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ノア・スミス「エアカーも宇宙植民もないけどサイバーパンクは実現した21世紀」

[Noah Smith, “What we didn’t get,” Noahpinion, September 24, 2017]

先日,1980年代と1990年代のサイバーパンク SF がいまの世界について多くのことをいかに正確に予測していたかという話題で Twitter に連投したらけっこう好評だった.現代社会はなにもかもがネットに接続されてつながっているけど,同時に,なにもかもが不平等だ――ギブソンが好んでよく言ってたように,「未来はここにある,ただ均等に分布してないだけだ.」 ハッカー,サイバー戦争,オンライン心理戦は,みんなの政治経済生活でおなじみのものになっている.億万長者たちは宇宙ロケットをつくったり政府に協力して国民監視に手を貸したりしてる.白人労働階級は廃棄コンテナを住居にして有毒な水を飲んで暮らしてる.在野の趣味人たちが身体改造や遺伝子工学に手を染めてる一方で,実験室では人工四肢や脳-コンピュータ・インターフェイスを研究してる.ジェットパックは実現してる.ただしひとつきりだし,持ち主はお金持ちだ.人工知能が株取引をやり碁で人間に勝ったり,耳の聞こえない人が音を聞こえるようになったり,リバタリアンと犯罪者どもが追跡不可能な民間の暗号通貨で世界中で何十億ドルってお金を回してる.『スノウ・クラッシュ』みたいにイカレたミーム・ウイルスがネジのはずれた男を合衆国大統領の座にまで上り詰めさせたり,テキサスでは『ニューロマンサー』のストリート・サムライみたいにカタナをかついで町中を歩き回れる.バーチャルアイドルもいるし,殺人サイボーグスーパーアスリートだっている.

ざっくり言えば,ぼくらはサイバーパンクが描き出した世界に暮らしてる.

一世代の SF 作家たちがヤバいほど正確に未来を描き出すのに成功した例は,べつにこれがはじめてではない.初期の産業時代には,SF 作家たちが予想したいろんな発明がいくつも実現した.空の旅も宇宙の旅も潜水艦も戦車もテレビもヘリコプターもビデオ会議も X線もレーダーもロボットも,さらには原爆だって,彼らが予想し実現した.ハズレも少しはある――誰も過去への時間旅行なんてしてないし,地底旅行にもでかけていない.だけど,全体として見れば,初期産業時代の SF 作家たちはのちの産業革命をかなり正しくとらえていた.それに,社会に関する予測もかなり正確だった――消費社会やハイテク大規模戦争を彼らは予見していた.

そうかと思えば,SF 作家がほとんど間違ってしまった時代もある.いちばんの有名どころは,20世紀中盤の未来予想だ.宇宙船だの,星間探査と植民だの,アンドロイド執事だの空飛ぶ車だの,惑星破壊レーザーカノンだの,計器ではかれないほど安上がりなエネルギーだの――いまのところ,どれも実現していない.ピーター・ティール(我らが現代サイバーパンクの大悪党)が実にうまいこと言ったように,「ほしがってたのは空飛ぶ車だったのに,もらったのは140文字のつぶやきだった」

どうなってんだろう? どうして,20世紀中盤の SF はこうもひどい空振り三振になったんだろう? どうして『スタートレック』の未来も『宇宙家族ジェットソン』の未来もアシモフの未来もやってこなかったんだろう?

2つのことがあった.第一に,理論物理学のネタ切れ.第二に,エネルギーのネタ切れだ.

『スタートレック』や『スターウォーズ』を見たり,20世紀中盤の数え切れないほどあるスペースオペラを読んだりすると,どれもこれも,これでもかとばかりにすごい物理学が出てきて,それが土台になっている.超光速飛行や人工重力やいろんな力場が登場してくる.1960年には,その手の予測がもっともらしく思えたのかもしれない.当時,人類はかつてない物理学のものすごく驚異的な発展を立て続けに経験したばかりだった.ほんの数十年のあいだに,人類は相対性理論と量子力学を発見し,核爆弾と原子力を発明し,X線やレーザーや超伝導体やレーダーや宇宙飛行計画をつくりだしてみせた.20世紀前半は,まぎれもなく物理学の大当たり時代だった.その原動力のひとつは,基礎物理学の進歩だった.そして,1950年代から60年代にかけて,そうした発展は場の量子理論へとそのまま力強く続きそうに思えた

