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失われたアインシュタイン達:イノベーションとの接触が発明家を生む

2017年12月24日 VoxEU原文

Alex Bell、ハーバード大学Ph.D候補

Raj Chetty、ハーバード大学経済教授

Xavier Jaravel、LSE経済准教授

Neviana Petkova、アメリカ財務省リサーチエコノミスト

John Van Reenen、MIT応用経済教授

 

概要:人を発明家にする要因についてはほとんど知られていない。合衆国での100万を超える発明家の生活についてのデータを利用して、このコラムではイノベーションを増やすのに最も効果的な政策について光をあてる。とりわけ、女性、少数派、そして低所得家族からの子供がイノベーションに触れる機会を増すことが、税率を下げるといった伝統的なアプローチよりもイノベーションを促進させるのにより大きなポテンシャルっを持っているかもしれないことを示す。

イノベーションは経済成長のエンジンであると広くみなされている (たとえばAghion and Howitt 1992、Romer 1990)。その結果、減税からSTEM(科学 Science、技術 Technology、エンジニアリング Engineering、そして数学 Mathematic)教育への投資までに渡る多くの政策がイノベーションを促進するために提案されてきた。残念ながら、そういった政策の実効性は不明確であった。人々を発明家にする要因について我々が大して知っていないからだ。アメリカで最も成功を収めた発明家はどういう人達で、イノベーションを活発にする政策を作る上で彼らの経験から何を学べるだろうか?

個人情報を削除した上で発明家たちの特許の記録を彼らの税と学区の記録にリンクさせた新しいデータベースを利用して、我々は合衆国の100万以上の発明家の生活について研究した(Bell et al. 2017)。そして誕生以来の各人を追うことで、誰が発明家になるのかを決定する鍵となる要因を特定した。発明家になるとは特許申請によって判定している1 。我々の研究はイノベーションの増加に最も効果的な政策は何かついて光を当てており、とくに、女性、少数派、そして低所得家族からの子供たちがイノベーションに触れる機会を増やす事が税率の引き下げといった伝統的なアプローチよりもイノベーションと成長の促進により効果があるかもしれない事を示している。

我々の分析から3つの主要なレッスンが得られた。

レッスン1:社会経済的階級、人種そして性別によりイノベーション率には大きな違いがある。

両親が所得分布のトップ1%にいる子供たちは、親が中位値以下の所得である子供たちよりも発明家になる可能性が10倍高い(図1)。人種や性別についても似たようなギャップがある。白人の子供は黒人の子供よりも発明家になる可能性が3倍高いし、女性は発明家のたった18%である。イノベーションについてのジェンダーギャップは時と共にゆっくりと縮まって来てはいるが、現在の速度では、性別の差が無くなるまで118年もかかることになる。

___________図1 特許率と両親の所得

幼少期でのテストスコアによって測られた能力の違いはこれらの違いをほとんど説明できない。3年生の算数のクラスでトップであった子供たちは発明家により成りやすいが、それも高所得の家族の子供だったならばである(図2)。低所得、あるいは少数派の家庭からの成績の良い子供たちは発明家になりそうにない。言い換えると、アメリカにおいて発明家になるのは2つの事に依存している:数学と科学に秀でている事、そして金持ちの家族を持つ事。

__図2 高・低所得両親からの子供達についての、特許率と3年生算数の関係

テストスコアによって説明されるイノベーションについてのギャップは高学年になると大きくなる。8年生までには、イノベーションについての所得階層間のギャップの半分はテストスコアの違いによって説明できるようになる。これは低所得階層の子供が時間と共に高所得階層の子供たちから遅れていくからで、おそらく彼らの学校と子供時代の環境の違いによるものだろう。次に我々は、どういった環境の要素がこの違いを生みだすのかの分析を行う。

レッスン2:イノベーションに触れる事は子供が発明家になる可能性を大きく高める。

子供たちは多くの発明家がいる地域で育つと、よって成長期においてイノベーションにより触れると、彼ら自身が発明家になる可能性が高くなる。また、(イノベーションとの)接触は子供が発明家に育つようになるかだけでなく、彼や彼女がどういったタイプの発明をなすかにも影響を与える。例えば、ボストンに住む人達の間でも、シリコンバレーで育った者たちは特にコンピュータについての特許を取る傾向があり、医療機器製造業者が多いミネアポリスで育った者たちには特に医療機器で特許を取る傾向がある。同様に、何かの分野(例えば増幅器)で親が特許をとっている子供たちは、関連している他の分野(例えばアンテナ)ではなくて、彼ら自身もまさにその同じ分野で特許をとる可能性がより高い。

_    _図3 発明家の出身地:成長期の居住地ごとの発明率

_注:色が濃いほど、より多くの子供達が発明家に育った。アメリカで人口当たり最も多くの発明家を輩出した5つの都市はハイライトされている。

接触は性別ごとに違った影響を持つ。女性は、なんらかの技術分野で活躍する女性発明家が多くいる地域で育つとその分野での発明をより行うようになる。男性発明家の近くで育つ事は女性がイノベーションを起こすかどうかに影響を及ぼさない。逆に、男性のイノベーション率は地域の女性発明家ではなく、男性発明家に影響を受ける。

我々の発見は、子供時代を良い近隣環境で過ごす事は子供の人生に良い結果をもたらすという最近の証拠と整合的だ。近隣環境の効果はたいてい、学校の質や居住地の隔離といった要因に帰される。近隣効果や学校といったものが子供たちに増幅器といった何か一つの分野のイノベーションへだけ子供を準備させるというのはありそうにないので、この接触による効果はメンターによるものや、情報の伝達、そしてネットワークによって起こっているというのがよりありそうだ。

