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欧州におけるポピュリズムと信頼

From VoxEU  2017年8月23日

Christian Dustmann、University College London (UCL) 経済学教授

Barry Eichengreen、カリフォルニア大学バークレイ校経済学・政治学教授

Sebastian Otten、UCL シニアリサーチオフィサー

André Sapir、ブリュッセル自由大学教授

Guido Tabellini、ボッコーニ大学経済学教授

Gylfi Zoega、アイスランド大学経済学教授

概要: 近年、既成の政治制度や政党への信頼の低下とポピュリスト運動やその政策への支持の増加が見られるようになった。それも欧州連合への懐疑や、一部でのあからさまな敵意が見られる欧州だけに限られたものではない。このコラムはCEPRのMonitoring International Integration series (国際統合の観測シリーズ)の最初のレポートである。これは各国内と欧州全体の政治制度両方における信頼の低下の根源を分析し、その展開の結果としてEUが危機にあるのかを問うものである。

近年、先進国全体でポピュリスト政党や政策への支持の上昇が見られるようになった。反エリート感情、ナショナリズム、グローバライゼーションへの反対、超国家的制度への懐疑などが、第二次世界大戦後に出来上がってきた国際的経済秩序に挑戦している。欧州連合に対する態度においても、同様の懐疑、そして一部では公然とした敵意が明らかに存在している。これはEUが解体の危機にさらされている事を意味するのだろうか?

ポピュリズムの盛り上がりはいくつかの要因に帰されてきた。国際貿易の所得分配への影響(たとえばColantone and Stanig 2016、Dippel et al. 2015)から、金融危機のインパクトが政府や国際的な制度への信頼を低下させた事(Funke et al. 2016)、そして移民の増加の自国民への影響(たとえばDustmann et al. 2005)など。

CEPRのMonitoring International Integration seriesの最初の報告、Europe’s Trust Deficit: Causes and Remediesにおいて、われわれはポピュリスト政治の盛り上がりに反映している国内および欧州の政治制度両方への信頼の低下の根源を分析している。

Europe’s Trust Deficit: Causes and Remediesここからダウンロード

Vox Talk interviewでのこの報告についての

Christian Dustmann と Barry Eichengreen の討論は

ここで聴取可

ポピュリズムと国内と欧州の制度への信頼

われわれはまず、国内と欧州の政治制度への信頼の欠如がポピュリズムを特徴づける要素である事をしめす。EU15カ国の2002年から2014-15年にかけてのEuropean Social Survey (ESS)からのデータを利用した。ポピュリスト政党(右であれ左であれ)に投票する人達は、このデータが示唆するところによると、国内や欧州の議会への信頼が低く、欧州統合に反対している。これは、年度や国の(固定)効果に加えて、この人達の年齢、性別、教育程度などをコントロールした後でも明白である。図1の左上のパネルの中の各ドットは、年齢、性別、そして教育レベルを固定し、時間と国の違いをコントロールした後での、国内の議会への信頼のレベルごとの先の一般選挙でポピュリスト政党へ投票する平均確率を示しています。図からこの傾向は明らかです。

 

図1 ポピュリスト政党への投票と国内と欧州制度への信頼の間の相関

注:この図はビンの散布図とOLS回帰による線形回帰ラインを示している。それぞれのパネルの縦軸はポピュリスト政党への投票の可能性を表している。横軸はそれぞれの対象への態度の変数の値を示している。それぞれの点は、各ビンごとのx軸とy軸変数の平均を示している。ビンの計算では、x軸の変数を同サイズの20のグループへ分割している。
ソース:European Social Survey (ESS)に基づいた我々の計算。

 

信頼と反EU票の地域と時間的傾向

近年、なぜ欧州と国内の政治的制度への信頼が低下し、投票者は反EU政党へと向かったのか?この疑問に答える為に、我々は有権者の態度や選挙結果における地域的そして時間の変化を利用した。

このESSから、国内と欧州の政治制度に対する態度の地域ごとの平均を出した。図2は、2014/15年の欧州各地域での国内議会への信頼に対する欧州議会への信頼の比率を表している。緑(赤)色は国内の議会よりも欧州議会への信頼の方が高い(低い)ことを表している。2014-2015年調査のESSではイタリアとギリシャのデータが欠けているが、それ以前の調査での両国のデータでは、両国とも濃い緑となっている。つまり、国内の議会よりも欧州議会の方をより信頼している事をしめしている。欧州北部の人々は、欧州議会よりも国内の議会の方をより信頼しているが、地中海諸国ではその逆になっている。(面白いことに、スコットランドでも逆になっている。)このパターンは、自国の政治制度の質についての認識のデータと整合的である。そのデータでは、欧州南部で低くなっている。つまり、国内の政治制度への信頼はそれが機能していないと認識されている地域で低くなっている。

このパターンはその下部にある制度ごとの信頼の分布を隠してしまっているし、またこれは人によっても変化する。その詳細を調べると、ドイツ人は欧州議会をとても信頼する傾向がある事がわかる。そして自国の議会を更に信頼していることが。政治制度への信頼が高いスカンジナビア諸国についても同じことが言える。英国は、自国の議会を信用しているのに、大半の他国よりも欧州議会を信頼していない点でアウトライアーとなっている。

 

図2 2014年/15年の欧州における地域統計分類単位ごとの信頼比率

注:信頼比率は、国内議会への信頼に対する欧州議会への信頼の比率。ソース:European Social Survey (ESS)、wave 7に基づく我々自身の計算。

 

