ラルス・クリステンセン 「アハメドの慧眼 ~現在のヨーロッパが置かれている状況は1930年代当時のヨーロッパが置かれていた状況に奇妙なほどよく似ている~」(2012年6月23日)

●Lars Christensen, “Liaquat Ahamed should write a book about Trichet, Draghi, Weidmann & Co.”(The Market Monetarist, June 23, 2012)


出色の一冊である‘Lords of Finance: The Bankers Who Broke the World’(邦訳『世界恐慌(上)・(下):経済を破綻させた4人の中央銀行総裁』)の著者であるライアカット・アハメド(Liaquat Ahamed)がフィナンシャル・タイムズ紙にユーロ危機に関する記事を寄稿しており、その中で今現在のヨーロッパ各国のセントラルバンカーの振る舞いと1930年代当時のセントラルバンカーの振る舞いの類似点に言及している。我々は1930年代当時とまったく同じような過ちを犯しつつある――特にヨーロッパにおいてそうだ――と私自身これまでに何度も指摘してきているが、アハメドも同意見というわけだ。

アハメドの言葉を聞こう。

今現在のヨーロッパが置かれている状況は1930年代にヨーロッパが置かれていた状況と奇妙なほどよく似ている。何とも皮肉なことだが、1930年代にドイツが置かれていた状況は今現在ヨーロッパ周辺国が置かれている状況とそっくりである。1930年代当時のドイツはヴェルサイユ条約によって課された賠償金のためもあって莫大な債務を抱え込んでおり、1920年代初頭のハイパーインフレーションの結果として銀行部門は過小資本の問題に苦しめられていた。海外からの借り入れに大きく依存している状態でもあった。厳格な固定為替相場制――金本位制――に自らを縛り付けることをよしとしてもいた。金本位制からの離脱を宣言しようものならマーケットからの信頼を大きく失うことになってしまうのでないかと恐れて金本位制からの離脱に踏み出せずにいたのである。そうこうしているうちに大恐慌が到来し、国際資本市場が実質的にその機能を停止することになる。ドイツは過酷な財政緊縮策に乗り出さざるを得なくなり、その結果として(ドイツ国内の)失業率は最終的に35%にまで達することになったのであった。

現在のヨーロッパにおいてと同様に、1930年代のヨーロッパでも経済が極めて好調な国が例外的に存在していた。その国とはフランスである。ヨーロッパの他の国々がもがき苦しんでいる一方で、当時のフランスの失業率は一桁台に過ぎなかった――現在のドイツと同じである――。当時のフランスは――現在のドイツと同じように――大規模な経常収支黒字を抱えており、ヨーロッパ経済の機関車役を務められるだけの能力を持ち合わせていた。しかしながら、フランスの政策当局者らはその役目を果たすことを拒み、緩和策の採用を渋ったのであった。それだけではなく、ドイツに対する貸付も拒んだ。ドイツに貸し付けたところで損の上塗りをするだけに終わるのではないかと恐れたのである。フランスのこのような行動の結果として西ヨーロッパの金融システムは瓦解への道を辿ることになったのであった。

まったくもってその通りだ。現在のPIIGS諸国 [1] 訳注;ポルトガル、アイルランド、イタリア、ギリシャ、スペインの五ヵ国は1930年代のドイツそっくりであり、現在のドイツは1930年代のフランス [2]訳注;リンク先ではダグラス・アーウィン(Douglas Irwin)の論文 “Did France cause the Great … Continue readingそっくりだというわけだ。ここで銘記しておくべきことがある。大恐慌が発生した当初のうちはフランスが被った損害はそれほど大したものではなかったものの、しばらくして1931年~32年に入るとフランスも大恐慌の波に巻き込まれることになったということである。ドイツのメルケル首相やヴァイドマン(ドイツ連邦銀行)総裁はこのことを教訓として覚えておくべきである。1930年代と似たような過ちが繰り返されつつあるにもかかわらず、政策当局者たちはそのことにまったく気付いていないようだ。何とも遺憾なことである。

アハメドは今日の金融界を牛耳る支配者たち(Lords of Finance)――ヨーロッパ経済の息の根を止めつつあるセントラルバンカーたち――をテーマにもう一冊書くべきなのかもしれない。
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私が1930年代の出来事をテーマに書いたエントリーの一覧をこちらにまとめてある。併せて参照してもらえたら幸いだ。

今週のお薦めの一冊:メールを確認していたら大変面白そうな本の情報が届いていた。その本とはトビアス・ストローマン(Tobias Straumann)執筆の“Fixed Ideas of Money”である。20世紀のヨーロッパで小国の数々が採用していた為替レートレジームがテーマとなっており、スカンジナビア諸国やベルギー、オランダ、スイスといったヨーロッパの小国がなぜ固定相場制に引き寄せられる傾向にあったのかについて論じられている。まだ途中までしか読んでいないが大変面白い。ヨーロッパを舞台とする貨幣の歴史の中から興味深いエピソードが数多く紹介されている。大変緻密に調査されており、著者のストローマンは1930年代のデンマークやベルギーの金融政策の実態をはじめとしてローカルな情報にも通じていることがわかる。

References

References
1 訳注;ポルトガル、アイルランド、イタリア、ギリシャ、スペインの五ヵ国
2 訳注;リンク先ではダグラス・アーウィン(Douglas Irwin)の論文 “Did France cause the Great Depression?”(pdf)の内容が紹介されている。この論文については本サイトでも訳出されている次の記事でその概要が紹介されている。併せて参照されたい。 ●ダグラス・アーウィン 「大恐慌の原因はフランスにもあり?」(2014年9月17日)
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