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ピケティ&ザックマン「格差と成長:資本の再来」

Thomas Piketty, Gabriel Zucman “Rising wealth-to-income ratios, inequality, and growth” (VOX, 26 September 2013)

先進国においては格差が上昇を続けており、戦前の水準にまで近づいていることを多くの指標が示している。問題は所得格差だけではない。本稿では、国民所得に対する民間の財産の比率が上昇しているということを述べる。このマクロ経済的変化は、GDP成長の鈍化からも予測されることであり、財産の格差の問題を悪化させるとともに経済をバブルに陥れる可能性を高める。


格差を縮小させることは、私たちの時代における最も特徴的な課題の一つだ。ここ数十年、多くの議論は教育に投資する必要性をその中心としてきた(Goldin and Katz 2010)。教育へのアクセスを強化することは、長期における賃金のばらつきを少なくするための強力な手段ではあるが、十分ではないのだ。

ひとつの問題として、多くの国と同様にアメリカにおいては格差は上位1%の所得者によって引き起こされているのであって、それに続く上位9%の者たちによってではない。しかしながらこの両方のグループの教育水準は同じなのだ (Alvaredo et al., 2013)。

それよりもさらに大きな問題として、稼いだ所得について見るのは十分ではないという点がある。経済学者たちは、所得に対する総財産の割合はいつの時点でも変わらないとかつて信じていたが、そうではないのだ。

私たちが今回新たに論文を執筆したのは、富裕国における財産と所得の比率が1970年代以降上昇してきているからだ。(Piketty and Zucman 2013)。公式の国民貸借対照表によれば、先進国上位8か国における総民間財産は1970年には国民所得の2~3倍だったものが、今日においては4~7倍にまで上昇している(図1)。資本が再びやってきたのだ。この変化それ自体が悪いというわけではないが、これは格差問題にとって深い意味を持つものであり、全く新しい政策群が必要となる。

図1.民間財産/国民所得の比率(1970年~2010年)
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出典:各国の国民経済計算を用いた著者の計算による。民間財産=非金融資産+金融資産-金融負債(家計&非営利部門)

財産は一部に強く集中しているため、所得に対する財産の比率が高いということは、おそらく財産格差、そしてまた潜在的には相続財産の格差は、戦後期と比べて近い将来にははるかに重要な意味を持つものとなるだろう。この変化によって、資本や相続に対する累進的な課税の必要性が高まることになる(Piketty and Saez, 2013)。このことはまた、海外のタックス・ヘイブンに財産を隠すことを防ぐための高度な国際協調が必要になることも意味している (Zucman, 2013)。

国際的な課税競争によってこうした政策変更を行うことが妨げられるのなら、反グローバリゼーションと反資本的な政策の波が高まることは避けられない。

ものすごく長期的な視点からは、比較的低い財産比率によって特徴づけられる戦後期は歴史的に特異なものであるように見える。利用可能な限り最高の歴史推計によれば、所得に対する財産の比率が高いというのは、18世紀から19世紀を通じてヨーロッパにおいては普通のことだった。その後の世界大戦、低貯蓄率、そして多くの反資本的な政策が民間財産の大きな下落を招いたため、所得に対して6~7倍だったものが第二次大戦後には2倍となった。所得に対する財産の比率はそれ以降再度上がり続け、19世紀の水準にまで戻ってしまったように見える。

アメリカにおいても所得に対する財産の比率はU字型の変化を見せているが、ヨーロッパほど顕著ではない。

図2.民間財産/国民所得の比率(1870年~2010年):ヨーロッパ対アメリカ
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出典:各国の国民経済計算を用いた著者の計算による。データは10年毎の平均(ただしヨーロッパの1910年~1913年はその4年間の平均をとった)。ヨーロッパはイギリス、フランス、ドイツの平均。

所得に対する財産の比率が再度高まったのには、ひとつ鍵となる原因がある。すなわち、生産性と人口の成長鈍化だ。長期においては、貯蓄の目的がどのようなものであるかに関わらず、所得に対する財産の比率は貯蓄率を所得の成長率で割った比率に等しくなる。これはハロッド=ドーマー=ソロー式として知られるものだ1

貯蓄率が10%で成長率が3%だと、長期における所得に対する財産の比率は約300%となる。2 しかし成長率がたとえば人口増加が鈍ることなどによって1.5%に落ちると、長期における比率は約600%となるのだ。

つまり、低成長の再来のおかげで資本が再来したというわけだ。

人口増加の低下は、なぜ現在ヨーロッパではアメリカよりも所得に対する財産の比率が高いのかということも説明する。しかし21世紀の終わりにはあちこちで人口増加率と生産性は低くなり、所得に対する財産の比率は最終的に世界全体で上昇する可能性がある。

