タイラー・コーエン 「本は最後まで読まなくたっていい」(2009年7月24日)

●Tyler Cowen, “When to stop reading a book”(Marginal Revolution, July 24, 2009)


ケリー・ジェーン・トーランス(Kelly Jane Torrance)が非常に優れた記事を書いている。小生のコメントも掲載されているが、その一部を引用しておくとしよう。

「友達付き合いとか結婚とかいう対人関係に由来しているのでしょうが、誰もが『コミットメント』(約束・義務の履行、他者を含めた何らかの対象に対する積極的な関与)をよしとする考えを知らず知らずのうちに身に付けているようです。私もそのこと自体は結構なことだと思います」とコーエン氏。しかしながら、その考え(コミットメントをよしとする考え)を生命のない物体(本)にまで適用しようとすべきじゃない [1] 訳注;「一旦読み始めた本は最後まで読み通す義務がある」なんて考えは捨てよ、という意味。とも付け加える。

とは言え、コーエン氏を本に何の愛着も持たない人物と見なすのは間違いだ――彼は一日に一冊以上の本を読破するのを日課とする(それに複数の本の「つまみ食い」もプラスされる)「本の虫」だ――。彼が言いたいのは時間(という稀少な資源)をできるだけ有効に活用するにはいかにすべきかということなのだ。

「本に対してもテレビ番組に対するのといくらか同じように向き合うべきなんでしょうね。つまらないと感じたシリーズ物の番組を途中で観るのをやめたところで心を痛める人なんていないでしょうからね」とコーエン氏。

もう一丁引用しよう。

「読んでいる最中の本がまごうことなきダメ本だと気付いたらその段階でさっさと捨てちゃいます」とコーエン氏。「何で捨てるのよ」と夫人に咎められるかもしれない。しかし、ダメ本を捨てる(この世から抹殺する)ことで社会奉仕に身を捧げているのだとコーエン氏は指摘する。「私がその本を捨てなければ他の誰かがその本を読む羽目になってしまうかもしれませんからね」。その「他の誰か」というのが仮に「一旦読み始めた本は最後まで読み通す義務がある」と考える貫徹型の人物(数多くいる中の一人)だったとしたら、コーエン氏の行いは他人を害する行為ということになりそうだ。

アレクサンドル・デュマの『三銃士』もジョン・ドス・パソスの『U・S・A』も最後まで読み通せなかったと語るコーエン氏。気に入らない本を途中で読むのを断念することには他にもそれなりに有用な機能が備わっていると付け加える。少数のベストセラーが席巻する市場になかなか割って入ることができないと嘆く新進気鋭の作家陣の声を紹介した上でコーエン氏は語る。「気に入らない本を途中で投げ出すという行為は出版市場の効率性を高めている面があるんです。というのも、(「一旦読み始めた本は最後まで読み通す義務がある」という考えに縛られずに気に入らなければ途中で読むのをやめてすぐさま別の本に手を伸ばすように心掛ける結果として)一冊でも多くの本が物色されるようになれば、それに伴って一人でも多くの作家にチャンスが与えられることになるわけですからね」。

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1 訳注;「一旦読み始めた本は最後まで読み通す義務がある」なんて考えは捨てよ、という意味。
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