グリーンウッド他「格差婚がないからアメリカでは格差が拡大する」

Jeremy Greenwood, Nezih Guner, Georgi Kocharkov, Cezar Santos “US inequality due to assortative marriages” (VOX, February 22, 2014)

(2月25日訳者追記:1)この論説に対する批判をhimaginary氏が概要とともに紹介しているので、そちらも参照ください。2)”assortive mating”の訳語を同類婚に変更)

アメリカ人がどのように家族を形成し、また別れるかは、1950年以降劇的に変化してきた。こうした変化のうちのひとつは同類婚、すなわちある人が似たような教育的背景をもつ誰かと結婚する可能性の上昇であった。本稿では、教育が所得の重要な決定要因であり、こうしたカップリングのパターンがアメリカ経済における所得配分に重要な影響を与えてきたことを論じる。


アメリカにおける所得格差は、過去数十年で急激に上昇してきた。これは文献で十分に示されている事実だ(例えばGottschalk and Moffitt 1994, Katz and Autor 1999)。一般大衆もまたこの問題に強く関心を抱いている。USAトゥデイとピュー研究所が最近行った調査では、「自国における経済制度は不当に富裕層を優遇しており」、政府は「お金持ちとそれ以外の全員との間の差を減らすための多くのこと」をしなければならないと大多数の人々が考えていることが示されている。政策決定者もまた、こうしたことに気付いている。2014年の一般教書演説において、アメリカ大統領バラク・オバマは、「議会が同意するか否かに関わらず」経済格差へ取り組むことを誓った。格差がずっと上昇局面にあったのには複数の理由がある可能性がある(概説としては、Gordon and Dew-Becker 2008を参照)。しかし、家族形成が格差へ与える効果というのはどういうものだろうか。

アメリカ人がどのように家族を形成し、また別れるかは、20世紀中盤以降劇的に変化してきた。 [1]原注1;こうした変化の多くを包含する経済モデルについては、Greenwood, Guner, Kocharkov and Santos (2012)を参照。 こうした変化うちのひとつは、経済学者が正の同類婚と呼ぶものだった。この文脈においてこれは、ある人が同じような教育的背景を持つ誰かと結婚する可能性がどれだけかということを意味する。教育は所得の重要な決定要因であるため、こうしたカップリングのパターンがアメリカ経済における所得配分に影響を与えてきた可能性がある。

次のような単純な思考実験を考えてみてほしい。大学へ行った人と行かなかったという2種類の人のみが存在し、両者の数が等しいと仮定しよう。大学へ行った人たちは30ドル稼ぎ、行かなかった人は10ドルを稼ぐ。教育を受けた男性が教育を受けていない女性と結婚し、教育を受けていない男性と教育を受けた女性と結婚するのであれば、全ての家計は合計で40ドル稼ぐことになる。つまり、家計所得は完全に平準化している。ここで、教育を受けた人たちは教育を受けた人としか結婚しない世界を想像してみよう。その場合、教育を受けた男性と教育を受けた女性からなる家計は60ドル稼ぐのに対し、教育を受けていない夫婦からなる家計は20ドルを稼ぐ。所得配分の頂点に位置する家計は、底辺に位置する家計の3倍の所得を得ることとなる。

もちろん上記の例は現実を飛躍的に単純化したものだが、アメリカで実際に存在している重要な傾向を捉えている。これによる影響を調べるため、私たちはアメリカ統計局による数千戸の家計からなるサンプルを1960年から2005年までの期間について調査した(Greenwood, Guner, Kocharkov and Santos 2014を参照)。この分析の結論は、アメリカにおける家計所得格差上昇の決定要因を説明するにあたって、同類婚の増加と既婚女性の労働力参加との相乗が重要であるというものだ。

正の同類婚の上昇

同類婚の程度はどうすれば測ることができるだろうか。教育水準を次の5つの分類に分けることを考えてみよう。すなわち、高卒未満、高卒、大学中退、大卒、院卒だ。夫と妻の教育水準の関係は、ケンドールのタウ統計量を使って測ることができる。この統計は、2つの系列の一致の度合いを測るもので、その2系列はここでは夫と妻の教育だ。簡単に言えば、この統計量が高いほど同類婚の程度も高いことになる。ケンドールのタウの変化は図1で示されている。全期間を通じて系列が上昇していないにもかかわらず、2005年の統計量は1960年と比べて明らかに高い。

