クルーグマン「ドイツの政策が経済の足枷になっている」

Paul Krugman “Germany’s Policies Become an Economic Anchor,” Krugman & Co., November 8, 2013.


ドイツの政策が経済の足枷になっている

by ポール・クルーグマン

Djamila Grossman/The New York Times Syndicate
Djamila Grossman/The New York Times Syndicate

ドイツがお怒りだ.アメリカ財務省に激怒してる.財務省から出た「半期国際経済政策・為替レート政策報告書」では,ドイツのマクロ経済政策がいかに世界経済に影響を及ぼしているかについて,否定的なことをいくつか述べている.ドイツの当局に言わせると,この報告書は「理解に苦しむ」そうだ――妙な言いようじゃないか.だって,率直で簡明なことこの上ない報告書だもの.

うん,そうだね.合衆国がアンジェラ・メルケルを盗聴したのは言い訳のしようもない――でも,それはこの件となんの関係もない.それに,ドイツ経済政策について率直な話をしたからって,反ドイツにも反欧州にもなりはしない.ここでも,議論の中身から話をそらすためにそういう非難を持ち込んでくるのは,事実上,相手の話をしぶしぶ是認してるのを証明してるのにひとしい.

というわけで,その議論について.下に掲載してるのは,ユーロ圏の短い歴史だ.ドイツとスペインの2カ国について,とある数字を通して語っている.

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ユーロが創設されたあと,巨額の不均衡が生じた.ものすごい量の資本が中核国から周辺国に流入していったんだ.そのあと,民間資本流入の「突然の停止」が起きた.これによって,周辺諸国は経常赤字をなくさなくてはいけなくなった.ただ,そのプロセスは,公的な融資の供給をとおして減速された.その中心となったのは,中央銀行間の融資だ.周辺国にとってほんとに悪い知らせとなったのは,ここまでのところ,その調節が主に経済の停滞を通してなされていて,競争力の回復によって起きてるわけじゃないってことだ.そのため,その「改善」に対応してスペインにもたらされているのは,25パーセントの失業だ.

通常なら,この調節はおおむね対称的になると予想されるだろうし,そう予想してしかるべきだ.赤字国がその赤字を減らせば,黒字国はその黒字を減らすことになるはずだよね.ところが,実際にはそうなっていない.ドイツはちっとも調節してないんだ.欧州周辺国の経常収支でおきた増加〔赤字減少〕は,それ以外の全世界を犠牲にして生じている.

そして,こいつはほんとにわるいことだ.ぼくらがいる世界は,いまだに低調な需要に支配されているし,倹約のパラドクスにすごく影響されている.つまり,人々がお金を節約しようと意思決定すると,経済全体に被害が出るようになっている.不適切な巨額の黒字を出すことで,ドイツは世界全体での成長と雇用を損なっている.ドイツはこれを「理解に苦しむ」と言うかもしれないけれど,これってマクロ経済学の初歩だかんね.

「でも,経常黒字になってるのはべつにドイツ政府の過ちじゃないのでは?」と言う人がいるかもしれない――でも,それはまちがいだよ.(ぼくもこの罠にはまってたけど,間違いを認めたんだ.) ひとつには,債権者の立場にありながら,ドイツは財政緊縮を追及してる.これによって,ユーロ圏における政策の全体的な引き締めに一役買ってきた.

もちろん,アメリカ財務省が言ってることになにか理があるとドイツ当局が認めるとは,ぼくも予想してない.彼らは,ぼくらが理解するようなマクロ経済学なんて大好きじゃないからね.ドイツ当局の見解はどうやらこんなものらしい――「みんながドイツのようになって,巨額の貿易黒字をたたき出せばいい」.ところがアメリカ財務省が自明な事実をあっさり言ってしまったわけだ.

© The New York Times News Service


【バックストーリー】ここではクルーグマンのコラムが書かれた背景をショーン・トレイナー記者が説明する

需要不足

by ショーン・トレイナー

10月30日にアメリカ財務省が発表した報告書では,ドイツのマクロ経済政策が批判されていた.ドイツが欧州の景気回復を窒息させており,ひいてはグローバル経済も窒息させている,と同報告書は述べている.

ドイツ経済は輸出に立脚していて,何年にもわたって,同国は輸入額をはるかに上回る財を輸出して,大きな貿易黒字を計上してきた.だが,その富にもかかわらず,ドイツ国内経済はあまり発展していない.また,ドイツの市民と企業は支出したり投資するよりも節約に励むよう促されている.財務省報告書に主張によれば,ドイツの立場は目下の経済情勢では無責任であり,同国の政策は人々にもっと支出を促してドイツ以外のユーロ圏の景気回復を助けねばならないという.

これに反応して,ドイツ当局はこう論じている――ドイツは倹約にはげむことで,執拗につづくグローバル経済の難局において強さを見せ続けているのだ

多くの経済学者たちは,グローバル経済の主要問題は需要の欠落だと論じている.金融危機から5年経ったいまも,主要な消費者市場の大半は低迷している.どこの国であろうと,1国だけで,苦境にあえいでいる国々から財を買って景気回復を刺激できるわけがない.伝統的に,グローバル需要は大方がアメリカの消費者市場からやってきていた.アメリカの需要は他の主要国市場よりはちょっとだけ早く回復しつつあるけれど,緩慢なグローバル経済を再起動するには足りない.

近年,ドイツはユーロ圏周辺の苦境にある国々に対して厳しい緊縮政策を実施するよう圧力をかけてきた.そうした政策は,当該の国々で国内需要を急激に抑制し,大恐慌に似た状況に追いやってきた.また,ドイツは自国でも緊縮策を追及してきた.これは,一部のアナリストの目には苦境にある国々にとっての模範となろうという試みだと見られている.こうした政策では,低調な国内需要の穴埋めをするのに十分な外国からの需要があることが前提となっている.

財務省その他の経済学者たちは,ドイツはもはや他の国々に依存するわけにいかない,ドイツは国内で需要を創出しなくてはいけない,と論じている.比較的に経済の堅調な立場から,自国以外の欧州でなされた緊縮の結果として失われた需要にとってかわれるよう,ドイツは国内経済を刺激し国内財の消費と輸入を増やすべきだと,彼らは考える.欧州経済がもっと力強くなれば,他の国々にもっと需要を提供できるようになるだろう.

© The New York Times News Service

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