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ジレンマなトリレンマ? BY MICHAELl W KLEIN, JAY C. SHAMBAUGH

Michael W Klein, Jay C. Shambaugh “Is there a dilemma with the Trilemma?” (VOX; September 27, 2013)

開かれた資本市場と固定為替相場は金融政策の自由裁量と両立しないという「国際金融のトリレンマ」が、最近揺らいでいる1 。変動為替相場においてすら、資本規制がなければ金融政策の自由裁量を維持できないという主張をする研究者がいる一方で、固定為替相場の国においても、一時的な資本規制によって金融政策の自由裁量を得ることができると主張もなされている。本稿では、自由な変動為替相場は実際に金融政策の自由裁量をもたらし、部分的な変動相場は部分的な自律性をもたらすという主張を行う。固定為替相場の国において、資本規制はそれが広い範囲で長期間に渡って適用される場合には、金融政策の自由裁量をもたらすが、それが一時的かつ狭い範囲を目標としている場合にはその限りではない。


国際金融安定性保護のハンドブック(Handbook of Safeguarding Global Financial Stability)の「資本移動と為替相場体制(Capital Mobility and Exchange Rate Regimes)」の章は、「片足立ちしながら全ての国際マクロ経済学の見識を口に出すように強制されたのならば、その足を地面から離して次のようなことを言うのがいいだろう。

”政府は政策のトリレンマに直面している。後は全部注釈だ。”」
白状すると、この導入は本稿著者のうちの一人が書いたものだ。

開かれた資本市場を持つ国は、金融政策の自由裁量と為替相場管理のどちらかを選ばなければならないという結論は、国際マクロ経済学の中心概念だ。その現実世界への妥当性は、この十年間いくつもの実証研究によって確かめられてきた。例えば、Aizenmann et al. (2010) はトリレンマによって示唆されるトレードオフについて、ここ最近の証拠を示している2

トリレンマに沸く疑念

こうした証拠にもかかわらず、トリレンマは政策議論においてこのところ苦しい立場に陥っている。

  • 一部の研究者は、政策のトリレンマは世界の姿の描写としては制限的すぎると主張している。

緩やかにペッグされた為替相場や、対象を限定的にした資本規制のような中間的な政策によって、政府は政策のトリレンマを表した三角形 (図1を参照)の「角を丸める」ことができるというのだ。

図1.開放経済の政策トリレンマ

shambaugh fig1 27 sep

  • 金融政策当局の経済を調整する能力について楽観的すぎる絵を描いているとして、別の方面から政策のトリレンマを攻撃する研究者もいる。

これらの立場双方にはある程度の真実が含まれているが、私たちの最近の研究は、世界経済において政策のトリレンマが機能しており、したがってこれが一国の金融政策の自由裁量の決定要因に対する考えを形成するにあたって、今でも非常に妥当な方法であるということを示している。

新証拠

政策のトリレンマの一番単純な考えは、完全に開かれた資本市場と完全にペッグされた為替相場で、金融政策の自由裁量が全くないというものだ(図1のサイドB)。もっと曖昧な形のものとしては、トリレンマとはトレードオフを意味し、ある国が為替相場をより柔軟なものにするか、いくつかの種類の国際資本移動を禁止することによって、その国はより大きな金融政策の自由裁量を得ることになるというものだ。

しかしこれらの部分的な政策は金融政策の自由裁量の完全な指標となるだろうか。私たちの研究による答えは「否」を突き付けている (Klein and Shambaugh 2013)。我々は以下の事実を発見した。

  • 為替相場の柔軟化と金融政策の自由裁量の大きさには関連があり、したがって政策のトリレンマの角にはある程度の丸みが存在するが、
  • 一時的、対象の限定的な資本規制は、完全な資本移動の自由にある場合と比べても、固定為替相場にある国の金融政策の自由裁量を大きくすることはない。
  • 幅広く適用された長期にわたる資本規制は、固定為替採用国においては、国内と国際金利との間のリンクを断ち切る3
  • 最後の発見は、当然ながら正しく政策のトリレンマの要点(point)である(比喩的な意味においても、また図1においては文字通りに)。4

