タイラー・コーエン 「吸血鬼を題材にした本や映画が人気なのはなぜ?」(2009年11月13日)

●Tyler Cowen, “Why do vampires attract so many readers and viewers?”(Marginal Revolution, November 13, 2009)


こちらのワシントン・ポスト紙の記事で吸血鬼を題材にしたフィクションが人気な理由が探られているが、思春期から大人への移行期にある若者特有の心情が関係しているのではないかとの可能性が指摘されている。女性たちのゲイの男性に対する興味が関係していると語る記事もどこかで読んだ覚えがある(誰かその記事を御存知じゃないだろうか? [1] 訳注;おそらく次の記事がそれ。 ●Stephen Marche, “What’s Really Going on With All These Vampires?”(Esquire, October 13, 2009))。

吸血鬼は「私の趣味」とは言えないが、好きな作品もあるにはある。例えば、アン・ライスの初期の作品だとか『事件記者コルチャック』だとかヴェルナー・ヘルツォークが脚本・監督を担当した『ノスフェラトゥ』だとかだ。コッポラが監督を務めた『ドラキュラ』なんかは世の評論家たちの評価よりも出来がいいと感じたものだ。その一方で、『トワイライト』は最初の5ページくらいで脱落してしまった(『トゥルーブラッド』はチェックしておくべきだろうか?)。

吸血鬼を題材にした本や映画の魅力はどこにあるのだろうか? 個人的に思いつくところをいくつか列挙してみよう。

1. ストーリーが始まる前から大どんでん返しが待ち構えているに違いないとあらかじめ予想できる。物思いに沈みがちで口を開くと延々と語り続ける吸血鬼。これといった波風も立たずにコーヒーショップだとかでダラダラと時を過ごす吸血鬼の姿を映したまま曖昧なエンディングを迎える。そんな映画を作ろうと思い立つ制作陣なんて滅多にいないだろう。吸血鬼が登場するストーリーには「死」が付き物なのだ。

2. あの人物は見た目とは違って意外な顔を隠し持っているかもしれない。そんな話に人はつい惹かれてしまうものだ。吸血鬼を題材にした作品ではどの登場人物が吸血鬼なのかを探して見つけ出すのがストーリーの展開上重要な役割を担っていることが多い。そのことにばかり注目が行き過ぎている場合も時としてあるくらいだ。

3. 吸血鬼物の作品は「純粋で限り無き(果てしなき)欲望」 [2] 訳注;生き血に対する飽くなき欲望といったテーマを滑稽にならずに追い求めることを可能とする舞台を用意してくれる。同じテーマを現実に近い設定で追求しようとしたら滑稽な見た目になってしまう危険性がある(例えば、レーズン入りのチーズに目が無い男の物語を想像してみればいい)。

4. 吸血鬼は女性に「つれない」態度で応じるものだが、そのように振る舞う吸血鬼は旧世界の騎士道の理想を(一時的であるとは言え [3] 訳注;女性の首筋に噛み付いて生き血を吸うことに成功するまでの間、という意味。)立派に(?)実践していることになる。観客たちは吸血鬼のそんなやり口も遠巻きに眺めて素直に楽しむことができる。というのも、吸血鬼は我々とは別の生き物だからだ [4] … Continue reading

5. 男性はデート用の映画として吸血鬼物の映画を好む面もあるかもしれない。その理由は・・・その何というか・・・プライミング効果を期待してだ。映画がデート相手の感情 [5] 訳注;恋愛感情ないしは性欲を大いに高ぶらせる可能性をあてにしてというわけだ。それと似た話だが、女性はデート相手の男性が残虐なストーリーにどう反応するかを「テスト」しようと思っているかもしれない。その男性がどれだけ頼りがいがあるかを試そうとしているわけだ(反対に男性の方ではデート相手のか弱さを試そうとしているわけだ) [6]訳注;この点については本サイトで訳出されている次の記事も参照のこと。 ●アレックス・タバロック … Continue reading

6. 吸血鬼は世間からの冷たい目など物ともしないかのようだが、10代の若者の多くは吸血鬼のそのようなところに憧れを感じる面があるのであろう。

7. 吸血鬼物の人気の高さのいくらかは吸血鬼というテーマの内容それ自体とは無関係な可能性もある。あるテーマが何かのきっかけで一旦流行り出したらそのテーマに耳目が一気に集まることがあるものだ。最近ヘヴィメタルが大流行なのも同じくそのためなのかもしれない。

8. 映画の観客(本であれば読者)は吸血鬼のことについて予備知識を持っていて吸血鬼の弱点もわきまえているが、作品の中で吸血鬼と戦っている登場人物たちはそうではない。吸血鬼に立ち向かう登場人物たちは物語の設定上社会的地位が高いことが多いが、観客(ないしは読者)はそのような登場人物たちよりも(吸血鬼のことについて詳しいという意味で)賢くて優れているかのような感覚を味わうことができるわけだ。

9. 吸血鬼を題材にした歌や絵画で人気がある作品というのはほとんど見当たらない。ということは、吸血鬼物の人気は「物語としての側面」が重要な役割を果たしていると言えそうだ。

(吸血鬼を題材にしたフィクションが人気な理由についての)少しばかり突飛な回答はこちらを参照されたい。

References

References
1 訳注;おそらく次の記事がそれ。 ●Stephen Marche, “What’s Really Going on With All These Vampires?”(Esquire, October 13, 2009)
2 訳注;生き血に対する飽くなき欲望
3 訳注;女性の首筋に噛み付いて生き血を吸うことに成功するまでの間、という意味。
4 訳注;吸血鬼は「つれない」素振りをして女性の気を引こうとしているが、吸血鬼ではなくて現実にいそうな登場人物がそのやり口を使っていたら(何だか逆に見え透いた感じがしたりして)素直には楽しめない、といったことがおそらく言いたいものと思われる。
5 訳注;恋愛感情ないしは性欲
6 訳注;この点については本サイトで訳出されている次の記事も参照のこと。 ●アレックス・タバロック 「ホラー映画に関する『イチャイチャ理論』」(2017年6月22日)
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