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チャールズ・カロミリス, マルク・フランドロウ, ルーク・ラーヴェ 『最後の貸し手の政治的基礎』 (2016年9月19日)

Charles Calomiris, Marc Flandreau, Luc Laeven,”Political foundations of the lender of last resort“, (VOX, 19 September 2016)


 

グローバル危機は諸般の中央銀行による 『最後の貸し手』 政策がどこまで許されるべきかをめぐって様々な懸念を引き起こした。本稿ではこれら政策が世界中でどのような発展を辿ってきたか、その歴史を繙いてゆく。最後の貸し手もまた政治権力の座の一つであり、そうした存在として、その創設は政治交渉の結果と見做されるべきものである。したがってこうした政策の採用傾向、並んでそこに付与する権限の取捨選択に関し、各国に差が在ったのも驚くには当たらない。

昨今のグローバル危機は、主要中央銀行をして前代未聞の規模での最後の貸し手 (LOLR) オペレーション採用に踏み切らせ、LOLR政策の射程と制約をめぐる議論を巻き起こした (グローバル危機に見られたこの種のオペレーションの俯瞰図としてはBindseil 2014を参照)。例えば、連邦準備制度・欧州中央銀行・イングランド銀行はそれぞれ諸銀行の支援にあたり、諸銀行のポジションを支え、流動性供給を拡大し、預金引出リスクを軽減すべく策定した種々の特別融資・資産買入を行っている。

だが、中央銀行がグローバル危機に際して行った諸銀行へのLOLR支援水準は一様でなく、またこうした支援の構造にしても各国で相異なっていた。興味深いのは、この種の違いがどの時代にも決して珍しいものではなかった点だ (LOLR機能の歴史的展開を早くに論じたものとしてはBordo 1990を参照; LOLR機能を現代的視点から診断したものとしてはBignon et al. 2012)。一つそうした違いの例を挙げると、西ヨーロッパではLOLRとしての活動権限を付与された中央銀行は19世紀までにはごくありふれたものとなっていたのだが、合衆国の中央銀行創設は1913年、カナダでは1935年、オーストラリアでは1959年になって初めて為されたのである。最後の頼りとしての融資のテクニカルな側面も国毎に異なり、その地の情勢や制度から色濃い影響を受けていた。所謂ヘアカットも含み、LOLR貸付の担保ルールは制度や時代の違いによりその姿を極めて顕著に変化させてきた。緊急融資を受ける資格が銀行のみに認められたケースもあれば、影響力を持った英国の例のように、ノンバンクにまで融資が拡大されたケースもあったのである。駄目押しとなるが、LOLR支援が貸付、ないし中央銀行のオペレーションに限定されないケースすらしばしばあった。信用保証・優先株・普通株投資を通した政府支援は、金融システムへの殊更深刻なショックに対応する流れでのLOLR支援に早くは19世紀後半にも観察されている。

最後の貸し手の歴史

我々は最近の論文 (Calomiris et al. 2016) では、LOLRが世界中でどの様な発展を辿ってきたか、その歴史を精査しつつ、政治と経済の相互作用がどの様にして世界中のLOLR構造および活動の多様な進化を生み出すに至ったのか、その経緯を探った。この種の差異は単に、LOLRが反応する経済ファンダメンタルズの違いを反映しているだけなのか、それとも中央銀行のオペレーション枠組みや政府支援を良しとする政治的支援状況の違いをも反映するものなのか?

我々はLOLRを定義し、短期債権請求の殺到を止めるのに必要な流動性ないし財務的健全性の供給を目的とする緊急貸付・保証・(優先株・普通株買入を含む) 資産買入の形を取った、中央銀行ないし政府による金融仲介機関への支援、とした。これら活動のおかげで、金融仲介機関は決済システムを介した取引サービスの供給、および資本市場へのアクセスを持たない借り手に対する信用供与を引き続き継続することが出来る。

我々の歴史的説明が示すのは、最後の貸し手の構造ならびに機能の差異はLOLR創設ならびに効果的なLOLR政策の採用に対する主要な政治障壁を反映したものであって、経済的差異のみでは説明し得ないことである。19世紀初頭の英国はまさにこうしたケースだが、当時イングランド銀行に種々の権限と責任を付与した制度改正は、相次ぐ銀行危機を経ると、侃々諤々、甲論乙駁といった議論の標的となった。続いて合衆国に目を向けると、LOLRの発展は政治的対立の結果先延ばしにされ、1913年に連邦準備制度が創設された時も、その構造および権限は制限立法により雁字搦めにされていた。連邦準備制度Fedの権限はメンバー銀行との、特定資産クラスを担保とする再割引・貸出に狭く限定されていたのである。これと対照的に、イングランド銀行では裁量の余地が広く認められていた。

