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ポール・クルーグマン「格差の玉手ボックス」/オズワルド&ポータヴィー「お金が人を保守にする」

Paul Krugman, “Vox Anti-Populi1 “(The New York Times, February 13, 2014)


ポール・クルーグマン「格差の玉手ボックス」

現在の政策に関するオンライン経済ジャーナルのVoxEU,これはぼくの昔の教え子のリチャード・ボールドウィンが編集してるんだけど,ちょうどいまそこで格差に関する素晴らしい論文が2つでてきた.

ひとつめのほうでは、アンドリュー・オズワルドとナッターヴート・ポータヴィー[邦訳はこの下]が,お金持ちになった人たち,ただし自分たちの努力や相続ではなくて宝くじの当選によってそうなった人たちの政治的態度への富の影響を調べている.案の定,宝くじの当選者たちはもっと右寄りになっている。そうしたことはたぶん驚くようなことじゃないだろうけど,確信はなかったという人にとってはこれはそうした疑念を晴らすはずだ.

さらにもっとおもしろいのは政治的態度への影響だ:宝くじの当選者たちは今の不平等な所得配分を称賛する可能性も高くなるんだ:

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(ここにあるのは表の1行目だけだ;たくさんの他の変数がコントロールとして含まれている).

これについてちょっと考えてみてほしい.自分の力で成功した人は,みんな自分にふさわしいものを手に入れているんだと自身の経験から結論するかもしれないのでは、と思う人もいるんじゃないかな。でもここでは人々は設計上,正真正銘まったくの運で(さらに)お金持ちになったのであって,才能や努力はぜんぜん関係してない.それなのに,富の増加はそれでも社会が公正だと彼らに思わせているんだよ.ということは大きな宝くじの当選が彼らをトム・パーキンズ2 にしてしまうということなんだろう.

ふたつめのほうでは,デイヴィッド・ファーセリとパラカシュ・ラウンガーニ[邦訳はここ]が事例研究の枠ぐみを使って―政策にはっきりとした変化があると平均的には何が起きるのかということを調べつつ―”ネオリベラル的”政策変更(とは二人は呼んでいないけどね)による格差への効果を見つもっている.案の定,財政緊縮と国際資本移動の自由化は両方とも所得格差の大きな拡大をともなうということを彼らは見つけている.

わんわん言うようなタイプの左派は,政治的態度は階級によってつくられるのであって大きな格差のイデオロギー的な正当化は階級の利益の隠れ蓑でしかないんだーとか叫ぶのかもしれない.”まともな”経済政策なんていうのは,本当のところは単に上のほうへ所得を再分配する政策でしかないんだーっていうのもあるかもしれない.そして計量経済学による証拠はそうした叫びがただしいってことを多少なりとも支持してるんだ.

© The New York Times News Service


オズワルド&ポータヴィー「お金が人を保守にする」

Andrew J Oswald, Nattavudh Powdthavee “Money makes people right-wing and inegalitarian” (VOX, February 13, 2014)

富裕層は一般的に政治的に右寄り3 である。彼らは全くの良心に基づく見解や個人的利益に突き動かされているのだろうか。本稿では、お金が人を右寄りにするということを主張する。ここでは、イギリスにおける宝くじ当選者が、高い確率で自らの忠誠を左から右へと転向させるということを示す。


みなさんが右だったり、左だったり、中道だったりするのはどうしてでしょうか。おそらくは本心からの冷静で倫理的な選択をしたのだと信じていることでしょう。でも、そうした政治的な好みに影響を与えた奥深くの原因はなんだったのでしょうか。

人々の政治的見解をもたらす科学的原因はあまり理解されていません。一つの可能性(見解1)としては、政治と再分配に対する各個人の態度は全くの良心に基づく見解であるというものです。もう一つの可能性(見解2)、これを前提においている経済学者もおそらくいることでしょうが、それは投票における選択は個人的利益によって形成され、その後心の中で良心的な言い訳で飾り立てされるというものです。この二つの別個の理論の検証を行うことは学術的には重要です。そうした検証を行うのは本質的に難しいことでもあります。というのは、人間としての私たちの態度の非常に多くは人生の早い時期に由来している可能性があり、そしてそうした態度は研究者の目から見ると「人の固定効果」に近しいものだからです。

ほとんどのデータセットでは、お金持ちの人々は一般的に右寄りです。高所得と右寄りの考えが横断的データにおいてプラスの相関を持っているという事実は、計量的な社会科学の文献で繰り返し述べられています(最近の例で言えば、アメリカのデータではBrooks and Brady 1999やGelman et al. 2007、イギリスのデータでは Evans and Tilley 2012があります)。Karabarbounis (2011)では、それと同じような結果が大きく異なる類の手法を用いて報告されています。Di Tella and MacCulloch (2005) を始めとして、経済学者たちも政治的見解とその含意について研究を行っており、それ以外の影響についても政治的見解の因果関係を示す証拠を用いつつ検証が行われています。

はい、というわけでお金持ちは左ではなく右を好みます。難しいのは、政治学でよく知られているこの相関をどのように解釈するかということです。これは因果関係なのでしょうか。もしそうであるならどちらが原因でどちらが結果なのでしょうか。対象のグループにお金を湯水のように与えるランダム化実験を現実で行えればいいのですが、社会科学に資金を提供する機関にとって高すぎるものとなってしまいます。そのため、着想を得るためには別のところに目を向ける必要があります。

