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スコット・サムナー「日本は細部にあり」

[Scott Sumner, “Japan is in the details,” The Money Illusion, April 17, 2018]

ずっと前から日本にきてる人たちは、このポストは無視してほかのもっとためになるものを読んでもらった方がよさそうだ――たとえば、ノア・スミスの文章なんかがいいだろう。ともあれ、はじめての日本旅行についてちょっとばかりコメントを書こうと思う。現時点で、日程の6割を消化しているところだ。権威もないただの印象を書き綴った文章だと思ってほしい。

1. とにかく「ノウ」

午前4時に時差ボケ全開で到着したあと、徹夜明けでそのまま能の舞台を靖国神社で鑑賞した.(そう、あの靖国神社だ。) 時差ボケに苦しんでいたところに追い討ちでちっちゃな座り心地の悪い座席に座らされたけれど、そこそこ楽しめた。たぶん、以前ウィリアム・ヴォルマンの Kissing the Mask を読んだことがあったのが幸いしたんだと思う。とはいえ、それもずいぶん前のことだし、いまだに自分が鑑賞したものを本当のところはわかっていない。ともあれ、能の舞台はおすすめする。少なくとも、忍耐力がある人たちは見てみるといいだろう。(能を見に連れてきてくれた友人と妻に感謝したい。あと、妻とぼくが日本時間になじむのを助けてくれたのもありがたかった。)

2. 「こんな風にシュっとしてたらなぁ」の国

日本はいくつもの点で対照的な国に思える(まあ言い古されたことだね) 抑制のきいた能の繊細な世界を離れて、「ロボット・レストラン」に入ると感覚への猛爆撃をくらった。これにくらべたらラスベガスだって洗練されて見える。耳がつぶれそうな爆音ロック音楽のなか、若い日本人のお嬢さんが漫画そのものの肌もあらわな衣装で、怖そうな怪物の出で立ちをした男どもを無慈悲に鞭でしばくのがお好きなら(お好きでしょ?)、ここのショウは見逃せない。日本人はほぼ一人も見かけなかった。ここから何事かがわかるというものだ。その日は、さらに、西洋人の旅行客たちがゴーカートで渋谷を走り回っているのも見かけた。みんな、へんてこなコスチューム着用だった。こと、奇抜な楽しみを思いつくことにかけては、日本人はひるむところを知らないらしい。いいと思う。多くの場合は、見慣れた製品に工夫をしてもっと便利にしてるだけのことだ。これが次の観察につながる:

3. 日本は細部にあり

日本を旅行していて楽しいことはいろいろだけど、ひとつ挙げれば、ありとあらゆる種類の小さな細部が興味深いのに気づく。日本人はよそでも広く使われている製品やプロセスを完璧に仕上げるのに長けている。デパートの地下階に降りると、これまで見たことないような焼き菓子がずらりと並んでいて驚嘆した。甘党のみなさんにとっては、ここは楽園だ。移動方法にはいろんなイノベーションがある。たとえば自動で開くタクシーのドアがそうだし、電車の運行時間が完璧に精密なことときたら、あやうく爆笑しかけるほどだ。朝、東京の駅で何千人もの通勤客たちが精密かつ効率的に同期して動く様子なんて、仕込みの集団演技かなにかかと思いそうになる。まるでハリウッド映画のワンシーンみたいだった。人の流れをあえて横切る真似はしないでおいた。あの精密時計のような動作を崩してしまいやしないかと思ったんだ。

奈良で見かけたドアの細部:

4. リバタリアンな日本

日本の喫煙・飲酒可能年齢は20歳以上だと読んだことがあるけれど、この年齢制限は徹底されていない。タバコの自動販売機があちこちにあるし、ごく一部にはアルコールの自販機もあるそうだ。大阪のレストランでは、吸い殻が2本置かれたままの灰皿も目にした。ゾクゾクしたね。〔『地獄の黙示録』の〕キルゴア大佐をもじって言えば、紙巻タバコの煙ってやつぁな…自由の香りがすんだよ。日本にはいまだに電話ボックスがある。おかげで、携帯電話がなくてもやっていける。(ぼくの iPhone 6s は到着初日に壊れてしまった。さっきの奈良の写真は妻のを借りて撮った。) よく立ち寄った店はどこもクレジットカードお断りだった――これも、ぼくの見解では大きな加点だ。

5. 視覚的日本

ぼくはとても視覚指向の強い人間なので、旅行では食べ物よりも視覚イメージの方が動機になる。日本の視覚的な美学はぼくの好みドンピシャだ。とくに、絵画・映画・建築・デザインがいい。とはいえ、建築の多く(もしかすると大半)は実に無味乾燥で、醜くすらある――とくに、築20年代〜60年の建築がそうだ。ごくふつうの建築は、多くが戦後好景気のあいだに打ち壊された。ぼくが興味を抱くのは、とても古いものととても新しいものだ。モダニストの商業建築や美術館と並んで、もっと最近の日本住宅にはとても魅力的なものをよく見かける。

