アレックス・タバロック「疲労困憊した医師は間違いをおかしやすく患者の害になる」

[Alex Tabarrok, “Fatigued Physicians Make Mistakes and Harm Patients,” Marginal Revolution, March 12, 2017]

疲れ果てた状態で車を運転すると事故をおこす.この当たり前の事実への対応策として,バスやタクシーの運転手は8時間連続して休憩をとったあとで最大10時間までしか運転できないように制限されている.ところが,内科医の場合,現行の基準はこれより大幅にゆるい.1年目の研修医の交代勤務時間はなんと16時間だ.これだけでもすでにどうかしてる.ぼくは午後 7:20から10時の夜学クラスをよく教えている.いつも,むずかしい題材は早めの時間に教えるように心がけている.なにしろ,9時ごろになると,もう調子がすっかり落ちてしまっているからだ.言うまでもなく,教師よりも研修医たちにかかるストレスの方がはるかに大きいし,疲労も大きい.さらに,1年目の研修医たちが働けるのは16時間までだけれど,2年目になると連続24時間ずっと働けるどころか,最大30時間まで働けるようになっている.睡眠をとらずにまともに稼働できる秘訣を1年の研修で内科医たちに教えられるんだとしたら,すごくない?

ぼくにはばかみたいに低く思える現行の基準は,2003年と2011年につくられた制限によるものだ――そして,いまこの制限は解除されようとしている.新しいプランでは,1年目の研修医はもっと長時間働けるようになる

この夏に実施されることになっている新しい勤務制限のもとでは,新人医師たちが24時間連続で勤務できる――新プランを支持する人たちは「これで訓練が強化される」と言う一方で,反対派は逆効果だと主張する.

アメリカの医大卒業生に対する勤務基準を策定したシカゴに拠点をおくグループは,1年目の研修医の16時間制限を撤廃するのに投票している.金曜に,米国卒後医学教育認定評議会は,新人医師の勤務時間制限延長(上級の研修医たちと同じ最長勤務時間にすること)を含む改正の一環として今回の案を発表した.

新しい規制のもとでも,あらゆるレベルの研修医を対象とする週80時間の制限は維持される.

これまでのさまざまな研究から,医師たちの勤務時間が長くなればなるほど帰宅中自動車事故を起こしやすくなることがわかっている.また,内科医や看護師たちの勤務時間が長くなるほど,医療過誤も起きやすくなる

長時間勤務を支持する主張の主な論拠は,2003年と2011年の制限は患者の安全大して改善しないように見えるというものだ.これにはびっくりだ.疲労により過誤は増えるというミクロ水準の実証的な証拠はとても強固なのだから,ここで引き出すべき教訓は「勤務時間を増やしても過誤にはつながらない」というものではない――教訓とすべきは,「制限が日常的に無視されている」(全米科学アカデミーの研究が示すように)か,「統計や実験の設計になんらかの理由があってこれまでの研究に誤りがあった」か,「現行制度には検討すべき制約が他にある」のいずれかだ.検討すべき他の制約の候補としては,内科医どうしの患者の引き継ぎがうまく行われていないことが考えうる〔同じ医者が24時間ずっと勤務するならその間の引き継ぎはいらないけど,勤務時間が短く制限されれば引き継ぎの回数は増える〕.でも,だとしたら,疲労のせいで死んでいるのと同じくらいたくさんの患者がずさんな引き継ぎによって死んでいることになるよね.

医療ほど過誤が許容されている分野は他にない.どうして行政の規制は医療の勤務時間よりも運転の勤務時間の方を強く規制しているんだろう? これは,行政だけの問題じゃない.マクドナルドのせいで肥満になってしまったと言って裁判がおこされる社会で,研修医にはバカみたいに長い勤務時間が許容されている不法行為制度が止められていないなんて,あぜんとする(これまで数例ある).医療は,なんとも奇妙な分野だ(ロビン・ハンソンを参照されたい).

ハンソン型の要因は脇に置くとして,ここで起きている事態を説明する主要な要因は,病院にとって研修医たちは巨大な利益の源泉だという点だ.学生アスリートと同じく,研修医も薄給だ.その結果として,できるだけたくさん研修医を使おうとしたがる.そこで,病院は勤務時間制限の延長を求めるロビー活動に出る.患者の安全を犠牲にしてでもだ.

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