宝くじによる新事実

私たちの新たな研究、Powdthavee and Oswald (2014)では、この問題の根底に迫ることを目指しました。この研究は宝くじの当選者を時系列で観察し、人によってはそれよりも歪んだものと言う向きもあるのかもしれませんが、上記の2番目すなわち人間に関する見解2と整合的な時系列的な証拠を示しています。私たちは人々の政治的態度を毎年記録しているデータセットを利用しました。気付くのは研究の終盤にはなりましたが、この研究はDoherty et al. (2007)による興味深い横断的検証を踏まえたものです。

私たちのデータセットは、思いがけず宝くじによる多額の臨時収入を得た数百人の個人からなっています。他の影響を取り除いた上で、宝くじの賞金額が増えるほど、その人がその後に政治的態度を左から右に転向する傾向が強まることを私たちは見出しました。また、宝くじの当選者たちは、一般の人々は「公正な割合の社会の富を既に受け取っている」という信念により親和的であるという証拠も示されています。

私たちは当選の前後に渡って人々の観察を行うことが可能です。時系列的な情報へのアクセスは、これまでこの問題を研究してきたほとんどの人たちが得ることの出来なかった利点をもたらしてくれています。そうした利点が重要であることの一つの理由は、人の性格が宝くじの購入枚数とその人の政治的態度の双方に影響を与えるのだという主張も一見妥当に見えるがゆえに、当選と右寄りの見解の間にもっともらしい偽の関係を見出してしまいうるからです4 。私たちは他の色々な証拠とともに、以前には右の支持者ではなかった当選者が偏った確率で右へと傾くことを証明する単純なグラフも示しています。

正式の研究5 で利用しているのはイギリス全土の国民の代表サンプルです。回帰方程式では、このサンプルのうち今まで宝くじに当選したことのある人たちからなるサブサンプル(イギリスでは宝くじは人気のため、割と大きな割合です)にとりわけ焦点を当てています。このグループの中でも特に、比較的少額の当選者と比べた際に多額の当選者が示した政治的忠誠の時系列的変化が注目されるところです。メインとなる情報は、500ポンド以上最大約20万ポンドの宝くじの当選者541人がもとになっています。図1はこの結果を分かりやすい形で示したものですが、正式論文のほうには固定効果回帰式を示してあり、エラーバーもより厳密に定義されています。

図1.転向の証拠:その前の選挙で保守派へ投票しておらず、宝くじ当選後に右(保守)へ転向した人の割合

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注記:宝くじに当たったことがない(もしくは購入したことがない)人は48,177、1~499ポンドの少額の当選者が5,675、そしてサブサンプルには500ポンド以上の中高額当選者が354となっている。スタンダードエラーバーは4つ(上下にそれぞれ2つ)。これらは生の結果で、データセットの未調整の平均である。

出典:BHPS Data, Waves 7-18.

当選による影響は、あまり大きな額ではないものでさえ相当大きく、つまりは結構なサッチャー女史やロナルド・レーガンのような人を好む確率にかなりのパーセンテージポイントが上乗せされることになります。したがってお金は人々を右寄りかつ格差肯定派にしてしまうのです。おそらくはこれを読んでいるあなたでさえも。

参考文献

●Brooks, C and D Brady (1999), “Income, economic voting, and long-term political change in the US, 1952-1996”, Social Forces, 77, 1339-1374.
●Di Tella, R and R MacCulloch (2005), “Partisan social happiness”, Review of Economic Studies, 72, 367-393.
●Doherty D, A S Gerber and D P Green (2006), “Personal income and attitudes toward redistribution: A study of lottery winners”, Political Psychology, 27, 441-458.
●Erikson, R S and L Stoker (2011) “Caught in the draft: The effects of Vietnam draft lottery status on political attitudes”, American Political Science Review, 105, 221-237.
●Evans, G and J Tilley (2012), “How parties shape class politics: Explaining the decline of the class basis of political support”, British Journal of Political Science, 42, 137-161.
●Gelman A, B Shor, J Bafumi and D Park (2007) Rich state, poor state, red state, blue state: What’s the matter with Connecticut? Quarterly Journal of Political Science, 2, 345-367.
●Karabarbounis, L (2011) “One dollar, one vote”, Economic Journal, 121, 621-651.
●Oswald, A J and N Powdthavee (2010), “Daughters and left-wing voting”, Review of Economics and Statistics, 92, 213-227.
●Powdthavee, N and A J Oswald (2014), “Does money make people right-wing and inegalitarian: A longitudinal study of lottery winners“, Warwick University Economics Working Paper 1039, February.

  1. 訳注;原題はラテン声で「人々の声」を意味するVox Populiのもじり。 []
  2. 訳注;ベンチャーキャピタルで成功して富を築いた人で、最富裕層の収入の正当性を強力に擁護している。 []
  3. 訳注;ここで右というのは基本的に保守派、特に経済右派を指しており、ナショナリストになって街宣車を走らせるということを特に意味しているわけではないことに注意。 []
  4. 訳注;当選前後に渡る長期の観察結果がなければ、人の元々の性格が宝くじの当選金額と右寄りの見解の双方をもたらすのだという見解が実際には間違っているにも関わらず、それを確かめることができない。 []
  5. 訳注;VOXに投稿されたこの文章は、本文下部の引用文献にあるPowdthavee, N and A J Oswald (2014)の要約で、ここの正式の研究というのはその原論文のほうを指している。 []

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