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ジョセフ・ヒース「一線を越えたカナダ保守党」(2015年10月5日)

Conservative Party Moves Beyond the Pale” by Joseph Heath

現代民主主義政治にとって最も重要な概念のひとつは「妥当な不一致」である。我々のほとんどがある程度まで賛同する道義や価値観でも、それらがぶつかり合うような場合どちらを優先すべきなのかはっきりしないものが多くある。公共の利益は個人の自由より優先されるべきか。社会的平等を進めるためには公益の損失はどこまでなら許容されるのか。これらは現代政治の妥当な不一致の範囲にあると定義される論点の類だ。政党が左右のスペクトルのどこに位置するかが決まる主要な特徴は、これらの問題に異なる解決策を提示するところである。右派は個人の自由を、左派は平等を強調し、中道派は厚生の最大化を焦点にしている。これはそのまま社会における政府の役割についての異なる複数の見解につながっている。

基本的な原則は大まかに同意されているのだから、ここでいう不一致は「妥当」である。実際、自由民主主義社会ではそれが土台になっており、不一致のほうがより強調されている。例えば、個人の自由は重要だと思う。私も自由は大好きだ。ただ、一部の人々が主張するほど重要だと私は考えていない。だから、例えばアメリカで個人の武器所有の権利を守るために、あんなにも大勢のアメリカ人が銃による大量殺人事件に耐えているのを、不思議に思う。私から見れば、武器所有の自由を行使することで厚生が犠牲になるというのなら、その自由には価値がない。同時に、銃所有の合法性を否定したくはないし、受け入れられないとして社会から排外したくもない。武器所有の自由は(政治哲学でいうところの)リベラルと認識できる見解だ。ただ、個人の自由の名のもとに快く受け入れられるトレードオフの幅を考えると、どちらかというと極端な見解だ。だから私は銃所有の自由に反対する立場で議論するし、カナダで反対派が多数を占めることを喜ぶが、人々が賛成の立場を取って議論するのを悪い行いだとは考えないし、賛成派支持者を賛成の立場を取っているからといって悪人だとも考えない。

しかしながら、妥当な不一致の範疇から外れる政治的立場というものがある。基本的なリベラルの原則または価値観と矛盾するという意味で、これは「一線を越える」行為である。例えば、自分が平等の重要性を軽視し、大きな格差にも耐えるつもりがあるからといって、市民の基本的な法的平等を認めないような人々は全く受け入れられない。これはいわば交渉余地のない原則だ。だからこそ社会的平等にすべての政党や政治参加している人々が同意している。そして政治家がその境界を越えたとき、例えば男性と女性は完全には平等ではないというようなことを発言したとき、人々はいつもよりひどく狼狽するのだ。

カナダ人はかなり穏健な人々だから、政治家も完全に一線を越えるようなことはそんなにしない。だからこそ3日前にクリス・アレクサンダー氏とケリー・レイッチ氏が、他にもいくつか議題はあったとはいえ、「野蛮な文化習慣」を王立カナダ騎馬警察1 に通報できる新しいホットラインについて発表するために記者会見を開いたとき、私は驚き、ぞっとし、仰天したのだ。カナダ連邦政治でこれほど軽蔑に値するものを今まで私は見たことがない。これはカナダ的価値観に対する正面からの攻撃なのか、見せ掛けのカナダ的価値観の「防衛」なのか。どちらがより酷いかわからないが。

この「ホットライン」がどれほど酷いことか本当にわからないひとのために、説明させてもらいたい。法的にも実用としても、これは二度手間だ。アレクサンダー氏が例としてあげたのは、名誉殺人、強制結婚(若すぎる少女の婚姻を含む)、女性器の切除、複婚だ。これらはカナダでは既に犯罪になっており(それどころか「Zero Tolerance for Barbaric Cultural Practices Act(野蛮な文化習慣に対して非寛容に対処することを宣言した法律)」2 によって犯罪と再定義される前から犯罪だった)、カナダにはクライムストッパー3 もいるし、犯罪を疑われる行為を匿名で通報するホットラインも既に存在する。なのになぜ「野蛮な文化習慣」専用ホットラインが必要なのだろうか?

