タイラー・コーエン 「図書館の電子図書館化」(2012年1月15日)/「『影の図書館』 ~図書館、海賊版、社会主義経済計算論争~」(2016年4月24日)

●Tyler Cowen, “Eventually, p = 0 catches up to you”(Marginal Revolution, January 15, 2012)


ゆくゆくは需要も満たされる(供給が需要に追いついて需給の不一致も解消される)ことだろう。消費者が家に持ち帰りたいと望んでいる品がタダ同然で提供(供給)できるとなればなおさらそうだ。

(バージニア州の)フェアファックス郡ではどうなっているかというと、公共図書館が所蔵する電子書籍の数は2010年から2011年までの間に実に倍以上も増えており、その数は1万冊を超えるに至っている。しかしながら、同じ期間に電子書籍に対する需要(予約)は3倍近くも増えており、望みの作品を借りるには平均3週間は待たないといけない状態が続いているという。ハードカバーであれペーパーバックであれ紙の本であっても予約が多くて順番が回ってくるまで長く待たねばならない作品は勿論あるにはあるが、その多くはベストセラー中の新作に限られており古めの作品であれば概して待たずにすぐに借りられるという。

それとは対照的に、(フェアファックス郡全域の公共図書館に購入図書の選別に関するアドバイスを送るコーディネーターを務める)エリザベス・ローズ氏が語るところによると、電子書籍に関しては大抵はどの日も全体のおよそ80%~85%が貸出中となっているという。iPadやNook Color、Kindle Fireといった電子ブックリーダーで電子書籍を借りて読めるようになった直後には図書館が所蔵する電子書籍全体の実に98%が貸し出されるに至ったということだ。

全文はこちら

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●Tyler Cowen, “Libraries, piracy, and the socialist calculation debate”(Marginal Revolution, April 24, 2016)


今回紹介するのはバラージュ・ボド(Balazs Bodo)の手になる2015年の論文(pdf)だ。題して “Libraries in the post-scarcity era”(「ポスト稀少性時代における図書館」)。アブストラクト(要旨)を引用しておくとしよう。

デジタル時代の到来に伴って電子書籍のコピーがあちこちに蔓延るに至っている。そのために本は最早稀少な資源とは言えなくなっており、図書館は熾烈な競争に晒されているのが現状である。知識への低コストでのアクセスを可能にする図書館のライバル(競争相手)は数多いが、そのうちの一つが「影の図書館」(shadow libraries)――著作権で保護された作品の海賊版電子ファイル(不正コピー)を大量に集めたネット上のサイトで世界中のすべての人々に大抵は無料でファイルの閲覧(とダウンロード)を許している――である。「影の図書館」はまだ決して普遍的な形態とは言えないが、いくつかのサービスの質にしても利用者の数にしても使い勝手の良さにしても大方の公共図書館や研究図書館を凌駕している。本の愛好者が自分たちで好きなように図書館を作れる手段を手にしたとしたら、通常の図書館が従っている制約(法的、組織的、経済的な制約)に縛られることなく自分たちで好きなように図書館を作れるとしたら、一体どんな図書館が出来上がるだろうか? 本稿ではその疑問への答えの手がかりを得るためにインターネット上にある最大手の(科学書専門の)「影の図書館」の一つに焦点を定めてその沿革と内幕にメスを入れる。図書館の未来の姿については色々な可能性が考えられるが、そのうちの一つが「影の図書館」であり本の読者が電子版の書籍の保存方法・管理方法・配布方法についてどんな期待を抱いているかについて21世紀版の海賊行為(著作権侵害)から学べることは多いというのが本稿の主張である。

論文ではロシアにある分権的でデジタル化された「ゲリラ」図書館――特に海賊版サイトの「Aleph」――についての話題が大半を占めているが、本の読者が心の底で本当に求めているものが何なのかを知る上で「ゲリラ」図書館からどんなことが学べるかが探られている。目の付け所が鋭くて実に独創的な論文だ。

件の論文はMichael Rosenwald経由で知ったものだ。感謝する次第。

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