ポール・クルーグマン「公共政策はよりよい習慣を促進すべき?」

Paul Krugman, “Should Public Policy Promote Better Habits?,” Krugman & Co., August 29, 2014.
[“Steps and the City (Fairly Trivial),” The Conscience of a Liberal, August 16, 2014.]


公共政策はよりよい習慣を促進すべき?

by ポール・クルーグマン

BLEIBEL/The New York Times Syndicate
BLEIBEL/The New York Times Syndicate

『ワシントン・ポスト』のエミリー・バジャーが書いた先日の記事によると,都市のスプロールは健康にわるいそうだ.それに,Vox のサラ・クリフによると,映画館の売店も健康によくないらしい.それで,民主党のトム・ハーキン上院議員(アイオワ)とローザ・デラウロ下院議員(コネチカット)はポップコーンにカロリー情報表示を義務づける規則を課したがっている.(しょうもないことにクヨクヨしてる風に聞こえかねないのを承知でいうと,彼らはべつにみんなからポップコーンを「とりあげよう」としてるわけじゃない.彼らの規則ができても自由に買える.たんに,映画館はみんながこれから消費しようとしてるモノにどれだけカロリーがあるのか伝えなくちゃいけなくなるだけだ.)

つまり,新古典派経済学はすっかり間違ってたってわけだ.

はい,言い過ぎました.でも,都市の設計がもたらす健康上の影響に関する懸念も,特定の種類の消費を思いとどまらせようとする試みも,ともに,基本的には人間行動のモデルとして合理性があれこれと失敗してることに関わってる.人々は十分な運動をやった方がいい――やれば総じてより幸福になる――んだけど,どこにでも車で行けて,歩いていくのがそれほどかんたんじゃない環境に暮らしているとあんまり運動しない傾向がある.また,カロリー摂取量をおさえる方がいい――これまた同じく,おさえた方がより幸福になれる――んだけど,山盛りポップコーンの誘惑についつい屈してしまいがちだ.

ぼく個人も,こういう環境の効果が重要だって事を証言できる.このところ,ぼくは腰に万歩計を付けて歩いてる――ほら,ぼくももう61ですし,やんなくちゃやばいでしょ.そうしてみたら,ニュージャージーのプリンストンにいるときよりニューヨークにいるときの方が,ずっと自然に運動しやすいのが一目瞭然にわかっちゃう.都市にいれば,1日2回ほど地下鉄に乗らずに歩くことにするだけで,すぐに15,000歩くらい歩けてしまうのに,郊外にいると朝のジョギングをやっても10,000歩を超えるのもむずかしかったりする.それに,前市長マイケル・ブルームバーグの「過保護国家」な遺産のおかげで,ニューヨークではほぼなんにでもカロリー表示がされてるから,悪徳にはまるのを避けやすくなってる(ああ,油たっぷりの朝食サンドイッチときたら…!)

ここで興味深くもあり難しくもある問いがでてくる.それは,この種の行動に関する問題を政策にどう反映させるべきなのか,あるいは,そもそも反映させるべきなのかどうかってことだ.おきまりの外部性を根拠に歩きやすい都市開発を推進すべきと主張する論もある――外部性を根拠に環境汚染を減らすのと同様の話だ.だけど,いい習慣を促進するからって理由で,歩きやすさと密集度を優先できる――優先すべき――だろうか? ファーストフード規制はどこまで踏み込むべきなんだろう? それに,平均で見て,近頃は大都市に暮らす人たちの方が,小さい都市や街に暮らす「本物の」アメリカ人よりも,自分の足であちこち出歩いてもっと「自然な」生活を送っているってのは興味深くない?

さて,食品ジャーナリストのマーク・ビットマンご推薦の甘味料ゼロなオートミールをいただく時間だ.朝食サンドイッチはダメ,ぜったいダメだぞ俺.

© The New York Times News Service

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