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消えた成長の謎:あるいは如何に帰属と創造的破壊がTFPに影響するか

訳者: 帰属計算というと、普通はGDPの計算で市場取引されていない財・サービスの価値の計算方法のことかと思いますが(よく例として出されるのが、持ち家の住居サービスの価値の計算)、このコラムでは名目値を実質値とインフレ率に変換する際の、新製品の影響の計算方法の事を指しています。

 

消えた成長:帰属と創造的破壊がいかにTFPの計測に影響を与えるか

From VoxEU

2017年8月16日

Philippe Aghion, ハーヴァード大学経済学教授、CEPRリサーチフェロー

Antonin Bergeaud, パリ経済学校博士課程学生、フランス銀行

Timo Boppart, ストックホルム大学IIES助教授

Peter Klenow, スタンフォード大学経済政策教授

Huiyu Li、サンフランシスコ連邦準備銀行

概要:全要素生産性の成長率が低下していることから、世界はイノベーションのアイデアに枯渇しつつあるのだと主張する人達がいます。このコラムは算出が計測される方法がこれを判断する上での核心であると主張し、産出計測バイアスにおける帰属の役割を定量化します。「新しい」ものと既存の製品を区別することで、合衆国経済の消えた成長を見つけ出すことが出来ました。この消えていた成長を考慮することで、統計当局はその手法を向上し、新しいアイデアの登場をより容易に認識することが出来ますし、またこれは最適成長とインフレターゲット政策についての含意を持ちます。

Robert Gordon (2012)が、偉大なるイノベーションの時代は既に過ぎてしまい、イノベーションプロセスは収穫逓減の時期に入っている、全要素生産性(TFP)の成長率は不可逆な低下を迎えていると主張しています。我々の経済の未来はほんとうに長期的停滞(secular stagnation)に支配されてしまうのでしょうか?そして、計測されている生産性成長率の最近の低下の背後には何があるのでしょう?

この問題から、実質生産がどう計測されるのか、そしてこの低下は実質生産がより定量化しづらくなってきている事の単なる人工的なものでしかないのではないのかという、より一般的な疑問が出てきます。実際のところ、名目生産を確認するのは比較的簡単です。しかし名目生産の成長は実質とインフレの要素に分割しなければなりません。その為、生産性成長についてのバイアスとインフレ計測のバイアスは同じコインの両面なわけです。1996年の昔、ボスキン委員会(Boskin Commission)が合衆国労働省労働統計局の消費者物価指数(CPI)計算時の新製品の扱い方に潜在的なバイアスがあることについての認識を高めました。とりわけ委員会は、労働統計局が同じ生産者からの製品にモデルチェンジが起こった場合(たとえば、車の継続的なモデルチェンジのような)と、完全に新しい製品が登場した場合について正しく取り扱えているのかについてを問題にしました。

最近の論文において、我々は新しい製品と、そしてまたより重要なことですが、創造的破壊に晒された製品(Aghiton et al. 2017)を取り扱う方法について提案しました。そうすることでわれわれは、労働統計局や他の殆どのOECD諸国が利用している帰属計算の方法に関して、これまで見過ごされていた更なるバイアスの原因に光をあて、その定量化を行いました。創造的破壊は、製品が新しい生産者が売るより良い製品によって立ち位置を奪われて市場から退場する事を意味しています。そういう強制退場は合衆国においては比較的よくあることです1)  。そういう場合の通常の方法は、品質調整済みのインフレ率は統計当局が時間を通して追跡できる同じカテゴリーの中の他の財、つまり創造的破壊に晒されていない財と同じであると仮定することです。しかし、創造的破壊は、新しい財が品質調整してより低い価格だから市場に参入してきた事を意味します。我々の研究は創造的破壊の場合における合衆国の生産性成長の計測での帰属への依存から生じるバイアスを定量化しようとするものです。

そういった消えた成長を特定するために、既存と新規のイノベーションの両方から成長が起こるという理論的フレームワークをわれわれは開発しました。我々のモデルは、統計当局が創造的破壊が起こった際に帰属の計算を使ったならばどれだけのTFPの成長が消えてしまうのかをはっきりと表します。消えた成長は、創造的破壊を他のタイプのイノベーション(既存の生産者がその製品の改善を行った時のような)と比べた場合のその頻度と品質向上の規模の関数です。もし、品質調整済みインフレ率は創造的に破壊された製品と破壊されなかった既存の製品で同じと統計当局が仮定するのが正しいならば、破壊されなかった既存の製品の市場シェアは時間がたっても不変であるはずです。そうではなくてそういった既存の製品の市場シェアが時間が経つにつれてシステマチックに減少していくなら、破壊されなかった製品集合は創造的に破壊された製品よりも平均的に高いインフレ率を持っているはずです。製品間での代替弾力性が与えられたとして、破壊されなかった製品のマーケットシェアがより小さくなればなる程、消えた成長率はより大きい事になります。

我々はこのフレームワークを過去30年の合衆国経済における消えた成長を定量化するために合衆国国勢調査からの非農業部門の事業所レベル雇用データに適用しました。その結果が図1です。破壊されなかった既存製品であるかは破壊されなかった工場によって判断しました。

