タイラー・コーエン 「ジェラール・ドブリュー」(2005年1月6日、2006年7月4日)/「ライオネル・マッケンジー」(2010年10月12日)/「『Finding Equilibrium』 ~「競争均衡の存在」を一番最初に証明したのは誰?~」(2014年8月11日)

●Tyler Cowen, “Gerard Debreu has passed away”(Marginal Revolution, January 6, 2005)/“It is also Gerard Debreu’s birthday”(Marginal Revolution, July 4, 2006)


カリフォルニア大学バークレー校の元教授であり、需要と供給に関する画期的な業績でノーベル経済学賞を受賞した経済学者のジェラール・ドブリューが(2004年)12月31日にパリで亡くなった。享年83歳。死因は明かされていない。

ドブリューはカリフォルニア大学バークレー校で30年以上にわたって学生の指導にあたった。ドブリューがノーベル経済学賞を手にしたのは1983年。需要と供給の一致をもたらす価格の働きを明らかにした理論的な業績が評価されての受賞だった。

全文はこちら。ニューヨーク・タイムズ紙に掲載された訃報記事はこちらだ。

————————

Theory of Value』(邦訳『価値の理論-経済均衡の公理的分析』)のことはご記憶だろうか? わずか128ページの格調高い一冊。一般均衡理論をものの見事にまとめ上げた一冊。著者であるドブリューの略歴はこちらだ。ドブリュー本人による経歴の説明はこちら。ドブリューのウィキペディアのページはこちら

かつて本人自ら語っていたことだが、ドブリューはプルーストの感化を受けているらしい。人間社会の組織に及ぼす効果の面で「時間」(という次元)は「空間」(という次元)とどのくらい似ているのだろうか?(「時間」を「空間」と同じような次元の一つと見なしてもいいものだろうか? 「時間」を「空間」と同じような次元の一つと見なしたとしたら [1] … Continue readingどのようなことが言えるだろうか?) ドブリューはそのような問いを設定した上で(アローやハーヴィッツ、ワルドらの助力を得て)競争均衡の存在証明に取り組んだのだ。

ところで、娘のヤナのもとに無事手荷物が届いたそうだ [2] 訳注;航空会社の手違いで預けた手荷物が到着空港に届かず、空港で足止めを食っていたらしい。。ドブリューのモデルも昨夜に比べるといくらか現実的に感じられるような気がする [3] 訳注;同じ手荷物でも「在り処」(場所)が違えば別物、といったことが言いたいものと思われる。

——————————————————————————————————-

●Tyler Cowen, “Lionel W. McKenzie has passed away at 91”(Marginal Revolution, October 12, 2010)


ライオネル・マッケンジー(Lionel W. McKenzie)が(2010年10月12日に)亡くなった。享年91歳。マッケンジーのウィキペディアのページはこちら。マッケンジーの略歴についてはこちらも参照されたい。

マッケンジーは競争均衡(一般均衡)の存在証明に貢献した最も重要な人物の一人だが、それだけにとどまらずターンパイク定理の精緻化にも大きく貢献した学者の一人だ。マッケンジーはロチェスター大学で何十年にもわたって学生の指導にあたったが、ロチェスター大学に経済学の大学院課程(修士・博士課程)が設置されたのは彼の働きかけのおかげである。マッケンジーの教え子(の院生)には日本人が数多くおり、その関係でマッケンジーの名前は日本で特によく知られている。彼の手になる“Demand theory without a utility index”は経済学の標準的な理論の多くが「効用」に関する特殊な仮定に頼らずとも成り立つことを示した論文であり、古典としての地位を確立するに至っている。マッケンジーはCGE(計算可能な一般均衡)モデルのアイデアを早くから唱えており、貿易理論の分野でも権威ある論文の数々を残している。マッケンジーのその他の業績についてはGoogle Scholarでの検索結果を参照されたい。

——————————————————————————————————-

●Tyler Cowen, “*Finding Equilibrium*”(Marginal Revolution, August 11, 2014)


つい先日のことになるが、『Finding Equilibrium』が出版された。著者はティル・デュッペ(Till Düppe)とロイ・ウェイントロープ(E. Roy Weintruab)の二人。副題は「アロー&ドブリュー&マッケンジーと科学上の功績をめぐる問題」 [4] 訳注;この本の書評としては(どちらも英語になってしまうが)例えばこちらこちらも参考になるだろう。。個人的にお気に入りの一冊だ。経済学上の重要な定理の数々が発見されるに至るまでの内幕が暴かれており、特に(複数の学者による定理の証明の)同時発見に伴う問題に目が向けられている。副題に挙がっている三人の中で一番不遇な扱いを受けているのはマッケンジーだ。どうやらマッケンジーはマタイ効果の被害者となってしまったようだ。

References

References
1 訳注;物理的にはまったく同じ財でもその財が存在する「時間」と「空間」(場所)が違えば別々の財と見なす、という意味。「北海道にあるリンゴ」と「福岡にあるリンゴ」は別々の財であり、「2016年4月1日に北海道にあるリンゴ」と「2017年4月1日に北海道にあるリンゴ」もまた別々の財、といったようなこと。
2 訳注;航空会社の手違いで預けた手荷物が到着空港に届かず、空港で足止めを食っていたらしい。
3 訳注;同じ手荷物でも「在り処」(場所)が違えば別物、といったことが言いたいものと思われる。
4 訳注;この本の書評としては(どちらも英語になってしまうが)例えばこちらこちらも参考になるだろう。
Total
0
Shares

コメントを残す

Related Posts