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タイラー・コーエン 「リスク vs.不確実性」

●Tyler Cowen, “Risk vs. uncertainty”(Marginal Revolution, December 13, 2005)


フランク・ナイト(Frank Knight)やオースリア学派の著作に目を通したことはあるだろうか? そこでは「リスク」と「不確実性」が区別して論じられているわけだが、そもそもこの区別は一体どういったことを意味しているのだろうと疑問に思ったことはないだろうか? そのような疑問に対してニューロサイエンス(神経科学)が答えのヒントを提供しているようだ

実験に参加した被験者たちはfMRIで脳の活動を観測されながら曖昧な(ambiguous)賭けに臨んだのであった。

実験の一つでは2種類の箱が用意された。「リスキーな」箱の中には赤色のカードと黒色のカードがそれぞれ20枚ずつ入っている。もう一つの「曖昧な」箱には赤色のカードと黒色のカードが合わせて40枚入っているが、その内訳がどうなっているか(赤色のカードと黒色のカードがそれぞれ何枚ずつ入っているか)はわからない。そして被験者たちは次のような選択を迫られたのであった。「どちらか一方の箱を選んで一枚だけカードを引き、それが赤色のカードだったら賞金を差し上げます。あなたはどちらの箱を選びますか?」

大半の被験者は「リスキーな」箱を選んだ。しかし、論理的にはどちらの箱も優劣つけがたいはずである。というのも、どちらの箱を選んでも赤色のカードを引く確率は2分の1だと考えられるからだ1

fMRIでスキャンした脳の画像によると、「曖昧な」賭けに直面した被験者の脳内では扁桃体と眼窩前頭皮質の活動が活発さを増す傾向にあった。これら2つの部位は感情のコントロールに関わっており、中でも扁桃体は恐怖心と密接な関わりを持つ部位として知られている。

曖昧さを伴う選択を忌避する態度と脳内の感情を司る部位の活発な活動との間に窺われるつながりは人間の進化という点から判断して理にかなったものだと言えそうである。コリン・キャメラー(Colin Camerer)は次のように語る。「危険な状況を前にして恐怖で固まってしまうというのはおそらくは我々の祖先が環境に適応するために長い時を通じて身に付けてきた古くから伝わる感情的な反応だと言えるでしょう。」

そしてその感情的な反応は現代人の脳の中で曖昧さを伴う出来事を忌避する態度へと読み替えられることになるわけである。

長期保険のマーケットがなかなか立ち行かない理由もこの線に沿って説明できるだろうか? この記事に気付くきっかけをくれたChris Masseに感謝する。

  1. 訳注;「曖昧な」箱では赤色のカードと黒色のカードがそれぞれ何枚ずつ入っているかはわからないわけだが、赤色のカードの方が黒色のカードよりも多く入っている(あるいは黒色のカードの方が赤色のカードよりも多く入っている)と見なすべき特段の理由もないことから、赤色のカードと黒色のカードは同じ枚数だけ入っているに違いないととりあえず見積もってみるというのも一つの判断としてありだろう。「曖昧な箱の中には赤色のカードと黒色のカードが同じ枚数だけ入っているに違いない」と見積もるということは言い換えると(「曖昧な」箱の中から)「赤色のカードを引く主観確率」(P(赤))と「黒色のカードを引く主観確率」(P(黒))が等しい(P(赤)=P(黒))と判断していることになる。それぞれの確率を足し合わせると1になるとすると(P(赤)+P(黒)=1)、赤色のカードを引く主観確率は2分の1ということになる。しかしながら、大半の被験者は「曖昧な」箱ではなく「リスキーな」箱を選んでおり、「リスキーな」箱の方が赤色のカードが出やすいと判断していることになる。「リスキーな」箱から一枚カードを引いてそれが赤色である確率は(40枚中20枚は赤色のカードであることから)2分の1なので、「曖昧な」箱ではなく「リスキーな」箱を選んだ被験者は「曖昧な」箱の中にある赤色のカードは20枚未満であり、「曖昧な」箱から一枚だけカードを引いてそれが赤色である(主観)確率は2分の1を下回る(P(赤)<0.5)と判断しているわけである。そうだとすると、大半の被験者は「曖昧な」箱の中にある黒色のカードは20枚より多く、それゆえ「曖昧な」箱から一枚だけカードを引いてそれが黒色である(主観)確率は2分の1を上回る(P(黒)>0.5)と判断していると言えそうだが、被験者たちに「どちらか一方の箱を選んで一枚だけカードを引き、それが黒色のカードだったら賞金を差し上げます。あなたはどちらの箱を選びますか?」と問うた場合、やはり大半の被験者は「リスキーな」箱を選ぶことだろう。つまり、その場合被験者たちはP(黒)<0.5(=「リスキーな」箱から一枚だけカードを引いてそれが黒色である確率)と判断していることになり、P(赤)もP(黒)もともに2分の1を下回る(言い換えると、P(赤)+P(黒)<1)という何ともパラドキシカルな事態が生じることになる。詳しくはエルスバーグ・パラドックスを参照のこと。 []

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