_____________a図1 消えた成長率と真の成長率の推定

1983年から2013年にかけての消えた成長率は年率平均で0.62%と推計しました。このバイアスにおいて明白なタイムトレンドは見られません。図1では、BLSの測定する生産性成長推計を我々の消えた成長の推定に足して「真の成長率」をだしています2 。平均して、消えた成長は真の成長の約4分の1ほどになります。さらに、消えた成長はこの期間でほぼ一定ですから、TFP成長率はこれでもまだ近年において低下しているようであります。われわれの市場シェアの手法をつかって、セクターごとの消えた成長も確認できます。その結果は、集計された消えた成長の大半は、小売りやサービス産業(たとえばヘルスケアのような)からのものであって、製造業からではないことを示しています。

われわれの結果の独立したチェックとして、Garcia-Macia et al. (2016)による様々なタイプのイノベーションの到着率とステップサイズの推定するためのアルゴリズムに基づいた第二の定量化も行ってみました。アルゴリズムは企業レベルでの雇用の創出と破壊のモーメントにマッチしています。われわれはこの推定を2つの期間、1976年から1986年と、2003年から2013年について行ってみました。そうして、消えた成長の定量化のために、到着率とステップサイズの推計を我々の説明フレームワークの中で利用してみました。この手法はわれわれの最初のアプローチほど直感的ではありませんが、しかしこれによりバイアスを創造的破壊からのものと製品のバラエティが拡大したことによるものに分解することができます。

この第二の手法を使って、図2に表されている2つの結果を得ました。まず第一に、消えた成長は前の(市場シェア)アプローチを使って得たものと劇的に違っていたりはしません:1983年―1986年の期間は年0.52% (対して 0.46%)、そして2003年―2013年の期間は0.42%(対して0.76%)。第二に、消えた成長の第一の要因は明らかに創造的破壊によるものです:1976年-1986年の期間、創造的破壊からによるものが年率0.41%(対して全体で0.52%)、2003年―2013年の期間に、創造的破壊からのものが年率0.33%(対して全体で0.42%)。

________図2 消えた成長とその源泉

消えた成長率について明白なタイムトレンドは発見できませんでしたので、我々が定量化したバイアスは公式に測定されている生産性成長率の低下を説明できません。ならば、年率0.5%でかなり一定の消えた成長率にどんな意味があるんでしょうか?われわれの主要な発見には、いくつかの実際的な含意があるのです。まず、これは統計当局がその手法を改善する方法を示しています。第二に、消えた成長を考慮すると、アイデアの計測は公式統計が示唆するほど難しくはなくなります。これには、アイデアの生産や将来の成長、および最適成長政策についての含意があります。第三に、合衆国の連銀は品質調整した価格安定の実現に近づくために、インフレターゲットを上方向に調整することを考えるのではないでしょうか。第四に、ボスキン委員会が強調したように、合衆国の税制と社会保障の支払いは公式に計測されたインフレ率に応じてスライドするようになっているので、もし公式インフレ率が年率0.5%低くなったなら、それらの推移は違ったものになります。

最後に、年0.5%は小さなものに見えるでしょうが、30年もかければその集積で親の世代よりも良い人生を送れる子供の比率がずっと高くなることを意味するのです(Chetty et al. 2017)。

著者注:ここで表明されている見解は連邦準備制度理事会サンフランシスコ連邦準備銀行の見解というわけではありません。すべての結果について合衆国国勢調査局や合衆国労働統計局から秘密の情報が漏れていない事が確認されています。

参照文献

Aghion, P, A Bergeaud, T Boppart, P J Klenow, and H Li (2017), “Missing Growth from Creative Destruction”, unpublished paper.

Boskin, M, R J Gordon, E Dullberger, Z Grilliches, and D Jorgenson (1996), “Toward a More Accurate Measure of the Cost of Living”, Final Report of the Senate Finance Committee from the Advisory Commission to Study the Consumer Price Index.

Chetty, R, D Grusky, M Hell, N Hendren, R Manduca, and J Narang (2017), “The Fading American Dream: Trends in Absolute Income Mobility since 1940”, Science, 356 (6336), 398-406.

Garcia-Macia, D, C-T Hsieh, and P J Klenow (2016), “How Destructive is Innovation?”, NBER Working Papers 22953.

Gordon, R J (2012), “Is U.S. Economic Growth Over? Faltering Innovation Confronts the Six Headwinds”, NBER Working Papers 18315.

Klenow, P J, and O Kryvtsov (2008), “State-dependent or Time-dependent Pricing: Does it Matter for Recent U.S. Inflation?”, Quarterly Journal of Economics, 123 (3), 863-904.

  1. 製品の年間退場率は1988年から2004年のCPIで22.5%でした(Klenow and Kryvtsov (2008 []
  2. BLSの労働増大単位であらわされた多要素生産性に、R&Dと知的財の貢献の推計を加減してこの推計された系列を得ている。訳注:これの原文、いまいちよく分かりませんでした。We take the BLS multifactor productivity growth expressed in labor-augmenting units and add back their estimate of the contribution of R&D and intellectual property to arrive at the measured series. []

Comments

  1. yamagata hiroo says:

    おもしろい一方で、「あんたの生活水準は実は高くて、統計的にそれが捕捉されていなかっただけです」というのを生活水準の低い人に言っても意味あるのか、という気もしますね、この種の話は。

    • okemos_PES says:

      確かに僕も、「あんたの生活水準、実は0.5%高かったんだよ!」とか言われてもダイレクトには、はぁ?って感じになるでしょうが、まあそれが学問ではあるでしょうし、あと著者たちが最後に色々書いているように財政上なり金融政策上の意味は意味はあるとは思います。

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