クルーグマン「欧州経済の誇大広告」/「金利生活者の安楽死」

Paul Krugman, “Economic Exaggerations in Europe,” Krugman & Co., January 31, 2014. [“Running Economies Into the Sand” & “The Euthanasia of the Rentier“]


欧州経済の誇大広告

by ポール・クルーグマン

Doug Mills/The New York Times Syndicate
Doug Mills/The New York Times Syndicate

ふーむ.『フィナンシャル・タイムズ』によると,イギリス首相デイヴィッド・キャメロン政権の盟友たちは,フランス大統領フランソワ・オランドがフランス経済を「台無しにしている」と言って非難しているそうだ――おそらくは,イギリスの好調ぶりと対比してそう言ってるんだろう.

さて,実際の数字で眺めてみるとどんなもんだろう?

グラフを見てもらおう.イギリスとフランスそれぞれの実質 GDP が経済危機のはじまり以来,どんな具合に推移してきたか示してある.どちらの経済も,栄光に充ち満ちて輝いてはいない.ただ,イギリス大勝利って感じには見えないでしょ.

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「はいはい.でも,イギリスの連立政権が成立して以降の展開だけを見た方がいいんじゃないの?」 実は,それってダメな考えなんだよ――経済ってのは深い不況からでもちゃんと立ち直る傾向があるから,イギリスが不況の谷に陥ってからの方が,成長の速度は上がると予想される.〔フランスより〕イギリスの方が不況はいっそう深刻だったからね.とはいえ,見るべきところもある.こっちのグラフを見てみよう.

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明らかに,イギリスの実績はフランスに劣っていたけれど,半年ほど前になって追い越している.ここでも,とても「どうよ」って大いばりするのを正当化するようなしろものじゃあない.

なにが驚嘆に値するかって,いまのところつかの間でしかないし大してパッとしてもいない,たかだか景気循環の上昇局面でしかないものが,政策上のものすごい大勝利みたいに喧伝されてるところだよ.

でもまあ,政治ってそんなもんなのかな.

© The New York Times News Service


金利生活者の安楽死

読者の1人が,この前,ジョン・メイナード・ケインズを引用してた:「我々が暮らす経済社会は,際だった失敗をしている.それは,完全雇用を提供できていないことと,富と所得の恣意的かつ不公正な分布だ.」 いまの時代にもピッタリはまる引用だ.この一節の出典は,『一般理論』の最終章で,あの章はいまのいろんな論争と照らし合わせて再読するに耐えること間違いない.

『一般理論』最終章でケインズが述べていることは,おおむね長期停滞の条件の話だ――いつまでもえんえんと投資の収益は低く,さらに貯蓄の慢性的な過剰供給がそれに加わる.1936年に,ケインズはそんな状態があと数十年も変わりなく続くと思っていたけれど,もちろんそれはまちがいだった.でも,そうした事態の可能性がある点については間違っていなかった.元財務長官のラリー・サマーズがちょっと前に長期停滞論者として論を張って以来,ぼくらが長期停滞にもう入ってるかもしれないという説は主流になっている.

ケインズの文章を見てぼくが「あっ」と目を見張るのは,金利と資本収益について述べているところだ:低金利は,「金利生活者の安楽死をもたらし,その結果として,資本の希少価値を利用する資本家の累積的な抑圧的権力も安楽死を迎えることになるだろう」とケインズは示唆している.

実のところ,いまのところ少なくとも収益は高いままだ――ただ,債権利回りはすごく低い.

ケインズは言わなかったけど,いまや一目瞭然と思われるのは,金利生活者が潔くじぶんたちの安楽死を受け入れることはありそうにないってことだ.そして,そこにこそ,景気が低調でインフレ率が低くても「とにかく金融政策を引き締めろ」とひっきりなしにやかましい要求の声が上がる究極的な理由があるんだと,ぼくは言いたい.これまで何度も書いてきたように,金融引き締め論者たちは,しょっちゅう論拠を変える――問題なのはインフレ率なんだ;いや,健全な市場の機能だ;いや,金融の安定性だ,などなど――でも,決まって結論は同じだ:「金利は上げなきゃダメゼッタイ,いまいまいまいますぐに!」

でね,いまみんなが耳にしてるのは金利生活者たちの声だと思うんだ――金利不労所得生活者たちと,公然とであれこっそりとであれ彼らのために働いてる人たちが,自分たちがコントロールしてる資源が実はもう希少でもなくなっているにも関わらずいい収益にあずかる自然の権利を要求してる声だ.

潔く安楽死を迎えるつもりなんて,さらさらないんだよ.

© The New York Times News Service

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