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ポール・クルーグマン「ヨーロッパ経済:まだまだ低調,まだまだ低迷」

Paul Krugman, “The European Economy: Still Weak, Still Faltering,” May 23, 2014.
[“Not On The Mend,” May 15, 2014; “Predictions and Prejudice,” May 8, 2014.]


ヨーロッパ経済:まだまだ低調,まだまだ低迷

by ポール・クルーグマン

MEDI/The New York Times Syndicate

MEDI/The New York Times Syndicate

去年は,「もうユーロ危機は終わった」「ヨーロッパ経済は立ち直った」と宣言する声をいっぱい聞いた.こういう声には,たしかに現実の裏付けもいくらかある――欧州中央銀行の支援のおかげで金利は大幅に収束してるし,ユーロに対する政治的なリスクは退いたと見る向きは強まってきてる.でも,それ以上に疑わしいことも背後にある:債務国の経済成長がそこそこ上向いてるって話がそれだ.

さて,ユーロ圏の国内総生産に関する最新の数字は,実のところガッカリなものになってる.全体の成長が緩慢だってだけじゃない――ふつう,景気低迷が長引いた経済には,通常の傾向に回帰するなかで平均以上の成長を見せる期間がやってくるものだけど,年率 0.9 パーセント成長はとうていそんな感じじゃない.そればかりでなく,そういう成長が起きてる場所がおかしいんだ.緊縮策に痛めつけられたユーロ圏周辺国と中核国が,〔同じような成長率に〕収束する必要がある.ところが実際には,ドイツが成長の主な源泉で,周辺国との差はいっそう広がっている.

あ,そうそう.みなさんお気づきでございましょーか.「バルト海の奇跡」とやらは,いまじゃそれほど奇跡っぽくなくなってましてよ.エストニアの成長は今年になって下がってるし,ラトヴィアの成長率はアメリカを上回ってはいない.

ヨーロッパ事情は,これまでと変わらず,破滅的な経済政策の問題だ.破壊的な政策が,とてつもない痛みを人々に押しつけたんだ――それなのに,いまだに〔ユーロの〕解体にはいたっていない.ぼくみたいな連中が認識していた以上に,ユーロ圏の政治的な結束は強かったからだ.

結束は大事なことなんだろう.たぶんね.でも,その政策はうまく機能していない.

© The New York Times News Service


予測と偏見

2008年危機とその予後は,経済学者にとって試験期間だった――その試験では,知性だけでなく道徳も問われた.危機に対するいろんな政策対応の効果について,経済学者たちの予測は実にさまざまだった.当然,そういう予測のなかにはまるっきり大ハズレだと明らかになったものもある.さて,間違った人たちは,どんな反応を見せただろう?

結果は,あまり心強いものじゃなかった.

たとえば,経済学者アラン・メルツァーは,いまでもおっかない警告を発してる.いちばん新しいやつだと,『ウォールストリート・ジャーナル』の論説で,インフレ到来を警告してる.この論争をいままで追いかけてなかった人には,経緯が十分にわからないかもしれないね.そこで,おさらいをしておこう.メルツァー氏が「インフレやばい」の太鼓を叩き始めたのは,5年前のことだった.連銀のバランスシート拡大によって,物価上昇は収まりがつかなくなるぞ,と彼は予測していた.他方,ぼくみたいな連中は,流動性の罠と日本の経験をごらんよと言って,そんな事態にはならないってことを説明した.

グラフ参照:青い曲線は2007年12月を100としたマネタリーベースの推移,赤い曲線は2007年12月を100とした消費者物価指数の推移〕

これほど明快に経済学の検証が決定的になることもない.これを見れば,「よしわかった,ぼくは間違ってた.理由はしかじかだ」って言うはずだよね.

まさか.

ここが大事なとこなんだけど,これは,なにもメルツァー氏一人にかぎったことじゃないよ.この論争でメルツァー氏と同じ立場をとっていたエライ人たちのなかで,圧倒的な証拠を前にして,すすんで自分の信念を修正しようとした人なんて,誰か思いあたる?

すると,こんな風に言う人もいるかもしれない.「いや,いつだってそんなもんじゃないの」――そうでもないんだな,これが.1970年代にインフレの「加速説」をめぐって,これといくらか似た論争が展開された.加速説っていうのは,経済学者ミルトン・フリードマンとエドマンド・フェルプスが提唱した説で,「インフレ率が継続的に上がり続けると,失業率とインフレの関係が悪化するので,長期的なトレードオフはない」と考える.スタグフレーションの登場は,この仮説を裏付けているように見えた――そこで,ケインジアンの大多数はこの結論を受け入れ,それに合わせて自分たちのモデルを修正した.

だから,今回はちがうわけだ――それに,この手の人たちも前とちがう.その理由を理解しようとしてみる必要があると思う.彼らは,たんに科学っぽいことをやってるフリをしてるだけで,ほんとの利害関心はつねに政治にあるんだろうか? 単純に,あまりにもたくさんのお金と関心を自分たちの見解に投じてしまっただけなんだろうか?

© The New York Times News Service


【バックストーリー】ここではクルーグマンのコラムが書かれた背景をショーン・トレイナー記者が説明する

不均等な景気回復

by ショーン・トレイナー

今月公表された新レポートによると,2014年第一四半期にユーロ圏経済の成長率はほんの 0.2 パーセントだった.多くのアナリストはすでに穏当な予測しかしていなかったが,それすら下回っている.いま,欧州中央銀行に対して,新しく金融刺激策を導入する圧力は高まっている.

ユーロ圏の景気回復がついに景気回復軌道にのったという希望は,新データで打ち消された.イタリア,ポルトガル,オランダはそろって産出が減少している.また,ユーロ圏第二位の経済大国フランスは,完全に停滞してゼロ成長になっている.

ドイツ経済は 0.8 パーセントで成長しているものの,アナリストからはこの数字を真に受けると誤解するという警戒の声があがっている,「この冬が例外的に穏やかだったために,2013年と比べて建設と経済活動が増加したのかもしれない」というのがその理由だ.さらに,ヨーロッパ諸国のなかには,デフレを経験し始めているところもでてきている――デフレとは物価の〔継続的な〕下落のことで,これにより深刻な経済問題がいくつも生じかねない

この発表以来,欧州中央銀行総裁マリオ・ドラギは公開の発言で,6月に開かれる同銀行の次回会議で非伝統的な金融刺激策を導入することも排除しないと述べている.ただ,そのドラギ氏も,アメリカの連邦準備制度が行っているような量的緩和プログラムは検討しないと,いまなお断固として否定している.

アナリストのなかには,新しい刺激策があまりに小さくあまりに後手に回ってしまうのではないかと懸念する向きもある.「2011年,危機が最悪の状態を迎えた頃,多くの人がユーロ通貨制度が完全に崩壊するのではないかと恐れていた」と述べるのは,クリーヴ・クルックだ.5月15日付『ビジネスウィーク』で,彼はこう記している――「ユーロが瓦解していれば,その災厄はいっそうひどい景気後退を引き起こしていただろう.天佑というべきか,ユーロは崩壊しなかった.他方で,もし崩壊していれば,少なくとも一点を明快にしてくれていたはずだ――つまり,いま欧州連合が切実に必要としている対応を取らざるを得なくなるというかたちで,やるべきことが明らかになっていたはずだ.今日のリスクは,ヨーロッパの回復は弱々しく頼りないというのに,それで十分よくできていると思われてしまうことだ.そうなれば,ヨーロッパの活力を回復させうる変化が起こる見込みが大幅に薄くなってしまう.」

© The New York Times News Service


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