タイラー・コーエン「ウクライナ危機の外交的影響」

非核化の期待収益率低下

Tyler Cowen “The expected rate of return from denuclearization has fallen” (Marginal Revolution, March 2, 2014 )

いいかい。この非核化をすることによって得られる期待収益率が低下したっていうのは、現在の危機の副産物のただの一片だ。僕自身はウクライナへの関わりはほとんどなかったけれど、一人のアメリカ人として、ウクライナが核兵器を放棄していたことは喜ばしく思っている。おかげで紛争がもっと大きなものになるリスクは限定的なものになっているからね。でももし自分がウクライナ市民だったとしたら、僕の考えはちょっと違ったものだっただろう。

次に引用するのはウクライナの非核化に関するロバート・ステファン・マザースの興味深い研究だ。マーチン・フェルドシュタインへの期末レポートとして書かれたものらしい。

ウクライナの核情勢に関する堂々巡りの交渉は、最終的に1994年1月モスクワにおける、クリントン、エリツィン、クラフチュク大統領による三者共同声明への署名をもって終止符が打たれた。この合意でウクライナは、「自国領域内に設置された戦略攻撃兵器を含む、あらゆる核兵器を廃絶する」ことを誓うものとされた。こうした譲歩の代わりに、アメリカとロシアは(ウクライナにとっての第一の懸念であった)ウクライナの領土保全を守るとともに、いかなる国もウクライナに対して武力や強制力の使用および威嚇をすることがないと保証した。(中略)ウクライナの主な懸念は最後には解決されたのだ [1] … Continue reading

NATOによる正式な保証の価値もまた下がっているように思える。それも急速に。いくつもの東ヨーロッパ諸国がアメリカに保証の強化や明確化を頼んでいるんだ。ラトヴィアはどう考えているだろうか。台湾、日本はどうだろう。ジョン・ケリーと交渉中のイスラエルはどうかな。

これを指摘してくれたビル・バドリックに感謝。


外交にとって信頼性はどれくらい重要?

Tyler Cowen “How much does credibility matter in foreign affairs?” (Marginal Revolution, March 3, 2014)

ある見方においては、信頼性は鎖みたいなものだ。アメリカがその公的な約束の一つを守らなかった場合、信頼性という名の鎖はバラバラになってしまう。要するに、外部の人はアメリカ政府の行動によってその潜在的な本性を予測しているんだ。約束を守らなかったり、コミットメントを履行できなかったというたった一つの行動が、僕らアメリカは信用できないとか、弱くて意気地なしということを示してしまい、そしてそういう僕らの本性に対する評価はもっと一般的に、全てあるいはほとんどのコミットメントに対して適用されることになる。

もう一つの見方では、そもそも僕らは信頼性といったものをそんなに持っていない。正確に言えば、僕らは僕ら自身の利益となることをするということについては信用してもらうことができる。でもこの場合、僕らの本性についての潜在的な不確実性はそんなにない。だから僕らがルリタニア [2]訳注;アンソニー・ホープの小説に出てくる、仮想の中欧の国 に対して月を持ってくると約束して、そしてそのお届けに失敗したとしても、世界はそれでも必要な場合には僕らはカナダを守ると考える。ただ単にそういった行動が僕らにとって理にかなっているという理由からね。こうした設定のもとでは、一回の約束破りは僕らの本当の関心範囲に対する推測を変更させるけれど、誰一人としてアメリカ政府の本性に対する推測はそう大きくは変化させない。

最初の見方を信じる限りにおいて、ウクライナの領域保全に対する自分のコミットメントを守ることについての無力あるいは意思の欠如は、とんでもないことになる。二つ目の見方を信じるのであれば、僕らのコミットメントは大体において信頼性のある物ものであり続ける。

大部分において、僕はアメリカの外交政策を理解するにあたっては一つ目よりも二つ目の見方のほうが当てはまると思っている。何世紀にもわたって僕らは約束やコミットメントを破ってきて、それでもある程度の潜在的な信頼性は保っている。1975年にサイゴンの屋上から逃げてったヘリコプター [3] … Continue reading を思い起こしてほしい。

ただ、台湾や日本の島、あるいはその他の太平洋の島嶼については、一つ目の見方が重要だと思う。つまり、世界は僕らの本性を知らないと僕は思ってる。太平洋での中国の影響力を抑えるために紛争の危険を冒す意思が僕らにどれだけあるか。僕らがどう決めつけるにせよ、本当のところは不透明だし、多分アメリカの政策決定者自身にとってすら不透明だろう。(それと反対に、中東やイスラエルに関係する事態に対するアメリカ人の選好のパラメーターや、そしてそうした事態を変化させるための費用を負担する僕らの意思については大量のデータがある。)

これが、ウクライナの危機がどうして太平洋にとって恐ろしいものなのかということに対する別の考え方だ。これは、日経平均が月曜朝(アジア時間)の取引開始直後に2.5%も下落し、終値では1.3%の下落となった理由の一つだ。その一方で中国の株式市場はただ平穏だったんだ。

References

References
1 訳注;このような形でウクライナは見返りと引き換えに核を廃絶したのに結局その見返りは守られなかった、じゃあうちの国は核廃絶はしないほうがいいな、ということが起こりうるということを示す意味でコーエンはこのレポートを引用している。
2 訳注;アンソニー・ホープの小説に出てくる、仮想の中欧の国
3 訳注;ベトナム戦争末期のサイゴン陥落直前に、アメリカが大使館の屋上から市民をヘリで避難させたフリークエント・ウィンド作戦を指している。
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