図1.同類婚の増加
santos fig1 21 feb

所得格差の拡大

所得格差を測るのには様々な方法がある。ひとつはローレンツ曲線を使うものだ。ローレンツ曲線図における水平軸は、家計のパーセンタイルで並べたものだ。つまり、第20パーセンタイルは0.2で表されている。垂直軸はそのパーセンタイル以下の全ての家計の稼ぐ所得が、経済における全所得に対して占める割合を示す。45度線は所得の完全な平等を表している。アメリカの実際のローレンツ曲線の位置は、45度線よりも下だ。ローレンツ曲線が45度線から遠ざかるほど、所得配分がより不平等ということになる。1960年と2005年のローレンツ曲線は図2の左側のグラフに示してある。これが示しているのは格差の拡大だ。45度線とローレンツ曲線の間の面積は所得格差の大きさだ。ジニ係数とはこの面積を2倍したものを言う。ジニ係数は所得が完全に平等である場合に0の値をとり、最上位パーセンタイルが経済の全所得を稼ぐ場合には1の値をとる。1960年に0.34だったジニ係数(g)は、2005年には0.43に上昇している。右側のグラフは各分位数の相対所得を示していて、一番右が一番裕福で一番左が一番貧乏という形になっている。1960年には最も貧しい第10パーセンタイルは平均所得の16%を稼いでいた。これが2005年には8%に落ち込んでいる。最も裕福な第90パーセンタイルは、1960年には平均所得の251%を稼いでいたのに対し、2005年には317%となっている。つまり、2005年では所得はより偏在するようになっている。

図2.1960年と2005年の所得格差
santos fig2 21 feb

同類婚と所得格差

データ上では同類婚と所得格差の両方が上昇してきている。結婚相手の選別は家計所得の格差にどのように影響するのだろうか。この問いについての関心には、前例がないわけではない。例えばCancian and Reed (1998) や Schwartz (2010)はともに、同類婚の増加が所得格差の拡大を招いたと結論付けている。しかしながら私たちの研究においては、この問いに対して会計に基づく手法を用いて取り組むもので、そこが先行研究とは大きく異なっている。アメリカ統計局のサンプルにある教育水準が異なる夫婦からなる家計を考えてみてほしい。まずは1960年に焦点を当てる。この年、高卒未満しか教育を受けていない女性が似たような教育を受けた男性と結婚していたとすると、彼らの家計所得は平均家計所得(単身者と夫婦の双方を含む全家計)の77%となる。同じ女性が大卒の男性と結婚したとすると、その場合の家計所得は平均の124%となる。その一方2005年においては、大学院教育を受けた女性が高卒未満の男性と結婚したとすると、彼らの所得は平均家計所得の92%となる。夫も大学教育を受けていた場合にはそれが219%まで上昇する。というわけで、その程度はともかく、家計所得にとって教育は重要だ。

それではその影響をどうすれば数値的に測ることができるだろうか。ひとつの方法は、またもやローレンツ曲線を用いるとともにいくつかの思考実験を行うことだ。次のような実験を考えてみてほしい。すなわち、カップリングが上述のデータのような同類婚ではなく、完全にランダムだった場合、所得格差はどうなっていただろうかというものだ。実際のカップリングパターンからランダムなパターンにすることによる、1960年の所得への影響はほとんど認められない。ジニ係数は0.34から0.33へとわずかに下落するだけだ。同じ実験を2005年についても行うと所得格差へ顕著な影響が表れ、それは図3の左側のグラフで示されている。そこで見て取れるように、ローレンツ曲線は完全平等の線に近づくようにシフトし、ジニ係数は0.43から0.34に下落する。

もうひとつ興味深い思考実験は、1960年と全く同じ組み合わせの夫婦が2005年にできたとしたら所得格差はどうなっていたかを考えるものだ。これは先のものよりも行うのが難しい。2005年の人たちは、1960年と比べると一般的により教育を受けているからだ。この実験は結婚相手の選別についてのデータを標準化することで可能となる。 [2]原注2;この手法はMosteller … Continue reading 結果は図3の右側のグラフに示されている。1960年のカップリングパターンを、2005年の各教育水準における所得配分に対して適用すると、ローレンツ曲線は完全平等の線へと近づくようにシフトし、またもや格差は縮小する。このことは、ジニ係数が元々の0.43から実験後の0.35へと下落することによっても確認できる。というわけで、1960年に観察されたカップリングパターンを標準化したものの通りに2005年の人たちが結婚していれば、夫と妻の間で家計所得がよりばらつくために、所得格差は縮小していたのだ。

図3.同類婚の格差への影響
santos fig3 21 feb

References

References
1 原注1;こうした変化の多くを包含する経済モデルについては、Greenwood, Guner, Kocharkov and Santos (2012)を参照。
2 原注2;この手法はMosteller (1968)で示されたものにしたがっている。この手法を現代の問題に対してどのように応用するかについての議論は、Greenwood, Guner, Kocharkov and Santos (2014)を参照。
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    1. コメントありがとうございます。
      私は著者ではないので結局は推測でしかないのですが、この論説の意図は生物学的あるいは優生学的なものではなく、あくまで所得格差の一要因として結婚相手の選択にバイアスがかかっていることがあることを示す(そしてひいては再分配、社会保障政策の立案にそうした知見を提供する)ということにあるのだと思います。
      “assortative mating”に同類交配という訳語を当ててしまったために誤解を招きやすくなってしまいました。最後まで同類婚と迷ったのですが、そちらにすべきだったかもしれません。

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