カナダ・オーストラリアの経験も中央銀行設立過程の辿った独特の顛末をよく描き出しているが、そこには両国独自の政治史が反映されている。カナダにおける古典的自由主義的政治環境にあっては中央銀行も1935年になるまで忌避され続けていたし、1935年のカナダ銀行設立にしてもその背景にあったのは金融目標であって、LOLRの不備に起因する何らかの脆弱性の認識ではなかった。オーストラリアで一通りの権限を付与された中央銀行が創設されるのは1959年を待たねばならない。金と信用に関わる権限の適切な配分をめぐって長引いていた政局の鍔迫り合いが終に終局点に達した年だった。こちらはもっと最近の話になるが、ユーロ圏内部の政治権力配分を反映した諸般の制約が、同じくユーロ圏内部の銀行危機への対処にあたってECBが取り得るLOLR活動を画定・制限するさい重要な役割を果たした事は記憶に新しい。

LOLRもまた政治権力の座の一つであり、そうした存在として、その創設は政治交渉の結果と見做されるべきものである (Calomiris and Haber 2014)。したがってLOLR創設の傾向、並んでそれに付与する権限の取捨選択に関し、各国で差が在ったのも驚くには当たらない。LOLRはそもそも、担保付きでの融資を行うことで、さもなければ恐慌のあいだ自らの資金需要を工面できないような銀行に対し信用供与を行う権限と責務を持った存在として出発したのだった。しかしLOLRの法的権限は時代とともに様々な形で変貌を遂げる。

 

我々はこうした変化を、19世紀後半から20世紀後半に掛けて金融危機に対処すべく中央銀行や政府が採ったアプローチを時代を辿って追跡した。結果、諸般のLOLRの権限範囲に、担保付融資の一本槍から離れ、それ以外にも信用保証・優先株支援・その他メカニズムといった形式での支援も取り入れるアプローチに向かうシフトが確認された。このシフトの一部は、システミックな銀行危機に備えLOLR活動をより広範な介入手法を含むものに拡大する必要が関係したものであると我々は考えている。

LOLRのメカニズムおよび権限範囲は様々な政策ツールを取り入れを進め、これが情勢変化への対応に利用されてきたのだが、1980年代になるまでは、システミック危機を処理するにあたっては政策作成を以て対応しつつ、銀行債務全てを対象とした全面的保護政策についてはこれを避けるといった国が大半だった。LOLR支援が担保付融資以外にも様々なアプローチを取り込みながら進化してきたのは確かだとはいえ、歴史的に見れば支援は専らシステミック危機の処理に限定されていたし、支援供給が為される際にも、我々が 『バジョットの原則』 の名で呼ぶルールが遵守されていた。バジョットの原則はBagehot’s (1873) の論文に由来する: そこで中央銀行は、個別銀行の命運ではなく金融システムの健全性に専心することを推奨されたのだった。金融機関の破綻は、それが抜き差しならぬシステミックリスクと結び付いているのでなければ、許容されたのである。幾つかのシステミック危機事例のさなかには、LOLRも銀行システムの支援という自らの職務に不可欠な一要素として、一定のデフォルトリスクを引き受けることを厭わなかったが、それも飽くまで限られた範囲での話だった – こうした支援から生ずるリスクの大部分は、銀行全体が一体となって負担しなければならなかったのである。諸銀行がリスクシェアリングに関与することで、支援は自ずと選択的になるだろうという趨勢が固まった。

歴史的なLOLRは何か明示的なルールに従うものではなかったが、一般的に言ってその構造はバジョットの原則に忠実なものだったので、支援は財政やモラルハザードの点での負の帰結を最小限に抑えていた。英国やフランスを含む多くの国でのLOLRオペレーション構造は、財政への深刻な影響の予防を明示的に意図したものだったのである。効率的に介入にはLOLRによるリスクテイキングが必然的に伴うが、こうした介入は – 少なくとも事後的に、キャッシュフロー基準で計測する限りは – 結局吉と出て利益を生むのが通例だった、というのも支援は高い対価のもと、しかも飽くまで限られたリスクの下で提供され、流動性供給における中央銀行の独占的地位を存分に利用するものだったからだ。

