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ブランシャール 「金融政策の新たな地平」

Olivier Blanchard, “Monetary Policy Will Never Be the Same“, iMFdirect, November 19, 2013.

IMFは2週間前、スタンリー・フィッシャーを記念して危機からの教訓に関する大規模なリサーチカンファレンスを開催した。私の考えをここに記そう。ここでは私は金融政策に関する教訓にフォーカスしたい。しかしそこへ進む前に、他に重要な点、ふたつに先に触れておこう。

1点目。健全財政は(外国で)危機が生じたときの備えとして有益である。以前のエピソードとは対照的に、危機前の健全な財政政策は経済危機に際して発展途上国景気反循環的な財政政策を行う余地を与え、これが決定的な違いをもたらした。

2点目。金融危機発生後の速やかな銀行の整理と資本再増強が非常に重要である。1990年代の日本ではこれが行われずに高くついたが、今回の危機でアメリカはうまく対処し経済の回復を助けた。

それでは金融政策について3点ほど述べよう。第1点目は流動性の罠のインプリケーション、2点目は流動性の供給、3点目は資本移動の管理についてである。

流動性の罠 — ゼロ金利制約が実際に長期間有効になること— が残念ながら非常に大きな損害をもたらすことを我々は学んだ。そして現時点ですでに5年が経過している。同時に、それでもまだ金融政策には幾らかの余地があることも我々は発見した。一連の証拠は非伝統的な政策が期間構造にシステマティックに影響をあたえることができ、その結果ポートフォリオ効果を通じてイールドカーブを曲げることができることを示している。しかし伝統的な政策と比較すれば、そのような非伝統的政策の効果は非常に限らたものであると同時に不確実なものにとどまっているのである。

このような理由から、将来についてはそもそも流動性の罠を避ける方法について注目が集まり、インフレ率についての疑問が再び持ち上がっている。今ではほとんどの先進国の間で現在のインフレ率がもっと高ければよかったという幅広い合意がある。危機以前のインフレ率が実際の当時の率よりももっと高かったならば、おそらく現在のインフレ率もより高いものになったであろう。もっと具体的に言えば、危機以前のインフレ率が2%ポイント高かったのならば、現在のインフレ率も今よりも2%ポイント高かった可能性が非常に高く、そして、実質金利は2%ポイント低くなっていたであろう。であれば、おそらくアメリカは今頃はゼロ名目金利から脱出してことであろう。

長期にわたるマイナスの実質金利が必要かもしれないというラリー・サマーズによって指摘された可能性を我々は無視するべきではないだろう。各国は原理的には低い名目金利と緩やかなインフレ率とによってマイナス実質金利を実現することができるはずである。にもかかわらず、我々はいまだに低調な需要が低インフレ率・高実質金利を招き、高実質金利がさらなる需要の低迷をもたらすという負のフィードバックループの危機に直面しているのである。

次に流動性供給について述べよう。先進国において(とはいえ、結論はより一般的に成立するが)、銀行の破綻は銀行自身のみならず他の金融機関と政府にとっても大きな影響をあたえることを我々は学んだ。公的債務比率が高い環境では借り換えリスクを排除できない。これはポール・クルーグマンによって強調されたテーマの一つでもあるが、金融機関に対してだけでなく、政府にとっても最後の貸し手となる存在があることが極めて重要なのである。ヨーロッパ中央銀行による無条件取引前後でのユーロ周縁諸国の国債に関する証拠はこの点についての大きな説得力を与えている。

最後に資本移動について述べる。発展途上国(および、このカンファレンスでは明確に対象とされていないものの小国の先進国)において、資本移動の大きな変動への最善の対処方法は、全てである必要はないが、多くの部分を為替レートで吸収することである。

為替レートによる調整が望ましいとする標準的な議論はこのカンファレンスでポール・クルーグマンが論じたものである。投資家が彼らの資金を国外へ移動させたいのならば、そうさせればよく、それにしたがって通貨は減価するに任せておけば良い。これによってむしろ輸出と産出の増加をもたらすのである。

為替レート調整に依存することに反対する伝統的な議論が3つある。ひとつは外貨で調達しているならば通貨の減価はバランスシートに負の効果をもたらし、輸出の増加以上に国内需要を減少させるであろう、というものである。二つ目は為替レートの名目的な下落は単に物価の上昇をもたらすだけだ、というもの。三つ目は為替レートの大きな変化は実体経済と金融市場の双方に混乱をもたらしかねない、というものである。

しかし、最初の二つについてはこれまでの危機の時よりも重要性が低下していることを証拠は示している。マクロプルーデンス政策、現地通貨建て国債市場の発達、そして為替レートの柔軟性(とそれによる為替レートリスクに対する借り手のより良い理解)のおかげで、エマージング市場での外国為替リスクはこれまでの危機の時に比べてはるかに限定されたものになっているのである。また、金融政策とインフレターゲティングへの信認の向上によってインフレ予想はこれまでよりもしっかりと固定されるようになったため、インフレに対する為替レート変動の影響も限定されるようになった。

しかしながら、3点目は依然として有効である。そしてこれこそが新興市場国の中央銀行が完全な変動相場制ではなく、管理変動相場へと移行しようとする理由である。これは政策金利と為替介入、マクロプルーデンス政策、そして資本移動制限とを組み合わせて実現する。これによって金利によってしか政策を行えなかったときに比べて、よく知られたディジレンマを抑えることが可能になる。政策金利の引き上げは資本流入による伴う加熱を冷ますと同時に、外国の投資家にとって投資へのさらなる魅力を与えるものとなる。為替介入、資本移動規制、およびマクロプルーデンス政策によって少なくとも原理的には政策金利に頼ることなく為替レートの変動と金融システムの混乱を抑えることが可能である。これらの国々では今回の危機でこれらすべての政策が使われた。国によっては資本移動規制により多く頼ったり、国によっては為替介入により多くを頼ったりしてきた。そしてカンファレンスとIMFでの研究の双方からの証拠はこれらのツールが完璧ではないものの機能したことを示している。今後の明白な(そして極めて困難な)課題はこれらのベストな組み合わせを見つけることである。

手短に言えば、金融政策はもはや以前のものに戻ることは永遠にない。今回のカンファレンスは金融政策がどのように変化したかを理解する一助となり、そして将来の我々の研究と政策がフォーカスすべき場所を示してくれたのである。


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