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ティム・デュイ 「量的緩和の終わりの始まり」

●Tim Duy, “The Beginning of the End for Quantitative Easing”(Tim Duy’s Fed Watch, December 18, 2013)


先日開催されたFOMC(連邦公開市場委員会)はバーナンキ議長にとって任期中最後のFOMCだったわけだが、FOMC後の記者会見の場でバーナンキは量的緩和の終了に向けた今後の計画を明らかにし、その概要の説明を行った。債券の購入額をこれまでよりも月額で100億ドル減らす1 という今回の(FOMCの)決定はその計画の第一歩というわけだ。今回のテーパー(taper;量的緩和の規模縮小)の決定は、経済危機の最中におけるFRBの金融政策を彩ることになった非伝統的な試みからの離脱(出口)を意味しており、バーナンキ議長時代の最後の締め括りにふさわしいものであると言えよう。今回の決定直後のマーケットの反応を見る限りでは、長期金利はわずかながら低下する一方で株価は急騰しており、あの6月の(将来的にテーパーに乗り出す可能性を示唆した)不幸な記者会見と比べると、バーナンキをはじめとしたFOMC委員の面々は今回に関してはかなり巧みに事を運んだと判断できるだろう。今のところFF金利(フェデラルファンド金利、政策短期金利)は2015年までは現在の水準に据え置かれると予想されているが、今後マーケットの視線は「FF金利の誘導目標が引き上げられるのはいつか?」という点に注がれることになるだろう。

FRBが債券購入プログラムをどうにかして終わらせたいと考えているらしいことは随分前から知られていたが、「テーパーは金融引き締めを意味するものだ」とマーケットから受け止められることなしにテーパーに踏み出すにはどうしたらよいか?ということがずっとFRBの懸案となっていた。そのような事情もあって、FRBはここのところ「フォワードガイダンス」を前面に押し出す姿勢を強め、将来的な短期金利の動向に関する予想に働きかけることを通じて長期金利の抑制を図るスタンスにますます傾斜しつつある。マーケットではFRBがテーパーに踏み切るのはそう遠くはないと予測されていたものの、それでは具体的に直近の3回のFOMCのうちどのタイミングでその決定が下されそうかという点についてはアナリストの間で意見が大きく分かれており、またどの予測も大して確信があったわけではなかった(私自身はテーパーは年内はないだろうと考えていた)。

今回のテーパーの決定を正当化する理由として、FOMCの声明では政策目標の達成に向けて前進が見られることが挙げられている。声明文から該当箇所を引用しよう。

雇用の最大化の達成に向けてこれまで着実に前進が見られるとともに、労働市場の状況に関する今後の見通しが改善傾向にあることを踏まえて、今回FOMCは債券購入のペースを若干ながら緩めることを決定した。

先日明らかにされたばかりの雇用統計とその中で失業率の低下が報告されたことがテーパーを決める最後のダメ押しとなったのだろう。さらにFOMCの声明では、雇用回復のペースが今後もこのまま持続することに対してこれまでよりも大きな信頼が置かれている。その理由の第一として、政府による財政緊縮(財政政策の引き締め)の程度が今後弱まることが挙げられている。

財政政策は今のところ経済成長の足かせとなっているが、今後はその程度 も弱まっていく2 ものと思われる。

第二の理由としては、下振れリスクと上振れリスクのバランスがおおよそ釣り合っており、どちらか一方に(特に下振れの方向に)偏っているということはない、との判断にあるようだ。

金融政策の面で適当な助けが伴えば、今後経済成長のペースは次第に速まり、失業率はFOMCに課せられた法的責務に合致すると判断される水準にまで徐々に低下するものと予想される。経済全体および労働市場の今後の見通しに関するリスクはここにきてほぼ釣り合う方向に向かってきているものと判断される。

今回のテーパーを決めるにあたっては実際のインフレ率の動向は判断材料としてほぼ無視されていると見なして差し支えなく、一方で、予想インフレ率が安定しており、今後も安定したままであると予測される点が政策変更を支える要因として重視されたことが声明文からは読み取れる。

FRBは閾値(threshold)の引き下げ3  に動くのではないかと予測する声もあったが、今回のFOMCではそのような決定は行われなかった。その代わり、FF金利が今後もしばらく据え置かれるままであることを強調するために次のようなかたちでフォワードガイダンスの強化が図られることになった。

こういった要因の評価を踏まると、特に今後インフレ率がFOMCの長期的な目標(ゴール)である2%を下回り続けると予測される限りは、失業率が6.5%を下回った後もなおしばらくの間はFF金利の誘導目標を現在の水準に据え置くことが適当だと思われる。

