タイラー・コーエン 「レストランの経済学」(2003年9月7日)/「料金前払いは客の回転を早める?」(2014年9月16日)

●Tyler Cowen, “Restaurant economics”(Marginal Revolution, September 7, 2003)


商品の中には他と比べて「マークアップ」 [1] 訳注;売値と原価の差額、利幅 が大きなものがいくつかあるが、それはどうしてなのだろうと長年不思議に思ってきた。映画館のポップコーンはなぜあんなにも高いのだろうか? 高級レストランのワインはなぜあんなに値が張るのだろうか?

ニューヨークを代表するシェフである(ダニエルやカフェ・ブールー、DB ビストロ・モダンといった有名店を経営している)ダニエル・ブールー(Daniel Boulud)が回想録(『Letters to a Young Chef』)の中でまさにこの疑問に答えている。彼が経営するレストランの売り上げ全体のうちワインの売り上げは30%を占めており、ワインのマークアップ率は200~300%にもなるという。

ワインの値が張る理由は食事が終わってもなかなか帰りたがらないお客にそのテーブルを長時間占有する代償を支払ってもらうためなのではないかというのはジョン・ロット(John Lott)(そう、「あの」ジョン・ロット)とラッセル・ロバーツ(Russell Roberts)の共著論文(pdf)で提起されている説だが、ワインの値が張る理由についてブールーは価格差別に基づく別の説明を与えている。ブールーによると(pp. 62)、高級ワインに惹きつけられる客というのは「大口顧客」(“a great clientele”)で「料理を存分に楽しむ気が満々」(“willing to indulge”)であり、(新鮮なトリュフのような)「最高級の食材」だけを使った料理を味わいたいと考えていてその希望が叶えられるのであれば惜し気もなくお金を支払う用意がある。高値の高級ワインをメニューに載せておけばそういった客が惹きつけられることになり、料理に大枚をはたいてもらえるというわけだ。しかしながら、高級ワインだけを取り揃えておけばいいというわけではなく、ある程度手頃なワインもメニューに載せておく必要がある。「おいしいワインを嗜みたいと思っているが、値の張るワインには手が出ないというお客もいる。店の将来はそういったお客にもかかっており、高額なヴィンテージワインだらけのメニューで仰天させて彼らの足を遠のかせてしまうわけにはいかないのだ。」

ブールーによると、優れたレストランはワインの投資 [2] 訳注;後々になって市場で高値がつくようになるワインをまだ安値で手に入るうちにいち早く見つけ出す能力 に秀でており、ワインが店の売り上げの中で重要な位置を占めているのもそこのところに求められる [3] … Continue readingという。

ブールーの回想録ではレストランの経営者や若手のシェフに向けて色んな種類のアドバイスが送られている。「ナイフをいつでも鋭く保っておくように」というのはよく聞くところだが、プロのシェフを喜ばせたければキャビアではなくブタの頭をプレゼントするのがいいらしい [4] 訳注;プロのシェフはプライベートでは何気ない料理を好むというのがその理由のようだ。

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●Tyler Cowen, “Should a restaurant require prepayment for meals?”(Marginal Revolution, September 16, 2014)


中国のレストランで「料金前払い制」を採用している店舗が多い理由についてQuoraで数多くの意見が寄せられている。そのうちの一つを以下に引用しておこう。

自分が経営しているレストランで実際に試してみたことがあるのですが、「料金後払い」 [5] 訳注;食事がすべて終わった後に会計を済ませる から「料金前払い」 [6] 訳注;料理の注文後直ちに(料理が運ばれてくる前に)会計を済ませる に変更した結果としてテーブルの回転率は80%以上も高まることになったのです。

どうしてそういう結果になるかというと、(料金が後払いであるために)会計をまだ済ませていないお客は食事が終わった後もテーブルに居座り続けることを正当化できる理由を持っているから [7] … Continue readingというのがあるのでしょう。食事が済むとタブレット端末でフェイスブックを眺めたり、何時間もぶっ続けでお喋りを続けたり、ゆっくりとくつろいだりします。料理を追加で注文する気があるのかどうかはさして問題ではありません。料理を追加注文する可能性があることの何が問題かというと、お客がテーブルに居座り続けることを正当化できる理由が一つ増えることになるという点にあります。

その一方で、(料金が前払いであるために)既に会計を済ませているお客は食事が終わった後もテーブルに居座り続けることを正当化できる理由を持ち合わせていません [8] … Continue reading。もちろん料理を追加で注文することは可能ですが、「限界効用逓減の法則」 [9] … Continue readingに(注文のたびに会計を済まさなければならないという)面倒臭さが加わって、追加注文を頼むのが億劫になります。食事が終わると何となく落ち着かなくなってきて罪悪感を感じるようにもなります。そして店を出て行くというわけです。

「料金前払い」が客の回転を早めるかどうかはビジネスモデル次第のところがあります。低価格を売りとするレストランであれば「料金前払い」は客の回転を早める有効な手段となるでしょう。その一方で、高級レストランの場合は「料金前払い」は逆効果になるかもしれません。例えば、「ワイン1本に150ドルも支払ったことだし」ということで長居する口実 [10] 訳注;「こんなにたくさんお金を支払ったのだから少しくらい長居したって構わないだろう」との口実を与える格好になってしまう恐れがあります。

この話題を教えてくれたEduardo Pegurierに感謝する。

References

References
1 訳注;売値と原価の差額、利幅
2 訳注;後々になって市場で高値がつくようになるワインをまだ安値で手に入るうちにいち早く見つけ出す能力
3 訳注;ワインの売り上げが売り上げ全体のうちで大きな割合を占める理由はワインのマークアップ率が高いためだが、ワインのマークアップ率が高い理由の一つは時とともにその評価が高まることになるワインをまだ安くてそれほど知られていないうちに手に入れることに成功したためである、ということ。
4 訳注;プロのシェフはプライベートでは何気ない料理を好むというのがその理由のようだ。
5 訳注;食事がすべて終わった後に会計を済ませる
6 訳注;料理の注文後直ちに(料理が運ばれてくる前に)会計を済ませる
7 訳注;「食事が済んでいるのにどうしていつまでもテーブルに居座り続けているのか?」という疑問に対して「まだ会計が済んでいないから」という立派な(?)答えを返すことができる。
8 訳注;「食事も会計も済んでいるというのにどうしていつまでもテーブルに居座り続けているのか?」との疑問に対して納得のいく答えを返すことが難しい。
9 訳注;平らげた料理の数が多くなるほど(お腹が満たされれば満たされるほど)そこから新たに料理を口にすることの有難味(限界効用)が徐々に小さくなっていく(逓減していく)ために追加注文を頼む意欲が削がれていくことになる、ということ。
10 訳注;「こんなにたくさんお金を支払ったのだから少しくらい長居したって構わないだろう」との口実
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