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ポール・クルーグマン「経済機会が崩壊したから貧困が永続してるのよ」

Paul Krugman, “Economic oppotunity has collapsed, so poverty endures,” Krugman & Co., January 16 2014


経済機会が崩壊したから貧困が永続してるのよ

by ポール・クルーグマン

The New York Times Syndicate

/The New York Times Syndicate

リンドン・ジョンソン大統領の「貧困との戦い」50周年でなにか言っておきたいと思ってね.「予算・政策優先順位研究所」によると,1980年あたりまでには,あれは失敗だという合意が広まっていたそうだ.でも,同研究所は今月初めにでたオンラインの記事でこうも結論づけている――数字を正しく扱うとこの合意は崩れてしまうんだって.それによると,政府援助を考慮に入れた貧困の尺度――他でもなく貧困との戦いで提供されたような援助を考慮に入れた尺度!――を見ると,1960年代以来,大幅な減少が起きているのがわかる.なくすべき悲惨な窮状はまだまだ多いけれど,それでもかつてよりは少なくなってる.

そうだとしても,貧困の解消に向けた進歩は,明らかにがっかりなしろものだった.でも,どうしてだろう?

議論がここにさしかかったら,1つ認識しておくべき大事なことがある.それは,アメリカの保守派が化石みたいな物語にはまってしまってるってことだ――永続的な貧困に関するその物語は,30年前ならまだ一抹の真理があったかもしれないけれど,いまとなってはまるっきりまちがっている.

1970年代の物語はこんなのだった――「貧困との戦いが失敗したのは社会が分裂してしまっているためだ:政府が貧困層を助けようと試みても,家族の崩壊や犯罪増加などがそれを上回ってしまっているために失敗したのだ.」 そして,右派や中道の一部では,「政府援助はどちらかというと社会の分裂をいっそうすすめるのに寄与している,したがって貧困は価値と社会のまとまりの問題であってお金の問題ではないのだ」と論じられることがよくあった.

エリートたちが信じたがるほど,この物語に真実味があったためしなんて一度もなかった.社会学者のウィリアム・ジュリアス・ウィルソンがずっと前に示したように,都市の雇用機会が減少したことが,社会の分裂と大いに関わりがあったんだ.とはいえ,あれにも一理はあった.

けど,それもずっと昔のことだ.近年,犯罪はぐっと減少したし,十代の妊娠も減った.他も同様だ.社会は崩壊なんてしなかった.そのかわりに崩壊したのは,経済的な機会だった.貧困減少に向けての進歩がこの半世紀にわたって期待はずれだったとしたら,その理由は家族の崩壊じゃあなくて,極度の格差が登場したことにある.

合衆国は,1964年よりもずっと豊かになった.でも,そうやって増えた豊かさは所得分配の下半分にいる労働者たちにしたたり落ちては行かなかった.

厄介なのは,アメリカの右派はいまだに1970年代に生きているってことだ.いや,レーガン式の1970年代の幻想に,かな.反貧困という政策課題はようするになまけ者どもを働かせて生活保護から抜け出させることにつきる話だと彼らはいまだに思ってる.たとえうまく見つかったとしてもいちばん安価な仕事だと貧困から抜け出るほどの給料はでないって現実は,ちっとも理解されていない.それに,実際に援助することで貧困層を助けるって考え方は,いまだに忌み嫌われている

「福祉で贅沢三昧の女王」がどうしたこうした,みたいな話からこの論争を抜け出させることって可能なのかな? ぼくにはわかんない.

ただ,さしあたって言っておくと,貧困論議を理解する鍵は,次の点にある:永続的な貧困の主要な原因は,市場所得の大きな格差にある――でも,右派はその現実を認めようって気をおこしてくれないのよね.

© The New York Times News Service


【バックストーリー】ここではクルーグマンのコラムが書かれた背景をショーン・トレイナー記者が説明する

50年戦争

by ショーン・トレイナー

1964年,リンドン・ジョンソン大統領は,アメリカで「貧困との戦い」と一括りに呼ばれる一連の政策イニシアティブを導入した.

その後2年にわたって,議会はアメリカの福祉システムを大幅に拡充し,雇用創出を目的としたいくつものプログラムを立ち上げた.それから数十年,アメリカの保守派の多くは,こうしたイニシアティブに対して批判の色を強めていった.ああした政策が,貧困層を助ける効果をまったく発揮していない,と彼らは非難した.

1980年代になってロナルド・レーガンが大統領に就任すると,彼はジョンソンの政策の一部を廃止したり規模を縮小させた.「1964年にかの有名な貧困との戦いが宣戦布告された後,おもしろいことが起きました」――1986年にレーガンはラジオ演説でこう発言している.「依存の度合いで測った貧困は縮小が止まり,それどころか,悪化しだしたのです.こう言ってもよいでしょう.この戦争の勝者は貧困だったのです.」

今年,合衆国は反貧困キャンペーンの50周年を迎えた.多くの評論家が,その影響をあらためて取り上げている.保守のヘリティッジ財団の研究員ロバート・レクターは『ウォールストリートジャーナル』でこう主張している――「貧困との闘いは,大惨事だった.」

レクターはこう続ける:「人口の大部分は,貧困との戦いが始まった頃よりも自立する能力が衰えている.」

多くのリベラルはこう主張している――「たしかにこうしたプログラムはアメリカの貧困を一掃しなかったが,生活水準を劇的に向上させている.」

ジョセフ・バイデン副大統領のもとでかつて主席エコノミストをつとめたジャレド・バーンスタインは『ニューヨークタイムズ』の論説で,貧困との戦いは敗戦ではなかったが,もっと大きな傾向に追い越されてしまっただけではないかと述べている.「これが戦争だったとするなら,時間とともに力を強めたのは反貧困の勢力だけではない」と彼は記す.

「対立する勢力も,格差・グローバル化・労組解体という武器を活用して(…)よりいっそう力をつけているのだ.」

© The New York Times News Service


Comments

  1. NYTウェブサイトの記事と同じと仮定して、訳抜けかなと思う部分をいくつか:

    ・”a fossil narrative — a story about persistent poverty” の “about persistent poverty” の部分。

    ・”government aid was if anything promoting this social disintegration” の “if anything” の部分。

    ・”Poverty was therefore a problem of values and social cohesion, not money” の “not money” の部分。

    ・”the elite wanted to believe” の “wanted” の部分。

  2. あと、「貧困現象に向けての進歩」という訳が、個人的にはちょっと抵抗があります。なんかわざわざ貧困に向かって進むみたいな感じがしちゃって(^^)。「貧困対策の進歩」とかそんなんじゃダメでしょうか?

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