」かのように見えるわけだ。

とは言ってもあくまでもそう「見える」であって事実そうだというわけではない。ドルが金と同じ価値を持つとすれば、それは政府が金本位制にとどまると(マーケットから)信頼されている限りにおいてのことである。政府が金本位制の採用を選択できるとすれば、そこから離れることもまた選択可能であって、実際にも政府が金本位制からの離脱を決定(選択)した例は数多い。投機家たちもそのことは重々承知しているため、金本位制を採用している国(あるいは、固定為替相場制度を採用している国)の通貨は投機アタックに晒される可能性を秘めているわけである。

第一次世界大戦の勃発を機に多くの国では自国通貨と金との兌換が一時的に停止され、その後しばらくの間は金本位制から離脱したままの状態が続いたが、その間(1920年代初頭)における各国の財政政策や金融政策は放縦に流れる傾向にあり、そのためもあって各国経済は大きな動揺を経験することになった1。そのような事実を目にした当時の専門家の多くは――今現在においても金本位制への復帰を求めてやまない多くの人々と同じように――「財政政策や金融政策に規律を取り戻すためには金本位制に復帰するしかない」と論じ、そして実際にも1920年代の終わり頃までに大半の国は金本位制への復帰を果たすことになったのである。

1988年にContemporary Economic Policy誌に掲載された論文(“The Role of the International Gold Standard in Propagating the Great Depression”)の中で私は次のように論じた。財政政策や金融政策に規律を取り戻すために金本位制に復帰することは破滅への道を用意する格好となりかねない。中でも、投機家たちが金本位制に対する政府のコミットメント2に大きな疑いを抱いているような(当時の)状況においては特にそうだ、と。各国が相次いで金本位制に復帰を果たした後の状況を振り返ると、国境を越えた資本の移動は落ち着きを見せるどころかなお一層その激しさを増すことになった。それというのも「まずはイギリスが、そしてその次はアメリカが平価の切り下げに動くに違いない」と投機家たちに疑われたためである。投機アタックに晒されたイギリスは最終的にその圧力に屈し、1931年に金本位制からの離脱を余儀なくされることになる。その一方で、アメリカでは投機アタックに立ち向かうために3――実体経済が急降下に向かう兆しが露わであったにもかかわらず――1931年中に金利が引き上げられたのであった。

「果たして政府は金本位制にとどまる気があるのだろうか4」との疑いが多くの人々の間で広まるにつれて、安全資産である金への需要が急増し、それにあわせて金の相対価格は上昇する格好となった。大勢の人々がこぞって金の退蔵5に向かう状況においては、1オンスの金を(交換を通じて)譲り渡してもらうためにはこれまでよりも一層多くのポテトを手放さないといけないことになる。アメリカでは平価が維持されたため6、〔金に対する需要の急増=金の相対価格の上昇にあわせて〕ポテトのドル表示価格は下落を余儀なくされたのであった。こうして金本位制にとどまった国ではデフレが生じることになったわけだが、金本位制にとどまった期間が長ければ長いほどデフレは広範囲に及ぶことになった7。金本位制にとどまった国々は様々な経済上の困難を抱えていたが、デフレはそのような困難を大きく増幅させる効果を持ったという点については多くの研究者の間で同意が得られている。

ベン・バーナンキ(Ben Bernanke)とハロルド・ジェイムズ(Harold James)の1991年の共著論文(“The Gold Standard, Deflation, and Financial Crisis in the Great Depression: An International Comparison”;NBERワーキングペーパー版はこちら)に詳しくまとめられているが、1931年に金本位制から離脱したのはイギリスだけではなく他にも13の国が同様の決定を行っている。バーナンキ&ジェイムズの論文によると、この14カ国全体の鉱工業生産の伸び率(単年度)の平均(上に掲げられた図の一番最初のグラフを参照)は1932年以降常にプラスの値を記録するに至っている。それとは対照的に、1936年まで金本位制にとどまり続けた国の鉱工業生産の伸び率の平均(一番最後のグラフを参照)を見ると1932年のそれはマイナス15%という結果になっている。アメリカが金本位制から離脱したのは1933年のことだが、上から2番目のグラフにあるようにその決定直後から劇的なまでの景気回復が生じていることがわかるだろう。1934年に金本位制から離脱したイタリア(上から3番目のグラフ)でも1935年に金本位制から離脱したベルギー(上から4番目のグラフ)でもアメリカと同様に離脱の決定直後から急速な景気回復が生じる格好となっている。その一方で1936年まで金本位制にとどまり続けた3カ国(フランス、オランダ、ポーランド)の鉱工業生産の伸び率の平均は1935年の時点でもマイナス6%を記録しており、その他の国々が堅調な経済成長を経験していたのとは対照的な結果となっている。

