アレックス・タバロック 「路上における自生的秩序」(2010年8月11日)

●Alex Tabarrok, “Spontaneous order on the road”(Marginal Revolution, August 11, 2010) [1]訳注;最後の画像は、次のブログエントリーから転載したものであることを断わっておく。 ●Aaron Naparstek, “Hans Monderman, Engineer of Livable Streets, … Continue reading


まずは、こちらの映像をご覧いただきたい。イギリスのとある小さな町で行われた実験の様子が収められているが、路上にある信号機の電源をすべて切ったところ、混乱がもたらされた・・・わけではなく、秩序が保たれたのだった。

こういった実験は、例がないわけではない。数年前になるが、トム・ヴァンダービルト(Tom Vanderbilt)が、交通技術者であるハンス・モンダーマン(Hans Monderman)――都市中心部にある道路の設計に数々の革新をもたらした人物――の画期的な試みについて、ウィルソン・クォータリー誌に大変素晴らしい記事を寄稿している(モンダーマンによる画期的な試みについては、ニューヨーク・タイムズ紙のこちらの記事もあわせて参照されたい) [2] … Continue reading

ドラフテン(オランダにある村)の中心部にあるラワイ広場は、自動車や自転車、歩行者の往来が激しい十字路だった。ラワイ広場の新たな設計を任されたモンダーマンは、道路上にあるありとあらゆるものを撤去するという大胆な決断を下した。ラバーポール、信号、「交通島」、標識、路面表示で埋め尽くされていた空間を、物珍しいロータリー(円形交差点 roundabout)に作り替えたのだ――モンダーマン本人は、「広場型交差点」(“squareabout”)と呼んでいる。よくある円形交差点に比べると、広場(town square)に似ているからだ――。ロータリーの中心にはちっぽけな円形の緑地が設けられ、道路の脇には噴水がいくつか据え付けられている。そして、道路には――法律上やむを得ず――進行方向を示す矢印が目立たないかたちでひっそりと描かれているだけだ。

自動車やバイクが速度を落としてロータリーの中心に向けて進入する際に演じられる一種のバレエ劇に見入っていると――歩行者はその輪の中にはいない。横断歩道は、交差点の少し手前に設けられているからだ――、私の隣にいたモンダーマンが得意の「マジック」を披露してみせた。ロータリーの中心に向けて歩き出したのである。それも、目をつぶって後ろ歩きで。車は、彼の脇を徐行して通り過ぎる。誰もクラクションを鳴らさない。モンダーマンは、轢かれることもなく平穏無事だ。人と車が輪を描いて行き交うラワイ広場は、信号機が指示する「進め!」/「止まれ!」という二者択一的で機械的なプロセスとは違って、人間的で有機的な臭いを放っていた。

この「過激な大改造」は、1年で劇的な効果を生んだ。交差点内での渋滞が大きく解消されただけでなく――例えば、バスが交差点を通過するために要する時間が短くなった――、交差点内での交通事故の発生件数が半減したのである。交通量は1年の間にそれまでよりも3分の1だけ増えたにもかかわらずである [3] … Continue reading

それ自体でも十分興味深い実験だが、「自生的秩序」(spontaneous order)の格好の例――命令(指図)(orders)なしに、いかにして秩序(order)が保たれ得るのかを示す例――という意味でも大変興味深いね。

情報を寄せてくれたダニエル・クライン(Daniel Klein)に感謝。

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References

References
1 訳注;最後の画像は、次のブログエントリーから転載したものであることを断わっておく。 ●Aaron Naparstek, “Hans Monderman, Engineer of Livable Streets, 1947-2008”(Streetsblog, January 8, 2008)
2 訳注;モンダーマンによる画期的な試みについては、ヴァンダービルトの次の本の中でも詳しく紹介されている(具体的には、第7章の296ページ~331ページあたり)。 ●トム・ヴァンダービルト(著)/酒井泰介(訳)『となりの車線はなぜスイスイ進むのか?』(早川書房、2008年) 
3 訳注;訳注2で紹介した本では、次のように書かれている。「ハンス・モンダーマンが、ドラフテンの交差点で、人々により不安に感じさせて、より慎重な行動を促したのも、この心理を利用したものだった。住民は彼に『これでは不安だ』と訴えた。彼は私に、『それは素晴らしいことだ』と言った。『彼らがそう言わなければ、すぐに設計変更しただろう』。・・・(略)・・・おもしろいのは、ドラフテンで交差点を広場の中のロータリーに作り替えると、接触事故の回数が減ったことだ(地元の理工大学の初期調査による)。2005年には、一度も事故が起きなかった。ロータリー内の制限速度が低いためもあるだろう。しかし、他にもいくつか、おもしろい事実がある。ロータリーを設置して以来、この交差点の通過時間は、通行量が増えたにもかかわらず、40%も減った。バスが交差点を通過する時間は半減した。同大学の調査によると、あらゆる乗り物は一定の流れを保っているようで、ラッシュ時でさえ、速度は落ちるが、流れ続けていた。・・・(略)・・・報告書には、他にもおもしろい指摘がある。ロータリーの中で、ハンドサインを用いる自転車通行者が増えたということだ。これはオランダでは珍しいことだ。ドライバーもウインカーを多用するようになった。交差点を無事に通り過ぎる責任はいまや人々に委ねられるようになり、その結果彼らは、より緊密にコミュニケーションするようになったのである。その結果、地元での調査では利用者は交差点がより危険になったと感じていたにもかかわらず、この地点は実際にはより安全になったのだ。」(pp. 314~315)
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