そのあと,行き止まりがやってくる.1970年代に標準モデルが完成したあと,基礎物理学にはこれといった大発見は起こらなかった.80年代~90年代には,ひも理論が量子力学と重力を統合するかに思われ,これでアインシュタイン,ボーア,ディラックの時代に匹敵する新時代の到来かと,ほんのいっときだけ盛り上がりはした.だけど,2000年代になると,ひも理論がどう失敗したかを解説する大衆向け解説書が出回るようになった.一方,史上最大にしてもっとも金のかかった衝突型加速器は,たんに1970年代の理論を確証するにとどまっていて,次にどっちに向かえばいいのかほとんど見当がつかない状況だ.たしかに物理学者たちはイケてるものをいくらかつくりだした(量子テレポーテーション量子コンピュータ!).でも,星間遊覧旅行や重力場制御を可能にするような理論的大発見はうまれていない.

第二点は,よりよいエネルギー源の開発が止まってしまったことだ.ごく簡略に,人類が利用してきたエネルギー源を年代順に並べたリストを眺めてみよう.比エネルギー(単位質量あたりの利用可能なエネルギー)をメガジュール/kg で示す.比エネルギー(あるいはエネルギー密度)が高いほど,ポケットや車や宇宙船につっこめるエネルギーが多くなる.

  • タンパク質: 16.8
  • 砂糖: 17.0
  • 脂肪: 37
  • 木材: 16.2
  • 火薬: 3.0
  • 石炭: 24.0 – 35.0
  • TNT: 4.6
  • ディーゼル: 48
  • 灯油: 42.8
  • ガソリン; 46.4
  • メタン: 55.5
  • ウラニウム: 80,620,000
  • 重水素: 87,900,000
  • リチウムイオン電池: 0.36 – 0.875

もちろん,話はこれで終わらない.安定供給と復元可能性がカギだからだ――タンパク質のエネルギーをえるには,シカを殺すなり大豆を育てるなりして食べなきゃいけないのに対して,石炭・ガス・ウラニウムは地面を掘ればでてくる.輸送しやすさも大事だ(天然ガスは車で運びにくい).

ただ,このリストを上から下まで見てもらえば,ひとつの基本的な事実がわかる:産業時代には,エネルギーを運びやすくなっていったんだ.そのあと,原子力時代の曙がおとずれると,も~っとたくさんのエネルギーを持ち運べるようになるかに見えた.ウラニウム1キログラムには,ガソリン1キログラムのほぼ200万倍ものエネルギーがある.こいつをポケットサイズの電池で持ち運べるなら,レーザー拳銃でビルをぶっ飛ばせるようになるかもしれない.さらに宇宙船に搭載すれば,2日ほどで他の惑星までひとっとびできるかもしれない.車に搭載すれば,きっと空を飛べる.ひょっとすると,〔スターウォーズにでてくるような〕偏向シールドをつくるのにだって使えるかもしれない.

だけど,ウラニウムをポケットや車につっこんで持ち運ぶわけにはいかない.危険にもほどがある.第一に,十分な量のウラニウムを臨界に到達させられるなら,自宅のガレージで核兵器をつくれてしまう.第二に,ウラニウムはおぞましいほど有害で,あたり一面を壊滅させてしまえる.みんなにそんなものの所持を許可させるわけがない.(ちなみに,空飛ぶ車が実現してない理由もたぶんこれだろう――エネルギーがありすぎるんだ.世の中には,高エネルギーの物体をビルに突っ込ませるのも辞さない連中がいるのを,空飛ぶ車の許認可をにぎる人たちは認識してる.「ふつうの車でもじゅうぶん危険だってのに!」)

さて,ウラニウムは潜水艦には搭載できる.宇宙ロケットにも搭載できる.ただし,その力を推進力に転換するのはいまだにちょっと工夫の必要な問題だ.だけど,全体として見れば,ウラニウムの有害性や核分裂でメルトダウンを起こしやすい点から,原子力は広範に応用されていない.同じことは,ある程度まで原子力発電にも当てはまる.

