マンキュー&ヴァインツィアール「身長への課税はいかが?」

N. Gregory Mankiw , Matthew Weinzierl “Do you really want to tax ability?” (VOX, 12 June 2009)

背の低い人には税の控除をし、背の高い人には税を割り増しするということを税制に組み込むべきだろうか。課税政策分析のための標準的な効用主義的 [1] … Continue reading 枠組みによると、なぜ身長のような賃金と相関する個人の特徴によって税負担が決定されるべきとなるのかを本稿では説明する。背の高い人ほど高い税金を支払うべきなのである。これがおかしいということであれば、標準的な枠組みに誤りがあるということになる。


大統領候補バラク・オバマと有権者「配管工のジョー」との有名なやり取りの中で、未来の大統領は「富を周りへと広げるため」に富裕層に対する税金を引き上げたいと発言した。オバマの意見はジョーを納得させるに至らなかったかもしれないが、政治哲学と経済の長い伝統へと立ち戻るものではあった。

1世紀以上前、フランシス.Y.エッジワース(1897) は完全情報を備えた効用主義的な社会計画者が完全な平等主義者となることを指摘した。すなわち、この計画者は社会の全構成員の限界効用を均等化するということだ。そして全ての人が同一の分離可能な選好を持つのであれば、限界効用を均等化するには課税後の所得も同様に均等化されなければならない。平均よりも高い生産性を授かった人たちは過剰分全てを納税し、平均よりも低い生産性を授かった人たちには平均へと押し上げるために補助金を与えるということだ。

ウィリアム.S.ヴィックリー (1945) とジェームズ A. マーリーズ (1971)はエッジワースの解決策にある重要な実際上の難点を強調した。政府は天賦の生産性を観察することはない。その代わりに政府が見るのは所得であり、これは生産性と努力の関数だ。こうした不完全情報を持つ社会計画者は、過剰な再分配は努力を供給するというインセンティブを鈍らせるということを認識し、平等主義的な結果という自らの効用主義的な欲求を制限しなければならない。最適非線形課税に対するヴィックリー=マーリーズのアプローチは今や標準となっている。

ヴィックリーとマーリーズは、所得とは個人について政府が観察できることの出来るデータの唯一の一片であることを前提としている。こうした前提はしかしながら、真実からは程遠いものだ。実際には、ある人の所得税の税負担は住宅ローンの利払い、寄付金、保健関係支出、子供の数等々の所得のさらに先にある様々な変数の関数だ。ジョージ・アカロフ(1978)はこうした変数を「タグ」と呼び、この人には特別な支援が必要だと社会が考える人たちを特定するのにこうした変数が使える可能性があることを示した。

直近の論文 (マンキュ―及びヴァインツィアール, 2009)において、私たちはヴィックリー=マーリーズの枠組みを用い、また別の変数の隠れた役割を探った。すなわち納税者の身長だ。この調査においては依って立つ二本の足がある。それは理論と実証だ。

理論の足とは、最適課税理論によれば、生産性と相関する外生変数であれば何であれ個人の最適税負担を決定するのに有用な指標となるはず、というものだ。直観的に見ても、社会はそうした変数を用いることで平均的には所得への課税にともなう効率費用を負担することなしに、より生産的な人たちへ課税することが出来るようになる。

実証の足とは、ある人の身長はその人の所得と強く相関しているというものだ。例えば、アン・ケース及びクリスティーナ・パクソン (2008) では、「男女双方において(中略)身長が1インチ大きくなることは稼ぎが1~2%増えることと関連している」と記している。この事実を最適課税の教科書的なアプローチに用いると、ある人の税負担はその人の身長の関数とするべきということが示唆される。つまり、所与の所得をもつ背の高い人は同じだけの所得を持つ背の低い人よりも多くの税金を払うべきということだ。

最適身長課税

従来型の効用主義的な計算方法によれば、最適身長課税はかなり大きな差をもたらすものとなることを私たちの研究は示している。私たちはアメリカの白人男性を次の3つのグループに分け、最適課税の計算を行った。すなわち、高身長(72インチ(183cm弱)以上)、中身長(70~72インチ)、低身長(70インチ(178cm弱)未満)だ。高身長グループにおける最適課税率は高身長グループの平均所得の7.1%であるのに対し、中身長グループの最適課税率は中身長グループの平均所得の3.8%だ。これらの税金は、低身長グループに対し彼らの平均所得の13%以上に相当する額の所得移転を行うために支払われる。より具体的な形にすると、それぞれの身長別グループにおける最適課税一覧は以下の表のとおりとなる。50000ドルを稼いでいる高身長の人は、同じ所得を稼ぐ低身長の人よりも4500ドル多く税金を支払わなければならないのだ。
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多くの人はしかしながら、身長の高い納税者からより高い税金を徴収するというアイデアをすぐに受け入れることはない。事実、この提案を初めて聞いた際、ほとんどの人は尻ごみするか笑い飛ばすかのどちらかだ。そしてそうした反応こそまさに、政策をこれほどまでに興味深いものとしているものなのだ。身長への課税は、よく確立された実証的な規則と課税政策の最適設計についての標準的なアプローチに厳密に従っている。この結論が否定されるのであれば、前提を再検討する必要がある。