京都のような場所の古い寺院や庭園は想像以上によかった。うららかな春の1日に、そういうすばらしい京都の庭園にいけば、きっと生涯で指折りに驚嘆すべき美しい景観が見られる。もっと小さな規模だと、日本人は陶器のデザインがとてもうまい。それに、お店やレストランでの食品の陳列も上手だ。ところで、ぼくは食通じゃないけれど、日本の食べ物はすばらしくおもえるし、比較的に手頃な価格だ。東京で食べた昼食は700円だった(税込、しかもチップ不要)。つまり、6ドル50セントだ。アメリカなら、きっと10ドル以上になったはずだ。とくに税とチップを入れたらあっさり10ドルを超えてしまうだろう。

日本の都市は、夜景の方がいいことが多い。大阪のあちらこちらはタイムズスクエアみたいに見える。

6. 野蛮人襲来

東京のような場所で外国人旅行客と地元民が入り混じっているところを目にすると、地元民の方が様子がいい。旅行客(大半は西洋人と東アジア/東南アジア人たち)は声が大きくて、あまりお行儀がよろしくなくて、着こなしもあまり魅力的じゃないし、もっと太っている、などなど。東京の富裕な地区では、男性はスーツを着こなしているし、女性は西洋よりも優雅な格好をしている。もっと若い層の女性たちの服装はなんというかしばしばすごく…清楚だ。これがふさわしい言葉なのかどうか。かと思えば、まるっきりどうかしてる格好の若い女性たちもいる。外見はさておき、日本には中間がない。

京都の地元住民たちは、いきなり旅行客がおしよせてきてちょっと動揺している。日本への旅行客は、2005年に500万人だったのが2016年には2400万人にまで急増していると読んだことがある。まもなく4000万人に到達する見込みだそうだ。あの過密な人口にも関わらず日本社会をうまく回している複雑な規則は、旅行客には知る由もない。(オルト右翼は、(雑種犬みたいな)アメリカへの移民よりも日本への移民に対して強い反対論を唱えそうだ。) ここにいると、自分が大きすぎてぎこちないような気持ちになる。しょっちゅう、どこかに頭をぶつけてしまったりテーブルにスネをぶつけてしまったりしてる。

今回の旅行に来る前に、『三体』三部作〔劉慈欣のSF小説〕を読んだ。未来では、人々はもっと魅力的で物腰おだやかで、あまり無骨じゃなかった。都市のいたるところにはビデオスクリーンがあった。東京を見ていると、ああいう想像の未来社会を思い出す。

ところで、個々人を見ているだけだと中国人と日本人を見分けるのはむずかしい(喋れば別)。でも、集団になるとかんたんに見分けられる。ドイツ人とイタリア人みたいなものだ。「人種とは社会的構築物だ…いやちがう」論争を思い出す。ぼくの目には、日本人は少しだけ西洋人寄りに見える。

7. 意外なこと

オーストラリアの北部沿岸の沖にある島について読んだ話を思い出す。その島では、左や右の概念がないんだそうだ。なにもかもが、北や東のようなコンパスの方角で記述される。その島の人たちなら、「ジョンはマックスの西に座っている」というわけだ。東京はその真逆だ。ぼくらがいたところの北にある地域について話していたら、ぼくらのホストが言った。日本じゃほぼ誰も方角で考えたりしないんですよ。あちこちの街角にある地図には、最初は混乱してしまった。南北がさかさまで南が上になっていることが多いんだ。

東京の交通は驚くほど空いていることが多い――楽にあちこち動きまわれる。理由は駐車するところがほとんどなくてみんな公共交通機関を使うからなんだそうだ。

地下鉄にはたまに「女性専用」車両がある。たぶん痴漢防止なんだろう。つまり、”Me too” 運動は日本でもいくらか進展を見せているわけだ。

日本人はなんであんなにスリムで健康的なんだろう? 秘密は、糖分・炭水化物・脂肪が豊富で果物や野菜の少ない食生活にあるように見える。おっと、それに喫煙もね。ダイエットコークやコーヒーに入れる糖分ゼロ甘味料を探してみるといい。

昔、宮崎駿のアニメ映画を見たときにはすごく面白い樹々の描き方をするもんだと思っていた。いまではその理由がわかる。日本の木々は実際にあのとおり積乱雲みたいにもこもこと青く繁ってるんだ。

昨晩の夕食は、富士山の麓にある伝統的な日本の温泉でいただいた(おすすめ)。出された貝は、目の前のテーブルでまだまだかなり元気に動いていた。Memories of Oldboy だ〔短編映画にそういうのがあるらしい〕。アメリカ人の多くは、こんな様子を目の当たりにしたらうろたえてしまうだろう。