第二次世界大戦後、とりわけ1970年代になると、寛大なセーフティネット保護制は常態と化し、さらには無制限の預金保護が (少なくとも事後的に) 提供される場合さえあった。無制限保護により預金者の損失リスクは根絶され、一定規模以上の銀行は全て、それが真のシステミックリスクを引き起こす恐れが有るか否かを問わず、破綻を免れることになる。一般的にこの種の保護政策は、預金保険と、納税者からの税収を使った政府によるアドホックな銀行救済 [bail-outs] の組合せを通して実現される。リスキーな銀行を預金引出という懲らしめから保護するやり方は銀行の信用の流れを円滑に保つ。これは選挙を控えた政治家にとっては格別の便益となりうるが、こうした類の保護政策には、リスクテイキングの増加、保護下にある銀行の長期的金融損失のために生ずる財政への巨大な潜在的影響、延いては保護が唆す金融危機による産出量損失、といった形での社会費用も付き纏う。

国家間比較

我々は40ヶ国に亘って1960年時の中央銀行融資に関する法律規定を詳細に比較検討し、その内12ヶ国については1960年から2010年までにLOLR立法が辿った遍歴の追跡も行った。中央銀行の持つLOLR権限の違いを幾つかの側面から計測し、こうした差異の説明として考え得る物は何か考察した。結果、LOLR法制に基づく権限範囲に各国で大きな差異が或ることが確認された。こうした権限は、恐慌への対応を除くと、継時的に見ても然したる変遷を辿っていない。1960年の時点でLOLRが相対的に多くの権限を備えていた国では – とりわけLOLRに債務保証の発行を許可していた国で著しいのだが – 1980年の時点で預金保証範囲の寛大さが相対的に低くなっていた。以上の発見はLOLR活動と預金者保護との間に何らかの代替性の存在を覗わせる。

本歴史分析が明らかにするのは、一般的に言って、LOLRの提供し得る支援タイプの決定に係る政府の手で確立された明確なルール、および支援提供形態を決定するプロセスが久しく欠乏してきたことである。現実には中央銀行および政府による支援は、事が起きてからのアドホックな対応を通して供給されてきた。

ルールが重要なのはそれが市場参加者のインセンティブに影響を与えることでモラルハザードを抑制しうる所からも明らかだ。支援は一定の状況に限って、それも事前に確立されたルールに即して供給されることになると銀行が知悉していれば、その事実は銀行がリスクを管理し、保護の無いリスクから自らを保護するために流動性と自己資本を維持するインセンティブを作り出す。加えて、市場参加者が政府や中央銀行側にシステミックリスクに対処する為のLOLR支援供給を行うコミットメントが有ると認識しているのならば、この支援の期待が市場参加者側の様々な期待に働きかけ、金融システムの安定化に資することも在り得る。

結語

最後に、LOLR機能は深刻なシステミックショックに柔軟かつ時宜を得た形で対応する必要と、支援の限界を画定する事前に確立されたルールを通してモラルハザードを軽減したいという欲求との間でバランスを取るべき旨を述べ、本稿を結びたい。しかしながら、適切なバランスの達成失敗がLOLR設計におけるリアリティの核心を反映していることもまた認めざるを得ない。つまり、LOLRは政治交渉の産物なのである。

原註: 本稿で示された見解は執筆者自身のものであり、これをECBの見解を反映するものと解してはならない。

参考文献

Bagehot, W. [1873] (1962), Lombard Street: A Description of the Money Market, Homewood, IL: Richard D. Irwin.

Bindseil, U. (2014), Monetary Policy Operations and the Financial System, Oxford: Oxford University Press.

Bignon, V., M. Flandreau, and S. Ugolini (2012), “Bagehot for Beginners: The Making of Lender-of-Last-Resort Operations in the Mid-Nineteenth Century.” The Economic History Review, 65, pp. 580–608.

Bordo, M. D., (1990), “The Lender of Last Resort: Alternative Views and Historical Experience,” Economic Review, Federal Reserve Bank of Richmond, January/February, pp. 18-29.

Calomiris, C. W., M. Flandreau, and L. Laeven (2016), “Political Foundations of the Lender of Last Resort: A Global Historical Narrative,” CEPR Discussion Paper No 11448.

Calomiris, C. W., and S. H. Haber (2014), Fragile By Design: The Political Origins of Banking Crises and Scarce Credit, Princeton: Princeton University Press.

 


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