核融合エネルギーについて言えば,まだ実用もままならない.できたのは爆弾だけだ.

というわけで,60年代 SF の未来がやってこなかった理由は2つある.その大部分は見るからに不可能だ(時間旅行や人工重力).それに,可能ではあっても高エネルギー密度燃料に依存していて汎用するには安全でないものも多い.それでも,アンドロイドは実現するかもしれないし,ものすごいはるか未来には原子力宇宙船がひょいと火星やエウロパや無重力コロニーまで連れて行ってくれるようになるかもしれない.だけど,空飛ぶ車やポケットサイズレーザーカノンはありえない.なぜって,はっきり言えば,キミたちはあまりにロクでなし野郎すぎて責任持って扱ってくれそうにないからだ.

これが,次の疑問につながる:いちばん最近の SF の時代はどうだろう? 1990年代中盤~終盤から,たぶん2010年ごろまで,ふたたび SF が型破りな未来ネタを披露するようになった.典型的な要素には,たとえばこういうものがある(公正を期して付け足すと,そのなかにはもっと昔のサイバーパンク正典でときに登場していたものもある):

  1. 強い(自己改善型の)人工知能,汎用人工知能,人工意識
  2. 人格アップロード
  3. 自己複製型ナノテクと汎用組み立て機械
  4. 技術的特異点

こうしたネタはまだ実現していないけれど,この種の未来主義が人気を博すようになってまだ20年ほどでしかない.いつかは,こういうネタが実現するだろうか?

超光速旅行や人工重力とちがって,強い人工知能や特異点や人格アップロードが不可能なのを示す理論はない(まあ,一部の人たちはできない理由について推測を述べているけれど,一般相対性理論みたいに頑健に証明された理論とはちがう.) だけど,こういうモノのつくり方のアイディアが本当にあるわけでもない.人工知能と呼ばれるものはまだ汎用知性にはなっていないし,なんらかの汎用知性が自己改善型になれるかどうかもわかっていない(し,なった方がいいのかもわかってないね,うん).人格アップロードを実現するのに必要な水準の脳理解にはぜんぜん到達していない.ちびちびと真のナノテク実現に向かって進んではいるけれど,まだまだゴールはるか彼方に思える.

目をきらきらさせて特異点を語るゼロ年代 SF がついに実現せずに終わる可能性はある.宇宙船や光線銃の未来と同じように,ポップ・レトロフューチャーになるかもしれない――ハリウッド映画の定番小道具ではあっても本気で実現するなんて誰も思わないネタになるかもしれない.一方,技術進歩はそれと別の方向に進むかもしれないし――バイオテクノロジーとか?――ジュール・ヴェルヌやウィリアム・ギブソンにつづく鋭敏な世代が登場して,この先どうなるか予測してみせるかもしれない.

これが,最後の問いにつながる:SF って,技術進歩がいちばん急速に進んでるときにいちばん間違うんじゃないだろうか?

ちょっと考えてみよう:史上最大の SF の間違いは,進歩の最高潮でおきた.ちょうど第二次世界大戦のときだ.特異点 SF ブームが空振り三振におわったなら,1990年代と00年代という生産性加速の時期にかなりぴったりと重なる.もしかすると,特定の種類の技術が――エネルギー集約的な輸送・武器の技術か,情報集約的なコンピュータ技術か――ますますめざましい速度で発展しているとき,SF 作家はその潮流のいきおいにとらわれて,その潮流がその先ずっと果てしなくつづくと予想してしまうのかもしれない.だけど,もしかすると,ある時代の進歩がいよいよ最高速に入る前,技術ブームの最初期の作家たちこそが,そのブームのゆくえをもっとはっきり見通せるのかもしれない.(もちろん,それを実証的に示すとなれば,当然生じる生存者バイアスを統制することになるだろうけど.)

答えはわからない.それに,どういう点で重要な問いなのかも,SF ファン以外にはわからない.ともあれ,考えてると楽しくなってくるのは確かだ.


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