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メンジー・チン「大不況を古典派の枠組で解釈すると・・・」

Menzie Chinn “Interpreting the Great Recession in a Classical Framework“(Econbrowser, March 3, 2014)

総需要の落ち込みが原因ではないのであれば、総供給のシフトのせいだったのだろうか。以下では、チラシの裏にでも書くような計算でざっくりとした評価をしてみたい。

2008年の第4四半期、GDPは年率換算で8.9%下落し、2009年第1四半期にはさらに年率5.8%下落した。一つの解釈としては、総需要が下落したというものだ。そしてもう一つの解釈は供給が落ち込んだというもので、この見方においては総需要管理政策には何の効果もないどころか、生産の妨げとすらなる。こうした観点について、供給側からの見方が正しいとなるための条件を検討してみるのも面白いと思う。

まずは2008年のアメリカのGDPの展開を見てみよう。

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グラフ1:年率換算での対前四半期実質GDP成長(青)と潜在GDP(赤)。成長率は対数差分による計算。NBERの定義による不況期は灰色の影で示されている。点線は2009年第1四半期(復興・再投資法の可決)を示す。出典:経済分析局の2013年第4四半期の第二回目発表、議会予算局「予算と経済見通し(Budget and Economic Outlook)」2014年2月、NBER、及び著者の計算による。

2008年の最終四半期では、実質GDPは対前期比で年率換算8.9%下落していて、2009年1月末の推計の4.1%という当初予測よりもずっと急な下落だった。

ここで世界に対する先の2つの異なる見方を検討してみよう。まずは従来の総需要的な枠組だ(ブランシャール=ジョンソンを参照した)。

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図1:価格が粘着的な場合における負の総需要ショック。Ynは潜在GDP。

価格の上昇は、マネーサプライ一定の下、金利の上昇ひいては投資の下落(ないし消費の下落、ないしドルの上昇)を招くため、総需要曲線は右下がりだ。右下がりの総需要曲線はCC-LMモデルや、担保制約付きのモデルによっても理由づけられる1

例えば知覚純資産の減少、あるいは家計の流動性制約の高まりを招く信用制約の引き締めなどによって消費の減退が減退すると、総需要曲線は左方にシフトする。

その一方で、古典派的な総供給曲線(価格が完全に伸縮的なために垂直)の左方シフトを考えることもできる。

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図2:負の総供給ショック。Ynは潜在GDP。

上の二つの図は、両方のケースにおいて同じだけ産出が減るような形で書いてみた。一つのおもしろい違いは、総需要ショックの場合においては物価水準が低下(あるいは期待インフレを考慮する場合にはインフレ率が低下)するのに対し、供給ショックの場合においては物価水準は上昇するということだ。さて、実際のデータは何を示しているだろうか。

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グラフ2:対前四半期CPIインフレ率(青)、コアCPI2 インフレ(赤)、個人消費デフレータ(緑)、GDPデフレータ(黒)、全て年率換算。成長率は対数差分による計算。NBERの定義による不況期は灰色の影で示されている。点線は2009年第1四半期(復興・再投資法の可決)を示す。出典:経済分析局の2013年第4四半期の第二回目発表、Fed経済データ内の労働統計局データ、NBER、及び著者の計算による。

グラフ2の価格の時系列変化は、総供給よりも総需要的な解釈のほうと整合的だ。

古典派的な解釈の妥当性について検討するもう一つの方法は、次の式を考えてみることだ。

Yn = Φ F(K,N)

産出は供給によってのみ決定されるのであれば、産出の変化は全要素生産性(TFP;Φ)、資本ストック(K)、労働ストック(N)のいずれかの変化によるものでなければならないという事実を考える必要がある。それは(対数をとり、コブ・ダグラス型の生産関数を仮定した場合)次のようになる。

Δy = Δφ + σ Δ k + (1- σ) Δ n3

σは資本、(1-σ)は労働のそれぞれ所得分配率だ。2008年第3四半期から2009年第2四半期にかけての累積での産出低下は(対数を取ると)3.7%だ。Δy = 0.037とすれば、各項がどれだけ減少する必要があるのかを計算することができる。多要素生産性であれば3.7%、有効労働ストックであれば6.2%、資本ストックであれば9.3%の減少のいずれかとなる(全部の計算は労働分配率を0.6、資本分配率を0.4として行った)。

