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ノア・スミス「同質性にいざなうセイレーンの歌」(#1)

[Noah Smith, “The siren song of homogeneity,” Noahpinion, April 30, 2017]

〔註:長文のため,数回にわけて掲載します〕

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アメリカとヨーロッパは,政治が大変動する時代を迎えている.とはいえ,政策は大して変わっていない.この2~3年ほどで急激に様変わりしたのは,いろんな大衆運動や政治活動の原動力となる思想や公共の論議だ.ぼくがいちばんよく知っているアメリカでは,左派が新たに大きなうねりを起こしている――とりわけ目立つのが,社会主義運動の復興と社会正義運動だ.ただ,ぼくが知るかぎりでは,新しい動きでなにより大きいのはオルト右翼だ.ざっくり言えば(日が暮れるまで定義を論じ続けることもできるし,なかにはそうしたい向きがいるのもわかってる),オルト右翼がのぞんでいるのはアメリカ社会を同質にすることだ.とりわけ熱狂が見られるのは人種的な同質性を求める動きだけど,宗教も一枚かんでいるように見える.

同質性にいざなうセイレーンの歌声は強力だ.Twitter でもそれ以外の場でも,白人しかいない社会をおおっぴらに熱望する若者(大半は男性)に出くわすことがますます増えてきている.そうした若者たちのなかで,わりと理性的な人たちは,「同質性で衝突・いさかいが減るし,社会的信頼は高まるし,他にもいいことがたくさんある」とぼくに言ってくる.そういうとき,模範的な同質的社会としてよく引き合いに出されるのが日本だ.なかには,「白人バージョンの日本がほしいんだ」とはっきり言う人たちもいる.

これが,理性的な方の人たちだ――それほど理性的でない人たちがやりとりに使っているのはああいうミームだったり脅しだったり罵倒だったりする(「くたばれユダヤ人! イスラエルの国境を開いたらどうだ!!」などなど)

ホントにオルト右翼運動は盛り上がってきてるの?

ぼくから見ると,白人の同質性をもとめる熱情には新しく思える部分が多い――20年前にも Stormfront みたいなナチ系ウェブサイトはあったけれど,アメリカを白人だけの国にしようなんて考えは,当時は世間の隅っこの考えに思えた.もしかすると,いまでも隅っこの考えなのかもしれない――なにしろ,〔Facebook や Twitter のような〕ソーシャルメディアは力の増幅器として機能するので,比較的に少数でもきわめて熱心な個々人がものすごい大集団みたいに見えたりする.あるいは,この種の感情はアメリカではいつでもほどほどによくあるものだったのかもしれない.かつてはそうした感情が主流メディアでは閉め出されていたのが,インターネットの興隆でもっと見えやすくなっただけなのかもしれない.

オルト右翼の考えがいまも不人気だという論点を支持する証拠がいくらかある.2016年のピュー調査によれば,多様性が高まると暮らしにくい国になると述べたアメリカ人はたった7パーセントしかいない:

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これに比べて,イギリスとドイツでは31パーセント,オランダでは36パーセントがそう回答している.

一方,最近の世論調査では,移民支持が強いのが示されている:

immigration
【▲「移民はアメリカの害になる以上に助けになると思いますか,それとも,移民はアメリカの助けになる以上に害になると思いますか」】

これは時系列が短いので,次はギャラップ調査からもっと期間の長いのを参照しよう.こちらを見ても,反移民感情の下降傾向が示されているし,しかも40パーセント以下でにとどまっている.

immigration 2
【▲ 移民は減らすべきだと答えた人たちの割合】

ギャラップ調査の人種世論分析からわかるように,反移民感情低下の原動力となっているのは白人層だ――実のところ,反移民感情が少しだけ高まっているのは黒人とヒスパニック系のあいだだったりする.このことからみて,反移民感情の多くは同質的な白人国家の熱望の高まりによって生じているわけではなさそうだ.白人アメリカ人の大多数は,一定の条件が満たされているなら密入国移民をそのままアメリカにいさせるのを支持している――どうも,白人同質性が支持されて〔移民締め出しの支持に〕投票されているというのはちょっとちがうように思える.

つまり,かなり一般的に定義してもっと穏健な「オルト右翼」や静かに共感を寄せる「オルト白人」も含めたとしても,オルト右翼は縮小していて,危機に瀕しているからこそいっそう大声をあげて攻撃的にふるまっているだけの死にかけの思想だということも大いにありうるわけだ.トランプ選挙を本当に突き動かしていたのは,「トランプなら死に体の産業を復興させて海外からアメリカに雇用を取り戻してくれるだろう」という人々の経済的な希望だったのかもしれないし,あるいは,とにかくなにか変えてくれとサイコロを振るような思いだったのかもしれない.

ともあれ,オルト右翼運動が本当に急成長していようといまいと,オルト右翼とその思想をまじめにとりあげる意味はあると思う.まず,トランプがホワイトハウスにいることで,この国の多くがオルト右翼の言い分に耳を傾けざるをえなくなるだろう.実際にはトランプはオルト右翼が望んでいるとおりの人物ではないとしても,トランプが雇い入れた数名は,少なくともゆるくオルト右翼運動に共感している――バノン,ミラー,アントン,ゴルカといった面々だ.つまり,少なくともトランプのケツが大統領執務室の椅子におさまっているかぎり,オルト右翼の思想には政権の政策となるチャンスがあることになる.それはつまり,オルト右翼の思想が重要問題だってことだ.

さらに,それでおしまいではなくて,オルト右翼と論争してみたいという感情的な欲求すらおぼえてる――少なくとも,理性的な方の人たちとは関わってみたい.いまヨーロッパでルペンやヘルト・ウィルダースを支持してる人たちのことは心底どうでもいい.でも,オルト右翼アメリカ人は,ぼくの同胞だ.ぼくも心情的にはナショナリストだし,我が同胞が考えていることは気になる.

若い(大半が男性の )人たちのなかには,この論点でじぶんの知的生活が定義されている人たちもそこそこでてくるだろう――つまり,同質的な白人社会という考えに魅了されて20代と30代をすごす人たちもでてくるはずだ.いまだに60年代の反戦運動のレンズごしに世の中を見る熟年ヒッピーがいるのと同じように,20~30年ほども経てば,年老いつつあるたミレニアル世代が過去を振り返って「カエルのペペ」ミームや〔トランプ支持ネットフォーラムの〕r/The_DonaldKekistan や「ミーム大戦争」(the Great Meme War) こそが若い頃のエネルギーと想像力の最高潮だったと思うだろう.そうした人たちと論争したい.最終的には(ぼくの予想どおり)彼らが負けるとしても.

#2に続く


Comments

  1. >さらに,それでおしまいではなくて,オルト左翼と論争してみたいという感情的な欲求すらおぼえてる

    ここはオルト右翼でしょうか?

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