今日、財産は18世紀のように土地だけというわけではなく、機械、無形資産、住宅等々、色々な形態をとっている。単純作業を自動化するのはどんどんと簡単になってきている。そうした経済においては、所得に対する財産の比率が上がっているということは国民所得の中の資本の割合が上昇しているということを意味するので、それはつまり所得のうち資本家へ向かう割合が多くなっているということだ 。私たちの研究は、1970年代中盤以降から実際に起きている資本の割合の上昇を示している。

図3.国民所得要素価格における資本の割合(1975年~2010年)
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資本の割合は、19世紀のイギリスやフランスよりは依然として低い。ひとつの楽観的な解釈としては、2世紀前と比べると人的資本がより重要になっている可能性があるというものだ。しかし将来に目を向けてみると、低成長、所得に対する財産の高い比率、労働と資本の間の代替弾力性が多少であっても1より大きければ、それすなわち19世紀のような高い資本率が再びやってくる可能性がどんどん高くなる。

たとえば、代替の弾力性が1.5だとすると、所得に対する財産の比率が2.5から5まで跳ね上がる場合には資本の割合は28%から36%へと上昇することになる。またこの時さらに資本が蓄積して比率が8まで達する場合、資本の割合は42%にもなりうる。

所得に対する財産の比率の再度の高まりは、格差以外にも金融規制にとって重要な意味を持つ。私たちの計算によれば、1980年代後半の日本におけるバブル期には所得に対する財産の比率は最高700%に達し、2008年~2009年のスペインでは800%にもなった。財産の総ストックが2~3倍である時よりも6~7倍である時のほうが、潜在的にバブルは破壊的なものとなる。所得に対する財産の比率を注視することによって、そうしたバブルに気付ける可能性があるし、適切な金融規制・金融政策を設計するにあたってはそうした視点が必要であるということを気付かせてくれるのだ。

図4.日本のバブルよりさえも大きいスペインのバブル
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出典:各国の国民経済計算を用いた著者の計算による。民間財産=非金融資産+金融資産-金融負債(家計&非営利部門)

参考文献

●Alvaredo, Facundo, Anthony Atkinson, Thomas Piketty and Emmanuel Saez, “The top 1 percent in international and historical perspective”, Journal of Economic Perspectives, vol. 27, n°3, Summer 2013, pp. 3-20.
●Goldin, Claudia and Larry Katz, The Race Between Education and Technology, Harvard University Press, 2010.
●Piketty, Thomas and Gabriel Zucman (2013), “Capital is back: wealth-to-income ratios in rich countries, 1700-2010”, CEPR Discussion Paper 9588, August.
●Piketty, Thomas and Emmanuel Saez, “A theory of optimal inheritance taxation”, forthcoming in Econometrica, 2013.
●Zucman, Gabriel, “The missing wealth of nations: Are Europe and the U.S. net debtors or net creditors?”, Quarterly Journal of Economics, vol. 128, n°3, pp. 1321-1364.

  1. 訳注;ソロー型の成長モデルで考えると、長期においてはs・f(K/N)=n・(K/N)となる点で均衡成長し、人口成長率n=経済成長率g=所得成長率となるため。 []
  2. 訳注;正確には10%を3%で割った約333%であり、この次の文にある600%も同様に約666%となる。 []

Comments

  1. 訳注1がよく分かりません。
    ふつうハロッド・ドーマー式といえば、
    純貯蓄率s、資本産出比率v(=K/Y)、定常経済率gとして、s=vgのことで、
    ここではまさにこのことをいっているだけのような感じがします。
    古典派生産関数を持ち出す必要もないし、
    人口成長率=経済成長率とか関係ないような。

    • コメントに気付かず、返信が遅れて申し訳ありません。

      おっしゃる通りで、ソローモデルはハロッド・ドーマーの改善であって該当箇所について両者に違いがない以上、訳注1部分はコメントの通りに説明したほうが良かったかもしれません。
      ただ、長期においてハロッド・ドーマー式の両辺が本当に同じになるかは保証されていないため(というかナイフエッジとかいって同じになることはほとんどないんでしたっけ?)、長期均衡としての説明をするのであればソローモデルが必要になってくるのだと思います。原著者がハロッド・ドーマー・ソローと書いているのもそういう意図かなと思い、ここでは訳注1のような説明としました。
      注記であれば、本文の説明をさらに分かりやすくすべきものであるところ、かえって誤解を招いたようで申し訳ありません。また何かあればコメント頂ければ幸いです。

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