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ノア・スミス「同質性にいざなうセイレーンの歌」(#3)

[Noah Smith, “The siren song of homogeneity,” Noahpinion, April 30, 2017]

〔数回にわけて掲載しています.前回はこちら

データに基づいて同質性を支持する議論の注意点

Roissy は論争的なブロガーだ.彼がやろうとしているのは自説の主張であって,教育ではない.同質性を支持する学術的な主張は,Roissy が提示する論ほど明快ではない.

Roissy が引用する研究の多くは,方法論上の問題を抱えている.たとえば,ある研究では「隣近所でのやりとり」と多様性に負の相関が見いだされている.ところが,そのデータセットは,最近になって多様になった地域と最近国内の移住者を多数受け入れた地域とが比較できないかたちになっている――言い換えると,多数派と同じ人種だろうとそうでなかろうと,新規移住者の大群がやってくると近隣の友人づきあいに混乱が生じがちなだけかもしれない.実際,Roissy が引用する研究の大半はこの問題を抱えている傾向がある――住民の流動性の影響と多様性そのものの影響とを区別しにくいんだ.

彼が引用する他の研究では,人種的な多様性が信頼を高めている事例もいくらか示されている.たとえば,アメリカでのとある研究によれば,人種の分断と信頼との間に Uの字の関係があるという.どういうことかというと,多様性が高い地域と低い地域は中程度に多様な地域よりも信頼が高くなっている傾向がある(中程度に多様な地域とは新住人がやってきたばかりの地域だとすると,これは理屈がとおる).

また,Roissy が引用する研究の多くはヨーロッパのものだという点にも留意しておいていい.ヨーロッパとアメリカでは〔社会の〕仕組みがちがっているために,適切な比較ができないかもしれない.大半のヨーロッパ人は,じぶんたちの社会が民族に基づいていると考えるかもしれない――「血と土」に基づいている,と言う人もいそうだ.他方で,アメリカ人でそう考える人たちはごく少数派かもしれない.それに,近年のヨーロッパの白人以外の移民は,アメリカにやってくる白人以外の移民とはタイプが大きくちがっているかもしれない――近年アメリカにやってきている人たちの大半は,勤勉なヒスパニック系高技能アジア人とアフリカ人なのに対して,ヨーロッパは比較的に技能の低い中東出身者と北アフリカ人を多く受け入れる傾向にある.後者の方がよりやっかいなタイプの移民となっている傾向にあるかもしれないのにくわえて,ヨーロッパと中東・北アフリカ地域には反目が長く続いていて,信頼できる記録のある歴史よりも前にさかのぼる.これも,不信を強める一因になっていそうだ.言い換えると,多様性といってもどういう種類の多様性なのかが大きくものを言うわけだ.

さらに,論争家ブロガー Roissy が引用していない,反対の結論を示す研究もある.そういう文献は多数にのぼるし,〔Roissy が言う「多様性は信頼を損ねる」とは〕逆方向を示す発見もたくさんある.たとえば:

1. 南カリフォルニアでの近年の研究によれば,民族の多様性は犯罪の低下と住宅価格の上昇と結びついている.

2. イギリスでの研究によれば,民族の多様性と信頼とにはなんの関係もない.

3. ヨーロッパでの研究によれば,長期的に多様性は信頼にプラスの影響をもたらす.

4. 2014年の調査研究によれば,「民族の多様性は民族間の社会的結束の低下に関連していない.」

5. 2008年のヨーロッパでの研究によれば,民族の多様性は社会資本を減少させなかったという.

6. 2007年のイギリスでの研究によれば,多様性が社会の結束におよぼす負の影響は,経済のいろんな変数で統制すると消失する.

7. また,多様性と集団の意志決定に関する研究文献も多数ある.(すべてではないが)その大半は,民族の多様性が集団をより賢くするという結論を導いている.