さて、(このエントリで議論した)ジョン・フェルナルドの利用度調整済み(utilization ajusted)全要素生産性をもちいると、生産性は対象の期間中に上昇しているようだ4 。利用度調整済み全要素生産性の動きはグラフ3に示してある。

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図3:対前四半期の年率換算実質GDP成長(青)、利用度調整済み全要素生産性の三か月中心化移動平均(ピンク)。NBERの定義による不況期は灰色の影で示されている。点線は2009年第1四半期(復興・再投資法の可決)を示す。出典:経済分析局の2013年第4四半期の第二回目発表、2014年3月3日時点でのFernald (2014)のデータ、NBER、及び著者の計算による。

全要素生産性成長の大きな下落は私には見て取れない。

資本ストックはどうだろうか。住宅資本ストックは、2007年末時点で民間固定資本全体の半分弱を占めていた。約20%くらいの住宅資本が2008年に全く無駄なものになったのだろうか。ありえなくはないが、手放しで受け入られるものでもない。

最後に労働ストックはどうだろうか。有効労働ストックを6.2%も減少させるほどに仕事と技術のミスマッチが上昇したということはありえるだろうか5 。ありえなくはないが、Ed Lazear and James Spletzer (2012)は、ほとんどの失業はそうした要因によるものではないと主張している。

しかし以上のことは、2008年から2009年にかけての産出の減少は全て需要の低下のせいだと意味するものとして受け取ってはいけない。Hamilton (1988)にあるように、いくらかは供給ショックのせいだった可能性はあると私は考えている。しかしながら、ほぼすべてが古典派が言うところの供給ショックだと主張するのは難しいと思う。そしてほぼすべてが古典派的な供給ショックであったということを疑わしく思うのであれば、古典派モデルの確率論的再解釈であるリアル・ビジネス・サイクルのアプローチについても疑いの目で見る必要がある(McGrattan and Prescott (2014)によるリアル・ビジネス・サイクルの強烈な擁護はここ)。ところで、独占的競争企業が一定のマークアップ率を価格に上乗せする経済において、石油価格によって物価水準が上昇する場合、AD-ASの枠組における短期の総供給曲線が上方シフトするということを受け入れるのに私はやぶさかではない6 。しかしこれは教科書的で、反景気循環的な財政政策が従来的な意味で機能する経済だ。

ところで、大不況は完全に供給側要因によるものであるという解釈を強く主張している人物が少なくとも一人はいる。ケイシー・マリガンだ(彼の解釈はここにある。ここの2008年の予測で、彼は核戦争でもない限り非農業部門就業者数が134百万人を切ることはないとしている[1]7 。)

もっと知りたい人は、ノア・スミスの最近の議論を見よ。

  1. 訳注;CCはCommodity-Credit(商品・信用)の略で、CC-LMはIS-LMのISにローンの需給の均衡を組み入れたもの。メンジー・チンの過去エントリで詳細に説明されている。要するにCC-LMと担保制約付きのモデルの双方ともに、大不況後特に注目されるようになった金融的制約を組み込んだマクロモデル。 []
  2. 日本で言うコアコア []
  3. 訳注;コブ・ダグラス型の生産関数がY=Φ・K^a・N^(1-σ)かつ0<σ<1であるため。 []
  4. 訳注;景気の波に応じて労働者をこき使う度合い(企業のブラック度合いと言うと分かりやすい?)や、資本の稼働率などが変わるので、それを調整しないと実際上の生産性には何ら変化がないのに見かけ上生産性が変化したように見えてしまうため、それを修正したもの。 []
  5. 訳注;今まで必要だった技術が突如としていらなくなり、失業が発生したという意。 []
  6. 訳注;定率のマークアップを前提にすると、独占的競争企業は石油価格の上昇分にマークアップ率をかけた分だけ価格を引き上げ、したがってAS曲線が上方シフトする。大不況はそうした石油価格の上昇に起因するAS曲線の上昇によって産出が減って起こったのだとする説も受け入れられなくはない、という意。 []
  7. 訳注;このリンク先にあるように、2010年には130百万を切った。 []

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