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タイラー・コーエン「移民抑制がスイスで可決:反発されずに可能な移民はどの程度?」 / ハンスピーター・ウィス「スイスで”ストップ大量移民”が可決」

タイラー・コーエン「移民抑制がスイスで可決:反発されずに可能な移民はどの程度?」
Tyler Cowen “The Swiss vote for immigration curbs: how much immigration is possible without a backlash?” (Marginal Revolution, February 10, 2014)

まずはこのニュースを見てほしい。

わずかに過半数を上回る有権者によって、国内に居住・就業することを許可された外国人の人数に対する制限の再導入する案が日曜日にスイスで採択され、この動きによってスイスのEUとの関係に対してより大きな波紋が投げかけられる可能性がある。

次のところに注意。

欧州連合非加盟であるスイスは、ヨーロッパで最も高い外国人比率を持つ国の一つとなっており、約800万人の人口のうちおよそ27%が外国人である。

僕の考えではスイスでは経済面でも文化面でも移民はうまくやってきていたと思うし、この出来事を見て非常に残念に思う。これがEUとの関係に危機をもたらしかねない事実ということを除いてもね。とは言うものの、この27%は今日におけるほとんどあるいは全ての富裕国の移民上限についての一種の基準値と考えることができる。外国人の割合がこれに近い数値へ近づくと反発が起きると僕は考えている。

未開拓分野や労働者の不足がある場合にはこの数値はもっと高くなるだろう。そうした条件は一般的に今日の富裕国には存在していない。アダム・オジメクは移民についてのデータを市民に対するフローとストックとして再構成していて1 、スイスのストックは32%超のルクセンブルクと27%超のイスラエルに次いで世界で三番目に高い。僕としてはイスラエルは考慮しない。というのは外交的な言い方をすれば、彼らのフローは大部分が旧ソ連からの宗教的・民族的な一体化によるもので、ある程度まではそれ以外の潜在的な人口フローから自分たちを守るためのものだからだ2

アメリカは12.1%が外国生まれで、このリストでは12位に位置している。移民のフローを示しつつアダムは次のように書いている。

この数字を見ると、年間100万人の移民を300万人にしても依然としてトップ5には入らない3

ここでは、よりリベラルな移民政策とはどういった、あるいはどうなりえるのかということに関係することがあるように思う。それはさておき、何らかの理由で小さな国は大きな国よりも多くの移民を経済的文化的意味で受け入れやすいのはどういったわけなんだろうか。これは直観に反するけれど、アダムの表はそうしたことを示しているように見える。(小さな国は文化的により統合されていて、だから何となくより堅牢ということ?)移民フローの受け入れの上位12か国を見ると、スペインだけが2000万人という人口水準を大きく上回っていて、あとはアイスランド、アイルランド、ニュージーランドといった国が目に入る4 (そしてより直近の計測値ではスペインはこの表から完全に外れてしまうんじゃないかなと思う)。これを考慮すると、アメリカの潜在的な移民の増加範囲はより狭まってしまうだろう5

出入国自由化という考えについての僕が反対する理由の一つは、それが持続的な現に実現している移民フローへマイナスの影響を与えるだろうと考えているからだ6

追記:スイス全体の投票分布はここ。イタリア語圏が一番反移民だった。スイスは罰せられるべきでないとしているラシュマンの文章はここ。デニス・マクシェーンによる素晴らしい分析はここ。全般的に見て、僕はこれがヨーロッパ全土に広がるより広範囲の政治的激震になると思っている。


ハンスピーター・ウィス「スイスで”ストップ大量移民”が可決」
Hanspeter Wyss “Pass the Referendum “Stop Mass Immigration”(blog.worldbank.org, February 10, 2014)

激しい投票前キャンペーンを経て、50.3%というギリギリ過半数のスイスの投票者たちはEU諸国からの移民に上限割り当てを再設定する「ストップ大量移民(Stop Mass Immigration)」のレフェランダムを可決した。2月9日に行われたこの投票には56%のスイスの有権者が参加し、これは過去40年で最も多い投票率だった。

このレフェランダムは接戦となることが予想されていた。それが可決されたことは、しかしながら一つの驚きだ。というのもスイス政府のみならず産業界や政党も、このレフェランダムを発案した国民主義・保守主義右翼政党であるスイス人民党を除いては、これに反対するキャンペーンを張っていたからだ。この投票結果を説明づける理由を一般化するのは難しい。とりわけても投票行動について顕著な地理的格差があるからだ (地図を参照)。フランス語地域はレフェランダムに反対で、ドイツ語地域はバラバラ、イタリア語地域のカントンだけが硬く賛成。大都市(チューリッヒ、ジュネーブ、バーゼル)の位置するカントンは全て上限割り当てに反対だった。