身長への課税のどこが間違いなのか

一つの可能性は、教科書的な効用主義モデルが課税政策を導入するに際して非常に重要となる、政治経済上の制約を省いてしまっているというものだ。例えば、政府にとって身長への課税は、個人の特徴にもとづく税金をより自然なものとすることで、政府による情報収集や個人別に政策を設計する範囲を危険にも広げてしまうことの「入り口」に潜在的になってしまうと恐れる人もいるかもしれない。しかし現代の課税制度は既に、子供の数や結婚状態、障害といった相当に個人情報であるものに基づいて条件設定されている。身長課税は質的には同じようなものであり、これが危険な下り坂への急降下の引き金となってしまうとは考えづらい。

第二の可能性は、効用主義モデルは水平的平等の役割一切を組み込んでいないというものだ。アラン J. アウエルバッハ及びケヴィン A. ハセット(1999)は、「(略)水平的平等、すなわち平等のものを平等に取り扱うということはあらゆる課税制度の大きな目標であるということについては、実質的に意見の一致をみている」と記している。背の高い人に対して、君は背が高いんだからもっと稼ぐためにより良い機会があったのだと言うことで、自分と同じだけ稼ぐ能力のある背の低い人よりも多くの税金を払わなければならないと説明するのは難しいことかもしれない。しかし水平的平等は効用理論において何ら独立の役割を持ってはいない。ヴィックリー=マーリーズのモデルのように能力が観察不可能である場合、水平的平等を守るということは能力に関係する外生的な個人の特徴についての情報を無視するということになる。しかしそうした情報は再分配をより効率的にするものだ。ルイス・カプロー (2001)は、恣意的に定義されたグループの中にいる個人の平等な取り扱いを守るために、なぜ社会が潜在的にその平均的な構成員にとって大きな利益となるものを犠牲としなければならないのだと強調している。

三つ目の可能性は、他の規範的な枠組みが効用主義モデルに取って代わる必要があるというものだ。例えばリバタリアンは、政策が正当化されるかどうかは、ただ個人の自由と権利のみによって決定されると強調している。彼らの見方によれば、個人の権利を侵害する政策による資源の移転は全て不当なものだとされる。著名なリバタリアンの経済学者であるミルトン・フリードマン(1962)は「私は自由主義者として、所得を再分配するためだけの累進課税について、なんらか正当化する理由があると考えるのは難しい。これは、ある人へ与えるのに他の人から取り上げるために強制力を用いるという明らかな事例だと思う(略)」と書いている。ただ、どうすれば最適課税理論を厳密なリバタリアンの考えによって再構築できるかは全く分からない。

したがってこれらの結果により、いくつかの結論が得られる。ひとつは明らかだ。身長への課税を否定する人は、最適課税と所得再分配についての標準的な効用主義アプローチも否定あるいは大きく修正しなければならない。こうした選択肢に直面した際、バラク・オバマと配管工のジョーが異なる選択をするだろうことは大いにありうることだと思われる。事実、先般の確定申告日(2009年4月15日)にオバマ大統領は聴衆に対して「そして私たちは上位2%の富裕者に対する減税措置を終わらせる必要があります。私をはじめとして類まれな幸運に恵まれた人々が、ビル・クリントンが大統領であった時期に上位2%の富裕層が支払っていたのと同じ率の税金を払うことになるように。」オバマ大統領は自分の背が73インチあることには触れなかった。

参考文献

●Akerlof, George, (1978). “The Economics of ‘Tagging’ as Applied to the Optimal Income Tax, Welfare Programs, and Manpower Planning,” American Economic Review, 68(1), March, pp. 8-19.
●Auerbach, Alan J. and Kevin A. Hassett, (2002). “A New Measure of Horizontal Equity,” American Economic Review 92(4), pp. 1116-1125, September.
●Case, Anne and Christina Paxson (2008). “Stature and Status: Height, Ability, and Labor Market Outcomes,” Journal of Political Economy, 116(3).
●Edgeworth, Francis Y., (1897). “The Pure Theory of Taxation,” Economic Journal 7, pp. 46-70, 226-238, and 550-571 (in three parts).
●Friedman, Milton (1962). Capitalism and Freedom. Chicago: University of Chicago Press.
●Kaplow, Louis, (2001). “Horizontal Equity: New Measures, Unclear Principles,” in Hassett, Kevin A. and R. Glenn Hubbard (eds.), Inequality and Tax Policy. Washington, D.C.: AEI Press
●Mankiw, N. Gregory and Matthew Weinzierl, (2009). “The Optimal Taxation of Height: A Case Study of utilitarian Income Redistribution,” Forthcoming, American Economic Journals: Economic Policy.
●Mirrlees, James A., (1971). “An Exploration in the Theory of Optimal Income Taxation,” Review of Economic Studies 38, 175-208.
●Vickrey, William S., (1945). “Measuring Marginal Utility by Reactions to Risk,” Econometrica 13, 319-333.

References

References
1 訳注;通例、Utilitarianは「功利主義」という訳語が用いられるが、本エントリでは「効用(Utlility)」の最大化という考えを直接的に想起させる訳語のほうが良いと考えたため、効用主義と訳した。
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