レイの主張

政策のトリレンマは金融政策の効力を誇張しているという主張が、最近ヘレン・レイ教授によってなされている (2013a, 2013b)。彼女の主張は、資本移動、資産価格そして国際的な信用の成長の幅広く一致した動き、すなわち国際金融サイクルがトリレンマに疑念を投げかけるというものだ。彼女は次のように書きつつトリレンマの死を宣言している。すなわち、この金融サイクルが「トリレンマを”ジレンマ”、あるいは”相矛盾するコンビ”へ変換する。つまり独立した金融政策は、資本収支が管理されている場合にのみ可能となる。」

レイは、このサイクルの重要な決定要因がアメリカの金融政策であり、国際金融サイクルはS&P 500指数オプションの予想変動率(VIX [訳注;Volatility IndeX。シカゴオプション取引所が出している、S&P株価オプションの変動率の指数。恐怖指数。] など)とも相関していることを発見した。これは相互依存性、そしておそらくより悲観的に言うなれば伝播(contagion)の問題だ。しかしこれは、金融政策の自由裁量が為替相場体制に依存しているかどうかとは別の話だ。

過去五年間に渡り劇的な形で証明された通り、信用の状態はマクロ経済動向にとって重要なものだ。その五年間においてはしかしながら、金融政策が金利と為替相場、ひいてはそれらを通じてマクロ経済の産出に間違いなく大きく影響を与えることも示された。

  • 信用の経路が存在するために金融政策に効果がない、というのは誤りである。それはちょうど、財政政策が存在するために金融政策には効果がない、というのが誤りなのと同様である。

トリレンマは経済全体に影響を与える一般的なショックを排除することはなく、また金融政策の自由裁量とは世界経済から隔絶することを保証するものではない。それよりもトリレンマの意味するところは、変動為替採用国においては、固定相場の通貨と開かれた資本市場を持つ国と比べて、ショックへ金融政策あるいは強い国際資本移動規制で対処するための余地がより大きいというものである。

実例の提示

過去数十年の間の事例は、政策のトリレンマの現実世界への妥当性を示している。

  • FEDは2004年から2005年にかけて金利を約180ベーシスポイント引き上げた。
  • 固定為替相場かつ開かれた資本市場の国(図1のBに位置する国)はFEDの先行に従い、金利を平均で90ベーシスポイント引き上げた。
  • 別の為替相場制度や資本収支の開放性を持っている国に置いては、同じような反応はなされなかった(図2を参照)。

図2.2004年から2005年の金利の変化

shambaugh fig2 26 sep

注記:2004年から2005年にかけてのアメリカの短期金利の変化は約1.8%だった。この図は、開かれた金融市場を持ちつつドルにペッグした国だけがその動きを追ったことを示している。

この一例は、より大きく広がる傾向の代表的なものだ。

図3は、1973年以降の全体平均を示している。この期間においては、資本市場を開放しつつ通貨をペッグしている国は、それ以外の国と比較して、そのペッグ対象となっている国と同じような金利の動かし方をしていた。私たちの研究は、緩やかなペッグは中間的な位置を占めており、ペッグ以上変動相場以下の金融政策の自由裁量があることを証明している(基準となる金利の変化に対する係数は、緩やかなペッグのそれは厳しいペッグよりも低いが、変動相場よりは高かった。Klein and Shambaugh 2013の表3を参照)。5

図3.基準国の金利変化に対する反応

shambaugh fig3 26 sep

注記:図は、基準となる金利の変化に対して各国の金利変化を回帰して得た係数を示している。これはKlein and Shambaugh (2013)の表2を元にしている。

対照的に、先の表の上位2列の係数の間には大きな違いがなく、これは資本収支が開かれている国と限定的な資本規制がされている国では、金融政策の自由裁量はほとんど同じものだという結果を示している。それとは異なり、閉じた資本収支は金融政策の裁量の余地をもたらす。6 さらに私たちの論文では、基準となる金利へより緊密に従った国は自国の状況への反応がより少なく、これら指標が金融政策の真の自由裁量の優れた代理となることを示唆している。