Swiss-map

一面において、確かに近年EUから来た移住者の数は顕著なものとなっている。2007年にEU市民の自由な往来を許可して以降、主にドイツ、ポルトガル、フランス、イタリアから年間6万~8万人かスイスへと働きに来ている。この数字は人口800万、そしてその5分の1が外国人である国にとっては相当なものだ。他方で失業という移民がしばしばスケープゴートにされる数字は、スイスにおいては依然として非常に低く、3%程度だ。

このことからスイスの有権者は、住宅価格の上昇、公共交通機関の益々の混雑、渋滞の増加、最良の教育や医療を得るための競争についてより懸念していたように思える。

特にスイスの産業界はこの結果を憂慮するだろう。彼らはEUの才能のプールに依存しており、「賛成」の投票がスイスの競争力を損なうだろうことを懸念してきた。さらに、この案の可決は移民に対してだけでなく、1999年に署名された投資に関するものを含むその他の合意を脅かすことで、スイスとEUの関係についてより重大な結果をもたらす可能性も高い。スイスの輸出の56%はEUへと向かい、入ってくるものの80%はEUからだ。単一市場へのアクセスが制限されることになれば現在の低失業率は今や上昇することになるという懸念がなされている。さらに、このレフェランダムはスイスにいる外国人労働者だけでなく、現在EU内に住んでいる45万人のスイス人にも影響を与えるため、彼らの地位は現在危ういものとなっている。

スイスの「直接民主主義」という特異な形態のために比較は難しいものの、今回のスイスのレフェランダムには、反移民政党の影響力増大に直面するヨーロッパ各国の政府が学ぶべきものがある。一つは無頓着であることを防ぎ、移民を積極的に擁護するというもの。二つ目はビジネスとの連携を密にするというもので、これはスイスでもどこでも産業界はしばしば移民擁護において政府よりも積極的な立場にいるからだ。三つ目の教訓は、移民についての客観的議論の空間の維持についてのものだ。必要なのは移民の便益と落とし穴についての誠実かつ開かれた議論だ。スイスでは、有権者たちは今そこにある現実よりもメディアの宣伝や政治的キャンペーンに反応したのであり、その反応によって国の経済と国際的な立ち位置へマイナスの影響がもたらされる公算が大きい7

採択された文言によれば、この先3年間でスイスの法律は改正されなければならず、関連国際条約(主にEUとの二国間協定)はその都度再交渉されなければならない。この結果にがっかりとしつつも、スイス政府、EU、産業界はこの結果を受け入れ、互いに合意可能で有益な調整に向けて働き始める他はない。これは実のところ移民のプラスの影響に光を当てる機会なのかもしれない。スイス人民党がこうしたプロセスにおいて演じる役割は未だ見えていないが、今やスイスの多くの声がこのレフェランダムの発議者がまず第一に先に向けた具体的な提案をすべきであると考えている。

(本エントリは世界銀行のウェブサイト使用条件に従って掲載しています。The World Bank: The World Bank authorizes the use of this material subject to the terms and conditions on its website, http://www.worldbank.org/terms.)

  1. 訳注;一定期間内に移民してくる数=フロー、現在国内にいる移民数=ストックとして、それらの自国民に対する割合を出しているということ。 []
  2. 訳注;非ユダヤのフローの影響をなくす、ないし緩和するために旧ソ連にいたユダヤ人移民を移入させてるという趣旨。 []
  3. 訳注;アメリカの年間100万人という流入移民数は数としては断トツでトップだが、人口比にしたフローで見るとそれを3倍にしても上位には入らない。ちなみに、上位は3位のスペインを除いてルクセンブルク、スイスをはじめとして人口の少ない国が多い。 []
  4. 訳注;それぞれの順位と人口はスペイン4位・約4600万、アイスランド3位・約32万、アイルランド5位・約450万、ニュージーランド6位・440万 []
  5. 訳注;人口の大きい国が受け入れ可能な移民フローは少ないということが導かれてしまうという意味。 []
  6. 訳注;受け入れ可能な移民フローとストックに潜在的な上限があるのであれば、出入国の自由化が逆効果となると思われるという趣旨。 []
  7. 訳注;メディアと政治キャンペーンに踊らされた国民の投票行動により、移民制限というスイスの経済・政治的立ち位置へ悪影響を与える政策が採用されてしまったという趣旨と思われるが、少なくとも政党は右翼政党を除いてレフェランダムに反対していたという第二パラグラフとの整合性を著者がどう考えているかは不明。 []

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