FOMC委員の面々は今のところ閾値を変更しようという気はないようだ。閾値を変更せずとも将来的な短期金利の動向に関する予想に影響を及ぼすことができるのだとすれば、将来的にいつの日か必要となった時の備えとして「閾値の変更」という選択肢を残しておき、政策の伸縮性(flexibility)を確保しておきたいと彼らは考えているのかもしれない。

また、今回のFOMCでは準備預金に対する金利(IOR;準備預金付利)を引き下げる可能性が仄めかされることもなかった。IORの引き下げはそれほど大きな効果はないとバーナンキは考えているのかもしれない。記者会見の席上でバーナンキは「現在のところ信用状況はタイトではない」と語り、銀行貸出が伸び悩んでいる原因は借り入れ意欲とその能力が高まってきていないことにあると指摘した。銀行貸出の伸び悩みは需要側(資金を借り入れる側)に問題があり、IORの引き下げは供給側(資金を貸す側)に働きかける政策手段だ4 と彼は考えているのかもしれない。

今回の決定を通じて明らかになったことは、今後FOMCの予測通りのペースで経済が成長を続けたとすれば、FOMCの会合が開かれる度に債券の購入額が100億ドルずつ減額されていき、それが2014年の終わりまで続く5  ということである。新たに入手されたデータ次第で債券購入のペースには変化があり得るとバーナンキが強調して語っていることは確かだが、今しがた素描したシナリオ6  はFOMC委員らの予測に沿うものであることは明らかである。

また、今回の決定を通じてFOMC委員らの次のような見解も明らかになった。量的緩和はFF金利がゼロ%に達した後にそれ(FF金利の操作)を引き継ぐ手段なのではなく、FF金利の操作(あるいはフォワードガイダンス)と量的緩和とは別々の手段であり、量的緩和はFF金利の操作(あるいはフォワードガイダンス)を補完するものだという見解である。量的緩和はタームプレミアムの引き下げを通じてその効果7 を発揮するわけだが、通常時においてはフォワードガイダンスを通じて同様の効果をもたらすことができると彼らは考えているようである。また、量的緩和の実施には様々なコスト-例えば、タームプレミアムへの働きかけ(という経験の少ない政策手段の運営)に伴う不確実性や大きく膨らんだバランスシートの管理に伴う不確実性-が伴うが、FRBとしてはそういったコストが(量的緩和がもたらす)便益を上回らないうちに債券購入プログラムの縮小に乗り出したいと考えたとともに、フォワードガイダンスを通じて各種金利を抑制することに成功しており、それにあわせて量的緩和がもたらす便益が低下してきていることを今回の決定で示そうと考えたのかもしれない。

<エントリーの要点> 過去数年間にわたりFRBは数々の歴史的な瞬間を演出してきたが、今回のFOMCの決定(テーパーの決定)はさらなる歴史的な瞬間の一つであると言える。おそらく今後我々はテーパーや債券購入を巡る話題はもう過去の問題として先に進むことになるだろう。新たに判明するデータに劇的な変化が見られない限りは、FRBが向きを変える8 ようなことはおそらくないだろう。今後の争点は、新たに判明するデータがFF金利の引き上げのタイミングを巡るマーケットの予想にどのような影響を及ぼすかという点に移ることになるだろう。

  1. 訳注;債券の購入額をこれまでの月850億ドルから月750億ドルに縮小する []
  2. 訳注;財政緊縮の規模が縮小されることで財政政策が経済成長の足かせとなる程度も弱まっていく、ということ []
  3. 訳注;現在FRBはインフレ率が2.5%を下回っているか失業率が6.5%を上回っている限りは(+予想インフレ率が安定している限りは)FF金利を現在のゼロ%近辺の水準に据え置くと約束している(これが「フォワードガイダンス」と呼ばれるもの)が、FF金利を引き上げるかどうかの基準となる「インフレ率2.5%/失業率6.5%」が閾値と呼ばれている。閾値の引き下げというのは特に失業率に関する閾値を現在の6.5%よりも低い水準に見直す(例えば6.0%に引き下げる)ことを指している。  []
  4. 訳注;それゆえ、IORの引き下げは(資金需要側の借り入れ意欲とその能力に何らかの影響を及ぼさない限りは)大して効果がない []
  5. 訳注;2014年の終わり頃に債券購入プログラムが完全に終了を迎える []
  6. 訳注;債券の購入額が100億ドルずつ減額されていき、2014年の終わり頃に債券購入プログラムが完全に終了する  []
  7. 訳注;各種金利の低下や資産価格の上昇など []
  8. 訳注;債券購入額の規模を増やす []

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