タイラー・コーエン「ロボットに課税すべきか?」

[Tyler Cowen, “Should we tax robots?” Marginal Revolution, March 6, 2017]

先日ビル・ゲイツがロボットに課税することを提案した.私見では「課税」という言葉をどれくらい文字通りにとるべきなのか議論の余地があるけれど,それはさておき,この提案は一考する価値がある.この案をノア・スミスがとりあげたコラムはこちらサマーズによる『フィナンシャルタイムズ』論説はこちら『ワシントンポスト』論説はこちらイザベラ・カミンスカもここで論じている

歳入増加に関する論点(歳入を増やすにはロボット課税も含めて資本への課税がまずまちがいなく必要だろう)は脇に置くとして,最適な歳入が得られているとき,さらに追加でロボット課税を行う別個の論拠があるだろうか? この文脈では,「ロボット」とはとくに人間労働の代替になりやすい資本のことだとぼくは考える.

おそらく,ロボット課税を支持する主張は,分配に関わる理由か「しあわせな人間から生じる外部性」に関わる理由のどちらかによって,資本が労働を置き換える速度を低下させるべきだというものだろう.でも,この仮定を受け入れたとして,ロボットに課税すべきなのか賃金労働に助成金を与えるべきなのか,どちらだろう?

ロボットに課税すべきでない理由を1つ挙げれば,ロボットに代替するのを思いとどまった雇用主は,国内の人間労働に向かうのではなく,天然資源に向かうかもしれない.たぶん,こう言われてもピンとこないだろうけれど,他国に外部委託して,その産物を輸入するエネルギーコストの支払いを思い浮かべてほしい.

ただ,主要な論点は,おそらく帰着の問題だろう.賃金助成に総じてついて回る問題は,その多くが雇用主にぶんどられてしまうという点だ.たとえば,勤労所得控除 (EITC) のかたちをとる助成だと,雇用主が従業員への支払いを減らしても,正味の賃金総額(つまり雇用主の支払いと給付の総額) はいくらか高くなるので,働きたい意欲のある労働者はその仕事をやりたがるだろう.その給料をもらいたい労働者がじゅうぶんにたくさんいれば,雇用主は勤労所得控除の多くをじぶんの懐に入れつつ必要な労働力を確保できる.

さて,ロボット課税の帰着はどうだろうか.ロボット需要の弾性が高ければ,〔ロボットに課税すると〕 ロボットから労働(や土地その他の資源)に大きく移行がすすむだろう.少なくとも,賃金への直接助成よりは,労働者がこの移行による利得をたくさん手にすることが可能だ.他方で好ましくない点もある.この仕組みのもとでは,〔直接助成の場合ほど〕雇用主はあまりいい思いをしない.

というわけで,要となるのは,労働とロボットそれぞれの弾性がどう関連するのかという点だ.ありそうなパラメータの値についてぼくには見通しがないけれど,こうしたシナリオでは,どんな結果もありうる.ロボット課税が最善手となるのは,ロボット需要の弾性が高い一方で労働需要の弾性が低い(そしてそれぞれの供給の弾性の差でこれが相殺されない)ときだろう.ロボットと労働が互いに代替になりやすくなるほど,需要の弾性のちがいは小さくなっていきそうだ.だから,ロボット課税をやるとしたら,たぶん,すぐにやる必要がある.必要でなさそうに思えるときにこそやるべきだ.

選ぶのはみんなだけれど,問題の基本的な構図はこんな感じだ.

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