まとめるとこういうことだ。主要な政府が財政政策や金融政策を運営するにあたって規律を守るに違いない8とマーケットから広く信頼され、なおかつ金の相対価格が比較的安定している。そういった状況が整ってはじめて金本位制はうまく機能する。しかしながら、1920年代後半に各国が相次いで金本位制に復帰した理由は何だったろうか? 現在でも金本位制への復帰を求める声は相変わらず聞こえてくるわけだが、その理由9は何なのだろうか? 政府が(財政政策や金融政策を運営する上で)規律を守るとは信頼できないからというのがその理由ではなかったろうか(その理由なのではないだろうか)。しかしながら、金本位制に復帰すればたちまちのうちにそのような信頼10が得られるようになるというわけではない。なお不味いことには、「本当にあの政府は財政の立て直しを果たしたんだろうか?」と疑われている中で金本位制に復帰しようものなら非常に深刻な別の問題を招き寄せてしまう恐れすらあるのだ11

それはともあれ、Tim Iaconoも語っているように、金貨(イーグル金貨)の見た目の美しさについては認めるにやぶさかではない。

GoldCoinFront

  1. 訳注;巨額の財政赤字や過度の金融緩和が放置され、その結果として高率のインフレが生じることになった []
  2. 訳注;金本位制から離脱するなんてことは決してあり得ないし、自国通貨と金との交換レート(平価)を変更することも決してないという約束 []
  3. 訳注;投機家たちのドル売り攻勢に対抗するために []
  4. 訳注;ひいては平価を維持する気があるのだろうか []
  5. 訳注;金の退蔵=自分の手元に金を持っておこうとすること []
  6. 訳注;金のドル表示価格が一定の水準に固定されたままであったため []
  7. 訳注;デフレが広範囲に及ぶ=広範囲にわたる財の価格が下落する []
  8. 訳注;おそらくは「規律を守る」=巨額の財政赤字を野放しにしないという意味だと思われる。さらには、行き過ぎたマネタイゼーション(巨額の財政赤字を補填する手段として貨幣を新規に発行すること)には訴えないという意味も込められているものと思われる。 []
  9. 訳注;金本位制への復帰を求める理由 []
  10. 訳注;政府が財政政策や金融政策を運営するにあたって規律を守るに違いないという信頼  []
  11. 訳注;エントリーの半ばでも論じられているように、「果たして政府は平価を維持する気があるのだろうか?」と疑われると投機アタックの餌食となる恐れがあるわけだが、マーケットが「果たして政府は平価を維持する気があるのだろうか?」と疑う理由の一つに巨額の財政赤字があるということが言いたいのだろう(巨額の財政赤字が野放しにされていれば、その埋め合わせとしてそのうちマネタイゼーション(貨幣の新規発行)に訴えられるに違いない。そうなれば早晩平価も切り下げられるかあるいは金本位制自体から離脱するに違いない→「果たして政府は平価を維持する気があるのだろうか?」という疑い)。「果たして政府は平価を維持する気があるのだろうか?」と疑われている中で金本位制に復帰すると、投機アタックに晒された揚句に金本位制からの離脱を余儀なくされるか、万一投機アタックに耐え抜いたとしても場合によってはデフレを経験する結果となるということ(「非常に深刻な別の問題」というのはおそらくこれらのこと)についてはエントリーの半ばで説明されている通り。 []

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