低所得家族からの子供達、少数派、そして女性は家族や近隣によってそういった接触の機会を与えられにくい事が、彼らのイノベーションを起こす率が特に低い事の説明を助けている。たとえば我々の推計によると、少年たちが男性発明家に触れるのと同じくらい少女たちが女性発明家に触れていたら、イノベーションにおけるジェンダーギャップは半分に低下する。

子供たちの人生の針を先へ進めよう。我々は大学ごとにイノベーション率は大きく違っている事を発見した。しかし、もっともイノベーティブな大学(たとえばMIT)の低所得と高所得の家族からの生徒は比較的同じような率で特許を取っている。この発見は、労働市場に入る前の子供たちに影響を与える要因、たとえば幼少期の環境だとかイノベーションに触れたかどうかといったものが、我々の見出したイノベーションにおけるギャップの大半を生み出しているという見解を強化する2

レッスン3 スター発明家が年に100万ドル以上を稼ぐ事は、金銭的インセンティブを更に増やしたり減税したりするのはイノベーションにとって大した効果を持たない事を示唆している。

平均的な特許保有者は彼なり彼女なりの40代半ばにおいて、約25万6000ドルを稼いでいる。しかしもっとも大きな科学的インパクトのある発見を成した人達、つまりもっともよく引用された特許を生み出した人達などは、平均して年に100万ドル以上を稼いでいる(図4)。科学の発展は主に、市場がその仕事を大きく報いている少数のスター発明家によって成されている。

_          _図4 科学的インパクト毎の年収

女性、少数派、そして低所得家庭出身者の割合は、発明家全体の中でと同様に、スター発明家達の中でも人口比率以下となっている。こういったグループ間でイノベーションの能力は大きく違わないという我々の発見からすると、この結果は「失われたアインシュタインたち」、もし発明家となっていたなら大きなインパクトをもつ発明を成していたであろう人々、がそういった人口比率以下の集団に多くいる事を意味している。

こういった発見は、金銭的インセンティブの変化(たとえば減税)はイノベーションを増加させるのに、2つの理由によって限定的な効果しかない事を示唆している。第一に、インセンティブの変化はイノベーションに触れた人達のうちの小さな部分に影響するだけでしかない。第二に、そういった政策は経済成長にとってもっとも重要なスター発明家たちの判断に影響を与える事はなさそうだからだ。スター発明家たち、典型的に年に100万ドル以上を稼ぐ人達は、一年に100万ドルではなく95万ドルを稼ぐ様になったとしても、彼らはその分野でハッピーに仕事をしていく事だろう3 。しかし、こういった予想の実証的なテストはこれからである事、そして税は他のチャンネルを通じて、例えば企業やその他の労働者の行動を変える事などで、経済成長に潜在的に影響を与えるかもしれない事は述べておく。

政策的含意

女性、少数派、そして低所得家庭の子供たちが高所得(トップ20%)の家族からの白人男性と同率で発明を行っていれば、アメリカでのイノベーション率は4倍になる。よって我々の発見は、そういった集団の過小利用された才能を、彼らをイノベーションとより接触させる事で活用する政策の重要性を強調している。そういった政策は、メンタープログラムから、インターンシップ、ソーシャルネットワークを通じての介入までありえるだろう。我々の分析はどのプログラムがもっとも効果的かを教えてはくれないが、狙うべき方向についてのガイダンスは与えてくれる。発明家になる比率が低い集団からの数学や科学に秀でた子供たちに早い段階でイノベーションに触れさせる事を狙ったプログラムはそのインパクトを最大化しそうである。さらに、参加者のバックグラウンドに合わせてプログラムを調整するのは大切だろう。たとえば、女性は男性発明家よりも女性の方により影響されるわけなのだから。

さらに広く言って、我々の結果は、恵まれない子供たちへの機会を改善する事は集団間の違いを減らす事だけでなく、よりイノベーションと経済成長を促進する点で価値があることを示唆している (Aghion et al. 2017)。

参照文献

Aghion, P, U Akcigit, A Hyytinen and O Toivanen (2017), “The Social Origins of Inventors” Centre for Economic Performance Discussion Paper 1522 (see also the Vox column here).

Aghion, P and P Howitt (1992), “A Model of growth through Creative Destruction” Econometrica60(2): 323-351

Bell, A, R Chetty, X Jaravel, N Pektova and J Van Reenen (2017), “Who Becomes an Inventor in America? The Importance of Exposure to Innovation”, The Equality of Opportunity Project.

Romer, P (1990), “Endogenous Technological Change”, Journal of Political Economy 98(5): S71-S102.

  1. 全ての特許が意味ある新しい発明なわけではない。しかし、将来引用されるかどうかに基づいて最も意義ある科学的なインパクトをもった特許だけに絞っても、以下の結果と同様のものを得る。 []
  2. この結果はまた、資金へのアクセスの欠如なりリスク回避なりが低所得の学生達をイノベーションの追求から遠ざけているという仮説への反論ともなっている。そういった要素は同じ大学に通っている学生の間でもイノベーションギャップを発生させるだろうからだ。 []
  3. イノベーションを追求するかどうかを決める時点でスターになれるかどうか自信がない人にも、税の変更は大きな影響を持つ事は無さそうだ。イノベーションからの利得は宝くじに似ている。大抵の場合、人は勝てない(この場合、税率は問題にならない)が、たまに大当たりして何百万ドルを稼ぐ(この場合、少しばかり利得が小さくてもくじを買う意欲を大して減らさない)。 []

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