もし法的または実用的な目的がないとしたら、何のためだろう?なぜそんなホットラインを作る必要が?

もっと具体的に言うと、隣人に複数の配偶者がいると疑われるとしよう(我々のように再婚を繰り返す人々とは違って)。クライムストッパーに電話すべきだろうか?それとも「野蛮な文化習慣」ホットラインに?或いは、隣で家庭内暴力が起こっていて妻が夫に殺されそうだと疑ったとしよう。これは「名誉殺人」に相当するだろうか?それとも普通の殺人?何をもとにそう決めるのだろうか?答えはみんな知っていると思う。「野蛮な文化習慣」ホットラインは有色人種を監視し通報するものであって、通常のクライムストッパーの番号は白人用になるのだ。

もしかしたら私は間違っているかもしれない。もしかしたらカナダ人はモルモン教徒をよく見張り始めて、「野蛮な文化習慣」と疑われる行為が見つかり次第「野蛮な文化習慣」ホットラインに通報するようになるかもしれない。私はそうは思わないが。ブリティッシュコロンビア州政府はバウンティフルにいる複婚のモルモン教徒4 を捜査すると決断するまでに23年も無駄にした。この話題にはたいした緊急性はないと思う、一夫多妻制を許可しているパキスタン、イラク、アフガニスタンなどのイスラム教国から大勢の移民や難民がカナダに来るようになるまでは。

さらに、「外出して酒を飲み酔っ払って帰宅して妻を殴る」(あるいは、飲酒による興奮状態であったことを刑事罰の減刑理由として叙情酌量を狙う)ことは「文化習慣」とは見なされないことを我々は誰でも知っている。しかし飲酒もせずアルコールの摂取を許容しない文化を持つイスラム教徒にとっては、そのように映るかもしれない。ここでいう「文化」とはもちろん、「古株」のカナダ人のものではなく、特定の少数派の文化のことを意味する。

結果的に、この政策の唯一可能な帰結というのは、カナダ人が民族や宗教をもとにお互いを差別するようになるということだ。このホットライン案を他にどのように解釈すればいいのか私にはわからない。加えて、同じ犯罪を犯したとしても、他の人々(例えばキリスト教徒やモルモン教徒)よりも特定の民族と宗教の人々(何よりもまずイスラム教徒)を監視するために追加的な投資が必要だと事実上提案されるのだ。これは主に選挙に有利になるために行われる。反対する者は誰でも野蛮な文化習慣に寛容であると笑われ、現在のケベックの不安定な空気を考えればそれはカナダ保守党を難しい立場に追いやることになるからだ。

私が考える限りでは、これは一線を越えている。本当に、「Zero Tolerance 法」においても今回の法案においても、カナダ保守党がやっていることはエルービルの市議会がやったこと5 と大差ない。そしてその陰湿さにおいてもっと酷い。これは政府が難民に酷い対応をしているということだけでなく、政府が普通のカナダ人にお互いに酷い仕打ちをし合うことを推奨していることになる。移民を疑い差別するように積極的に推進する政策に、国民から徴税した税金を使うと提案しているのだ。さらに悪いことに、この案は自滅的だ。なぜなら、少数派に汚名を着せることは彼らをカナダに溶け込ませるのをもっと難しくするし、カナダ的価値観をより受け入れにくくさせる。

個人的なメモだが、ケリー・レイッチ氏がこの酷い見世物に参加したのを、私は大変失望して見ていたといわざると得ない。私はいつも彼女の仕事を若干の関心を持って追っていた。彼女がクイーンズ大学で学部生をしていたときやトロント大学で研修医をしていた頃を知っている共通の友人がかなりいる。共通の友人のすべてが彼女を本質的には感じのいいまともなひとだと言った。たぶん彼女の唯一の大きな欠点は強烈な党派性の光としての存在だろうと付け加えて。彼女は私の選挙区の国会議員でもある。彼女が全国的舞台でこんな風に自分を不名誉に陥れるような行いをするのを見るのは ― 特にイスラム教徒恐怖症の弱みに付け込むのは、推測するに党本部がそうすることが票につながるといったのだろうが ― 恐ろしく悲しいし不快なものだった。