ウェイトレスの多くは、柔らかい口調で子供みたいな声で話す。(もしかすると本当に子供なのかもしれない。年齢の判断が苦手でね)

富士山は想像以上に印象的だった。

8. 経済

日本をアメリカと比べるのは本当に難しい。2つの国があまりにちがっているからだ。京都の専門職カップルの家を訪ねたときには、生活水準はアメリカの中の下の階層が暮らす住宅で見かけるものに近いように見えた。日本の消費は、アメリカよりもっと平等で、アメリカの上位50パーセントは日本よりもはるかに高い水準で消費しているのに対して下位50パーセントは日本の水準に近いんじゃないかと思う。日本にもいいところはある。たとえば、すばらしいサービスや犯罪率の低さがそうだ。高水準のサービスは労働集約的で、数値に現れる労働生産性を下げているかもしれない。生産性は、高い人口密度によってもいくぶん下げられているかもしれない(ウォルマートを建てるような土地はなかなか見つけられない)。それに、重い規制もある。これは、規則の厳しい文化を部分的に反映している。とはいえ、これはたんにぼくの当て推量でしかない。労働市場はきびしいようで、多くの外国人が単純作業のために連れてこられている。

9. 思いつくままに感想を

ドナルド・リッチーの言葉を思い出す。「日本は住むのに最高の場所だ、日本人でないかぎりは。」 日本を訪れる西洋人は、日本社会のありとあらゆる美点を享受しつつ、数々の規則に従うことは期待されずにすむ。部外者の目には、ああいう規則は身動きがとれなくなるものに思えることもある。部外者として日本にいることをぼくはすごく楽しんでいるし、Pico Iyer がやったように京都で1年暮らせたらいいのにとも思う。

かつて1986年にロンドンで暮らしたときには、現代ロンドンを全て視界から消し去って、スティーブンソンやチェスタートンで描写されてる都市にいるんだと空想したいと思った。東京では、そうでもない。未来主義は東京の魅力の一部になっている。とはいえ、昔の文章で描写されていた日本には、いまや失われた魅力的な特徴がある。いい面で言うと、ほかの大半の地域とちがって、日本は世界の主要宗教(キリスト教、イスラム教、ヒンドゥー教、etc.)にあまり影響されていない。

日本にいると、強烈な懐古感をおぼえる。理由はいまひとつわからない。輪廻転生は信じていないけれど、赤白模様のパイロンや高架を走る電車には奇妙なほどなじみを覚える。たぶん、この既視感は日本映画をたくさん見たせいだろう。いろんな日本映画のイメージが下意識に深く入り込んでいるんだ。(ところで、日本にくるとすぐにわかる。小津安二郎や成瀬巳喜男は、黒澤よりも「日本らしい」監督だ。) あるいは、もしかすると、木版画を長時間見すぎたせいかもしれない。木版画で描かれていた景色をついに自分の目で見て既視感を覚えているのかもしれない。あるいはひょっとして、ぼくの性格がアメリカ人ではなく日本人寄りなのかもしれない。ぼくは礼儀正しい人たちが好きだ。(いつもの下品なインターネットペルソナでぼくを判断しないように。)

若い人なら、中国や東南アジアに行くといい。それから、ずっと歳をとってから日本にくること。そうしたら自分の(空想の)過去を再発見できる。

PS. 足を怪我したりこの11日ほどひどい風邪をひいたりしてるいるせいで、それにロンドン時代より年齢が2倍になっているせいもあって、見たかったものを思うように見られていない(ぼくの(年下の)妻の方がたくさん見てる。) それでも今回の旅行が楽しいという事実が、日本について多くを物語っている。京都に関して唯一おすすめするのは、人気の場所を見に行く時間帯を早朝か終了間際にして、もっと人気の少ない場所を昼間に回ることだ。嵐山に行くなら、この邸宅を見逃さないこと:

PPS. 旅行のロマンスをメールやフェイスタイムが台無しにしてくれるのを大いに憎んでいる。いい意味で。


Comments

  1. おつです これ抜けてませんか
    The economyの部分
    >Japan does have some advantages, like excellent services and low crime rates.

  2. 細かくてアレなんですが、
    「ごく古い」で、「とても古い」もの指すとは思えない
    ごく古いなんて日本語あるんでしょうか
    「ごく新しい」で直近の新しいものはわかるんですが、どうでしょうか

    >I’m interested in the very old and very new stuff.

    副詞のごく
    https://www.weblio.jp/content/ごく

    >数量・程度・回数などが少ない意を表す語に付いて,その程度がはなはだしいさまを表す。

    ごく古いで検索するといろいろな翻訳文がでてきます

    • optical_frog says:

      コメントに気づくのが遅くなってすみません.「ごく~」の箇所をなおしておきました.たすかります.

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