なんならもっと続けることもできる――このリストの大半は,たんにぼくが Google Scholar で「多様性と信頼」「多様性と社会資本」を検索して論文の冒頭1~2ページに書いてあることが「多様性が信頼を損なう」という結論の真逆になっているのを見繕っただけだ.これではとても科学的な議論の進め方にはなりそうもないけれど,論争家から学術情報を入手すると,学術文献について歪んだ見取り図を得ることになりそうだということはよくわかる.

ここでぼくが言わんとしているのは,べつに,オルト右翼が同質性と信頼について間違った考えをもっているということじゃあない.彼らの言い分が正しいのかもしれない――文献をあさって読んでみた感触では,同質性と信頼の相関関係はよくある発見だけど,圧倒的なまでによくある発見というほどではないようだ.ここで言わんとしているのは,同質性と信頼の問題にはまだ答えがないってこと.べつに意外でもない.同質性も信頼も大きな概念で,当てはまる範囲は広くてぼんやりしているからだ.そういう話に一刀両断の結論なんてふつうは存在しない.

こうした研究の多くについて気がかりなことはまだある.〔聞き取り式の〕調査研究についてぼくは少しばかり懐疑的になる傾向がある.とはいえ,べつに調査研究が無意味だって話ではなくて,まともな経済学者なら誰だってそうでだろうけれど,ぼくも実際の行動の計量を本能のように重んじるからだ.たしかに Roissy のリンク集には多様性が衝突を増やすのを示す研究がいくらか含まれているけれど,ぼくが知るかぎり,学術的な共通見解としては,移民は犯罪を減らすと考えられている(カナダの場合も含めて).その文献レビューは数年前のものだけれど,近年の研究もすべてその発見を確証しているようだ.ぼくからすると,たんに人々が聞き取り調査に答えて否定的なことを語るのよりも犯罪率低下の方が具体的ではっきりした結果だ.

こういう文献を重視しすぎない方がいい理由には,もっと重要なものがある.それは,こうした研究のほぼすべてが,内生性をあまりうまく扱っていないという点だ.内生性問題の例をいくつか挙げよう:

低技能の移民が社会的信頼の低い地域に移り住む傾向があるとしたらどうだろう.なぜなら,社会的結束の弱い地域にある会社は安い労働力を雇う傾向があるからだ.

大きな帝国は多くのさまざまな民族を征服し,帝国内での移住を奨励するとしたらどうだろう.帝国内の移住は地域ごとの民族の多様性を高めることになる.だが,一方で,大きな帝国は崩壊しがちで,その結果として地域の衝突をたくさん引き起こすことにもなると考えてみよう.
大量の新規移住者をうみだす外生的な出来事は――衝突・景気後退・衰退地域からの転出は――信頼を低下させがちな出来事でもあるとしたらどうだろう.

この種の事柄をまともに統制するためには,自然実験が必要となる.移民が賃金におよぼす影響のような問題については,すでに自然実験がなされている.だが,民族の多様性を住人の流動性の効果から分離するためには――つまり「人種を問わない新規住人」と「少数派人種の新規住人」を区別するためには――さまざまな民族の新規住人が無作為にさまざまな地域に割り振られるなんらかの状況が必要となる.

(追記:とある人が,こんな論文を紹介してくれた.それによると,フランスで住宅が無作為に割り振られたとき多様性は「社会的アノミー」と相関していたという.社会的アノミーは公共物の破損は増やすけれど暴力的な衝突は減少させるらしい.実におもしろい.ただ,これはフランスに暮らすタイプの人たちに固有な事情かもしれない点は留意しておきたい.)

ともあれ,考えるべき大事な点は以上のとおりだ.ただ,ぼくにとって本当に面白い問いは,民族性そのものが内生的かどうかという点だ.

でも,それについてはあと回しにしよう.まずは,話の主軸をデータから逸話に移して,民族的に同質な社会に暮らすぼくの経験談をひとつ語らせてもらおう.

#4 に続く


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