より最近の事例

トリレンマはここ数年の事例においても示されている。世界金融危機の最中では次のことが見られた。

  • 開かれた資本市場と変動為替相場を採用している(図1のサイドAに位置する)国、オーストラリア、スウェーデン、ポーランド、イスラエルなどは、金融政策を自国経済の状況に合わせ、為替相場については市場によって決められるに任せた。
  • 中国(図1のサイドCに置けるであろう国)の資本規制は、人民元のドルに対するペッグを維持しつつもなお、銀行に対する政策(中国における金融政策の形態)が中国経済を大不況(the Great Recession)の一部の初期ショックから遮断することに貢献した。
  • ユーロ圏やユーロにペッグしている国では、ユーロ圏全体よりもより大きな金融刺激を望んでいた国がある可能性もあるが、サイドB、すなわち開かれた資本とペッグのせいで、自らの政策を変更することは出来なかった。

結び

これらの事実は、私たちの研究による発見とともに、トリレンマがしっかりと生きていることを示唆している。これは現在の政策議論にとって重要なことだ。

FEDが現在の刺激的な金融政策の「テーパリング」にいつ乗り出すのか、広く議論がなされている。多くの新興市場はそれによる効果を感じている。変動為替相場採用国にあるのは、自国通貨を減価させる、あるいは自国の金利をあげる、もしくはそれら二つの組み合わせという選択肢だ。

金融サイクルと大国の金利は、確かに世界全体に対する大きな影響力を持っているが、我々の示したところが示唆するのは、変動為替相場もしくは閉じた資本市場はそうしたショックにどのように対処するかについて、ある種の自由を確保してくれるということである。


参考文献

Aizenmann, Joshua, Menzie D Chinn, and Hiro Ito (2010), “The Emerging Global Financial Architecture: Tracing and Evaluating the New Patterns of the Trilemma’s Configurations”, Journal of International Money and Finance 29(4): 615–641.

Bluedorn, John C and Christopher Bowdler (2010), “The Empirics of International Monetary Transmission: Identification and the Impossible Trinity”, Journal of Money, Credit and Banking 42(4): 679–713.

Chinn, Menzie D and Hiro Ito (2006), “What Matters for Financial Development? Capital Controls, Institutions, and Interactions,” Journal of Development Economics 81(1): 163–192.

Klein, Michael (2013), “Capital controls: Gates versus walls”, VoxEU.org, 17 January.

Klein, Michael and Jay Shambaugh (2013), “Rounding the Corners of the Policy Trilemma: Sources of Monetary Policy Autonomy”, NBER Working Paper No. 19461, September.

Obstfeld, Maurice, Jay Shambaugh, and Alan Taylor (2005), “The Trilemma in History: Tradeoffs among Exchange Rates, Monetary Policies, and Capital Mobility”, Review of Economics and Statistics 87: 423–438.

Rey, Hélène (2013a), “Dilemma not Trilemma: The global financial cycle and monetary policy independence”, paper presented at the Jackson Hole Symposium, August.

Rey, Hélène (2013b), “Dilemma not Trilemma: The global financial cycle and monetary policy independence”, VoxEU.org, 31 August.

Shambaugh, Jay (2004), “The Effect of Fixed Exchange Rates on Monetary Policy”, Quarterly Journal of Economics 119(1): 300–351.

  1. 訳注: 金融政策が可能になるには変動相場か資本市場規制のいずれかが必要になる。 []
  2. 原注1.それ以前のトリレンマの基本的枠組の立証については、Shambaugh (2004), Obstfeld et al. (2005)及び Bluedorn and Bowdler (2010)を参照。 []
  3. 訳注: これにより金融政策の自由を得ることができる。 []
  4. 原注2.Klein (2013)は、長期にわたる資本規制(wall)と対置されるところの開かれた、あるいは一時的な規制(gate)という枠組みを示し、有効性の観点からそれらの間には差異があるという資料を提供している。 []
  5. 原注3.これらの差異は、統計的に有意にゼロではない。 []
  6. 原注4.この表はChinn and Ito (2006)に基づいた資本規制の分類を使っている。政策が一時的であるか恒常的であるかに着目した分類を用いることで、対象を絞った一時的な規制は開かれた金融収支と同様に、金融政策の自由裁量をもたらさないということを発見した。幅広い種類の資産区分を対象とする包括的なゲートだけが、さらなる金融政策の自由裁量をもたらす。 []

Comments

  1. 金融政策の自由裁量に踏み込まないの?
    次はそこへ踏み込んで下さる事を楽しみにしています。

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