異なるEU加盟諸国ごとの反EU政党の得票シェアの傾向を調べる為に、Chapel Hill Experts Survery (CHES)1 の反EU政党の分類を元に、1999年と2014年の間での欧州議会の選挙での各地ごとの反EU政党への得票シェアを作成した。図3は各国とEU全体での平均投票シェアを表している。反EU政党は2014年、ほとんどの国で得票を伸ばした。しかし、50%の閾値を超えたのは英国とイタリアにおいてだけで、EU全体としては2014年にようやく30%まで上昇したに過ぎない。2009年と2014年の間の変化はイタリアにおいて最も大きかった。

反EU政党の投票シェアの上昇は、政党間で投票のパターンが変化したからでも、かつては親EUだった政党が反EUになるといったような政党の政治綱領の変化のせいでもありえる。データが示唆しているのは、変わったのは政党ではなく、有権者だということだ。ほとんどの国において、主要な政党の立ち位置は目につくほど反EU化してはいない。

 

図3 欧州議会選挙での反EU政党の得票シェア

ソース: European Election Database (EED)とChapel Hill Expert Survey (CHES)に基づいた我々の計算

 

不信と反EUの感情はどこから来ているのか?

この質問に答える為に、われわれはまず個人についてのサーベイデータを調べてみた。われわれの主要な発見は、高齢者のコーホートと教育水準の低い人達が国内の議会と欧州議会への信頼がより低く、EUへの支持もより低く、そしてポピュリスト政党への投票の傾向がより強い、というものだ。高齢者が親EUではない事はあまり知られていない事実である。その逆に、時折、若い人達は第二次世界大戦の記憶が薄いのでEUの事を受け入れていないと主張される。しかし実際にはその逆が真である。この観察結果は、欧州の未来にとっては勇気づけられるものだ。時間が経つとともに、より高齢でより欧州懐疑的なコーホートが、より若くてより親欧州なコーホートに置き換えられていくのだから。勿論、データの中のパターンは、特定の誕生年コーホートを反映したもので、一般的な加齢の効果ではないと仮定してだが。

傾向と選挙結果の地域ごとの平均に目を向けて、我々はそれらと失業率や一人当たりGDPといったマクロ経済的結果との相関を調べてみた。経済状態が悪化すると、議会への信頼が低下する。これは欧州議会よりも国内の議会の方により顕著に出る。しかし、たしかに負のマクロ経済的ショックは国内の議会への信頼についての観察された低下の大きな部分を説明するものの、反EU政党の選挙での成功の近年の変化についてはずっと小さい部分しか説明しない。この負のマクロ経済的ショックの選挙への効果は欧州南部でより強い。とくに、最近の金融危機以降において。

さらに、より専制的なり伝統的な文化の特徴は政治的制度への信頼についてのマクロ経済の悪化の負の効果を増幅させる。また一方、よりリベラルで近代的な文化の特徴がある地域では、信頼はマクロ経済の状況について過敏さの程度は下がる。

政策への含意

こういった発見は、EU解体への現実の危機が今あることを示唆していない。示唆しているのは、英国はアウトライアーだということだ。金融危機は害をもたらしたが、しかしEUへの態度についての負のマクロ経済ショックの影響は非常に大きいというわけではない。そして、経済状況が回復しつつあるなか、歴史がガイドとなるのならば、態度や選挙結果はEUに対してより好意的になっていくだろう。我々はすでに、フランスやオランダでの最近の選挙においてこれを示唆する結果を目にするようになっている。

ではあるが、慎重にあるべき理由もある。Brexitの国民投票の結果に関係のあった社会経済的要因の多くは、その他のEU諸国にもまた見られる。とりわけ、その他のEU加盟諸国の市民たちもまた、その未来について楽観的なものたちと悲観的なものたちに、そして変化とグローバライゼーションを受け入れるものたちとそれらを恐れるものたちに別れているのだから。

欧州統合への支持が維持されるのには、EUと国内政治システムはその社会が直面している不安と、とりわけ高齢者達、つまり経済成長の成果を享受しているとは感じておらず、技術的変化とグローバライゼーションによって取り残されている感じている人達の持つ不満へ効果的な対応をしなければならない。成長と雇用を促進、そしてグローバライゼーションと技術によって害をうける人達へのより良い保護が優先事項となるべきだ。欧州のレベルでの制度の透明性とアカウンタビリティの向上は明らかに必要である。国内とEUの高官はこういった理想にリップ・サービスはしてきたが、中身のある行動はほとんど取られてこなかった。経済状況の改善とポピュリストの退潮が必然であると見なされるべきではない。

参照文献

Colantone, I and P Stanig (2016), “Global Competition and Brexit”, BAFFI CAREFIN Centre Research Paper No. 2016-44, Bocconi University.

Dippel, C, R Gold and S Heblich (2015), “Globalization and its (dis-) content: Trade shocks and voting behaviour”, NBER Working Paper No. 21812.

Dustmann, C, B Eichengreen, S Otten, A Sapir, G Tabellini and G Zoega (2017), Europe’s Trust Deficit: Causes and Remedies, Monitoring International Integration 1, CEPR Press.

Dustmann, C, F Fabbri and I Preston (2005), “The Impact of Immigration on the British Labour Market”, The Economic Journal 115(507): F324-F341.

M, M Schularick and C Trebesch (2016), “Going to the extremes: Politics after financial crises, 1870-2014”, European Economic Review 88: 227-260.

Inglehart, R and P Norris (2016), “Trump, Brexit, and the Rise of Populism: Economic Have-Nots and Cultural Backlash”, HKS Working Paper No. RWP16-026

  1. Chapel Hill Expert Survery (CHES)についての詳しい説明については、 http://chesdata.eu を参照 []

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