このブログの読者は、私が通常は人々の動機に対して寛大な解釈におもむく傾向があるのをよく知っていると思う。そして保守派に対して寛大であろうと多大なる努力をしている。それは保守派に同意できない点が本当にたくさんあるので、寛大ではない方向に行きやすいというバイアスが私にはあるからだ。だからこそ、「合理的」政治理念の範疇から外れているという理由でカナダ保守党はまったく価値がないと決め付ける ― 多くの私の同僚たちがそうだが ― 傾向と激しく闘っている。また、私は私の出来ることで中道右派のカナダ保守党員を、カナダの右派に見られる極端なイデオロギーに流れ込むのを抑えるために、もっと声を上げるよう促している。しかしながら現時点で私は悩んでいる。現状に対する私の持てる最も寛大な解釈は、基本的に反イスラムカードを切れと言っている保守党が連れてきたオーストラリア人戦略家6 のせいだというものだ。なぜなら彼はこの国に住む必要がないのだから、この国がどうなろうと知ったことじゃない(まさか自分がジェニ・バーンズ氏7 を恋しく思うとは!)。これでもまだ疑いが晴れない。合理的な政治的立場の代表ではなくただの国家の癌としてのフランス政党国民戦線と同じ部類に、カナダ保守党を心の中で位置づけるべきではないかと心理的に思えてきさえする。今のところはカナダ人がまともであるという信頼を失わずにまだ抵抗しているが、ことの進展の仕方によっては考え直す必要が出てくるかもしれない。

しかし私には言えることがひとつだけある。金曜日の記者会見の後、カナダ保守政党は投票するには誰にとっても倫理的に許されない政党になったと私は見なしたということだ一週間前だったら、合理的な人々の間でもどこに投票するか一致しないことがありえると、まだ自分を納得させることができただろう。しかしもう無理だ。

追伸。おまけとして、幾分か学問的な思考でことの均衡を取ってみよう。ある種の攻撃を「ヘイトクライム」と分類することを支持する人々は、たぶん少し立ち止まって該当法令の批判者が何を言っているか考えてみるべきだろう。それはこうだ、犯罪を定義したり罰したりする際に犯意を超えた動機まで考慮に入れようとするのは良い考えではないと。

  1. 王立カナダ騎馬警察(Royal Canadian Mounted Police、略称RCMP)はカナダ連邦政府の警察である。 []
  2. 2015年に制定されたカナダ連邦法。複婚、強制結婚、16歳以下の婚姻などを禁止している。 []
  3. 多くはコミュニティやNGOが運営する組織で、犯罪行為を匿名で通報することができる。利点としては警察の犯罪捜査に直接的に関与しなくてよいこと、匿名性を維持できることなど。 []
  4. ふたりのモルモン教原理主義者が作った町である。2005年に一夫多妻制と性的虐待の疑いが持ち上がり、2007年に犯罪捜査が行われたが十分な証拠がないとして起訴するには至らなかった。 []
  5. 2007年、ケベック州エルービルの市議会は移民を対象とした行動規範を制定したが、これは移民に対する差別と偏見を生むとして国内外で批判を浴びた。 []
  6. リントン・コスビー。オーストラリア人選挙戦略家。オーストラリア連邦選挙でオーストラリア自由党を4度勝利に導いた。その後、英国、カナダ、ニュージーランド、スリランカなどで選挙戦略アドバイザーを歴任している。 []
  7. カナダ保守党政権下で広報部長や首相副補佐官などを勤め、オタワで最も影響力のある女性と呼ばれていた。 []

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