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タイラー・コーエン 「タイタニック号の沈没事故において一体何が生死を分ける要因となったのか? ~『婦女子を優先せよ!』~」/「海難事故において人の生死を分ける重要な要因、それは船長の行動だ」

●Tyler Cowen, “Who survived the Titanic and why?”(Marginal Revolution, January 21, 2009)


ブルーノ・フライ(Bruno Frey)とデイビッド・サベージ(David Savage)、そしてベノ・トーグラー(Benno Torgler)の3人がタイタニック号の沈没事故をテーマに興味深い論文を執筆している(“Noblesse Oblige? Determinants of Survival in a Life and Death Situation”)。

予想外の外的なショックが原因となって生きるか死ぬかの瀬戸際に追い込まれた際に一体何が人の生死を分ける要因となるのだろうか? 本論文ではそのような極限的な状況において向社会的な(pro-social)行動が重要な役割を果たすのかどうかに特に着目するかたちでこの疑問に検討を加える。具体的には、タイタニック号の沈没事故――生きるか死ぬかの極限的な状況における人々の行動に関して非常に稀な証拠を提供している準自然実験の一つ――に焦点を合わせる。本論文での実証的な分析結果によると、生きるか死ぬかの極限的な状況においても人々は「婦女子(女性と子供)を優先せよ!」(“women and children first”)1という社会規範を守って行動していた可能性が判明した。また、女性の中でも出産可能年齢期の女性の生存確率が特に高いとの結果が得られている。さらには、情報や資源(例. 救命ボート)へのアクセスの面で有利な立場にある乗組員たちの生存確率も高いことがわかった。他にも乗客の等級の違い(一等船客/二等船客/三等船客)や年齢、国籍、そして家族など多数と連れ立っての旅だったかどうかも(無事に生還できるかどうかを左右する上で)重要な役割を果たしていることが明らかとなった。

こちらの記事では著者の一人であるサベージがコメントを寄せているが、もう少しラフな仮説が語られている。

イギリス人の乗客は救命ボートに乗り込む際に列を作っておとなしく自分の順番を待ったが、アメリカ人の乗客は我先にと他人を押しのけて進んだ。タイタニック号の沈没事故で不釣り合いなほど多くのイギリス人乗客が命を落とした理由はそのためだ。オーストラリア出身の研究者はそう信じている。

クイーンズランド工科大学で行動経済学を研究するデイビッド・サベージは生きるか死ぬかの瀬戸際で人々がどのように行動するかを探るために20世紀に発生した4件の海難事故の分析に乗り出した。そして彼は次のような結論に辿り着いた。生きるか死ぬかの極限的な状況においては「適者生存」のメンタリティが支配的となるわけではない。そのような状況においても人々は利他的に振る舞ったり社会規範の影響を受けるのだ。しかしながら、彼が語るところでは、タイタニック号の沈没事故のケースにおいてはアメリカ人の乗客は他の国籍の乗客よりも生存確率が8.5%ポイント高く、その一方でイギリス人の乗客は他の国籍の乗客よりも生存確率が7%ポイント低いという。

サベージは次のように語る。「そのような違いが生まれた理由はおそらくは三等船室を利用したアメリカ人乗客がごく少数だったこと、そしてイギリス人乗客は大変礼儀正しくて、救命ボートに乗り込む際も列を作っておとなしく自分の順番を待ったという可能性が考えられます。私が思い付く理由はこれくらいです。」(救命ボートが設置されているデッキに一番近かったのは一等船室であり、三等船室はそこから一番遠い位置にあった)

サベージ自身も認めているように、アメリカ人乗客の行動に関しては直接的な証拠があるわけではない点には注意しておこう。

この論文は本ブログの熱心な読者であるLeonardo Monasterioに教えてもらったものだ。感謝する次第。
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●Tyler Cowen, “More data on survival during maritime disasters”(Marginal Revolution, August 9, 2012)


海難事故において一体何が人の生死を分けるのだろうか? ミカエル・エリンダー(Mikael Elinder)とオスカー・エリクソン(Oscar Erixson)がこの疑問に関して詳細な検討を行っている(“Gender, social norms, and survival in maritime disasters”;米国科学アカデミー紀要(PNAS)に掲載された最終稿はこちら2

海難事故が発生した場合には婦女子の命が優先されるという話は広く知れ渡っているところである。その詳しい証拠は主にタイタニック号の沈没事故の分析を通じて得られたものだ。しかしながら、エストニア(MS Estonia)号の沈没事故――第2次世界大戦後に北半球で発生した被害の最も大きな海難事故の一つ――のデータを細かく分析してみると従来の話とは異なる構図が浮かび上がってくる。バルト海で発生したエストニア号の沈没事故では137名が無事生還し、852名が死亡することになった。エストニア号には男性と女性がほぼ同数だけ乗り込んでいたにもかかわらず、生存者137名のうち111名は男性であり女性はわずか26名であった。この数字だけからでも「婦女子を優先せよ」という社会規範が守られたのかどうか疑問符が付くが、それ以外の多くの海難事故を対象として行った性別ごとの生存率に関する計量経済学的な分析の結果に照らしても乗客や乗組員の行動は「婦女子を優先せよ」という社会規範に反するものであったことは明らかである。タイタニック号の沈没事故も含んだ多数の海難事故において一体何が人の生死を分ける要因となったのだろうか? 船長の行動が重要な役割を握っているというのが本論文での我々の主張である。船長が「婦女子を優先せよ」と命令を下し、暴力に訴えてでもその命令に従わせるつもりであると脅した場合においてのみ女性の生存の見通しは高まることになるが、それ以外の場合においては女性の生存の見通しは(男性と比べて)低いのである。

  1. 訳注;婦女子を優先的に救命ボートに乗せる []
  2. 訳注;以下の文章はPNASに掲載された最終稿からの引用ではなくワーキングペーパーのアブストラクトからの引用だが、ワーキングペーパーのリンクが切れておりネット上でその所在を突き止めることはできなかった。PNASに掲載されている版とは文章の表現に違いがある点に注意されたい。 []

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