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スコット・サムナー 「ホットポテト効果、説明!」

[この記事の原文:Scott Sumner, “The “hot potato effect” explained”  The Money Illusion, 2013年9月1日]


私にとってはマクロ経済学の核心である「ホットポテト効果」なのだが、これに手を焼いている人は多い。これを理解しないなら何も理解していないということなのに。人々は個人行動の水準で理解できるような説明を求める。しかしこの場合それはうまく行かない。問題の一端は、実質から名目への伝達メカニズムを考えがちなことだ。価格硬直性のある世界ではその経路が自然に見えるのだ。「ジョーはなぜ新車を買うのか?」と聞いても仕方がない。それはデッドエンドだ。

これまで私はリンゴ市場の喩えでこのホットポテト効果を説明しようとしてきたのだが、もっといい喩えがあることに気が付いた。金である。金はリンゴに比べて貨幣に似た性質が多い。もっと良いことには、かつてそれは実際に貨幣だった!

ではホットポテト効果をステップバイステップで説明して行くが、もしどこかで躓いたらその個所を教えてほしい。

1. 金が1200ドルで売られているとする。金利は低く、従って将来の予測価格はおおむね同じか少し高い状態だ。ここである企業が世界の金産出量を急増させるほどの巨大な金鉱を発見したとする。この新しい産出により金の価格は数年かけて半分に下がる。しかしそれはなぜか? まずこの金鉱が発見される前、人々はその時点の価格なら持っていたいと思っていた量の金を実際に持っていることで価格が均衡していた。新発見の金は、人々が持ちたくない「ホットポテト」のようなものとして働く。もちろん投げ捨てたりはしない。売って手放すのだ。しかしそれは個人個人の水準の話で、全体としてはそうならない(手放すことができない)ことに注意しよう。余分な金を誰かが持っている。(このことこそが代表的消費者の水準で貨幣を理解しようとしてもうまく行かない理由だ)。社会全体としてこの超過の金を処分する道は、人々が持っていたいと思う価格になるまで価格が下がっていくこと以外にない。こうして金の価格が下落して半分になったとしよう。これは金の価値が他のモノやサービスに対して半分になったことをも意味している。

2. ではこの会社が金の発見をアナウンスしただけだとしたら。ただし会社は信用できる。アナウンスによって金貨価格は急落するだろう。

3. ではこの会社が金の埋蔵をレーダーで確認し、これを掘り出すのに二年かかるだろうとアナウンスした場合。同じく金価格は直ちに下落するだろう。2の事例とほとんど同じ割合で。(ここまでは誰でも理解してくれると思う。経済学入門レベルだ。)

4. では金が会計媒体であるとして上の話を考えてみよう。どこが変わるだろうか。明らかに、金価格が急騰したりはしない。会計媒体の価格は定義により固定だから。しかし金の価値は、他のモノとサービスの価格が上昇することで急落するだろう。ここで非常に重要な相違点がある。上の1-3のケースでは金の価値はほとんど瞬時だった。今度は金(会計媒体)の価値の変化は、物価の粘着性により緩やかなものになるだろう。ただし長期的な影響は変わらない。ここまでよろしいか? とても頭が良いが最終段階では私と意見を異にする人々(ジョン・コクランのような)もここまでは意見が一致する。コクランは商品貨幣システムの議論では本質的に「マーケットマネタリスト」だと思う。

注目してほしいのは、ここまでこの変化をマクロ経済学の基本原則だけを使って説明できていることである。たとえば金利などの「伝達メカニズム」を用いる必要はない。ただ需要と供給だけ。ただし重要なことがある。物価は粘着的なので、物価水準が完全に調整されるまでの間は金市場の短期的な均衡を実現するために「他のあれこれ」が変化する。金利は明らかにこの「他のあれこれ」の一つだ。他にも資産価格の変化や実質産出の変化が「他のあれこれ」に含まれる。

しかしこれら「他のあれこれ」の要因がどんなに重要であるにせよ、ホットポテト効果こそが第一義的なのだ。金の量の増加が長期的な金の価値に影響を与えることを説明するのはホットポテト効果に他ならない。ここまだまだ経済学入門レベル。それ以外の効果は我々を最終的な均衡へと動かすのを助ける副次的効果に過ぎない。

5. いよいよ会計媒体を金から現金に置き換えよう。本質的には何も変わらない。三つのケースに分ける。

a. 金利がプラスの状態の場合: 上の金の例とちょうど同じく貨幣ベースがホットポテトになる。準備預金への付利のために事情がやや異なるが、それは読者が考えるほどのことではない。準備預金付利があってもなお、長期的な貨幣数量理論が成立することをピーター・アイルランドが示している。私の表現では次のようになる。準備金付利があってもなお、ベース貨幣の一度かつ永続的な増加は、長期的な物価水準に比例的な増加をもたらす。貨幣はどこまでも中立的だ。  T

b. 名目金利がゼロで、かつ永遠にゼロと予測されている場合。このとき公開市場操作に意味はなくなる。利子が支払われない国債は本質的に現金と等価となり、公開市場操作がただの両替と同じなる。財政政策は強力なはずだが、政府負債が小さいなら(訳者補足:名目金利が永遠にゼロと予測されるほどに小さいなら)効率的ではない。

c. 名目金利がゼロだが、将来はプラスだと予測されている場合。この場合、掘り出すのに二年かかる金の場合で論じたのと同じ理由から、貨幣ベースの永続的な増加がインフレ効果を持つ。では一時的なベースの増加だったら? 効果はほとんどない。それは金利がプラスの場合も同じだ。

6. では、現金と準備金の合計が会計媒体である場合。まったく同じだ。準備金もまたホットポテトである。実際100年前、準備金はすべて現金だった。

7. では準備金が100%会計媒体であるキャッシュレス経済を想定する。やはり同じく準備金はホットポテトだ。上で述べたように準備金金利は本質的ではない。銀行はX%の準備金金利の下でYの準備金を需要する。準備金金利をX%としたままで準備金の量を二倍にすれば、銀行は直ちに準備金を増やす。ホットポテト効果が発動! ゼロ制約? 5の例を見よ。

QED

マーケットマネタリストに開眼への列車から落ちこぼれた人はいるかな? 何人かのMMT論者は溝に落ちて頭を悩ませていると思うけれど。


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